『こんなに香水あるけど、全部使ってんの?』
『気分によって使い分けてるよ。うまく使えばインテリアにもなるし』
『ふーん……ちなみに、今付けてるのはどれ?』

ジーノの手首に鼻を近付けた達海が目をふせる。
セクシーだなあ、とぼんやり思いながらジーノは彼に手を伸ばし、そのまま抱きしめた。

『あの瓶。青いの』
『へえ……』
『もういい?……待つのは飽きたよ』

「……ん」

昨晩達海とそんな会話をしたことなどはすっかり忘れ、ジーノは幸せな顔で熟睡していた。
(朝……?)
うっすらと目が覚めても幸せの余韻を纏ったままのジーノが、その理由である、隣で眠っている達海を抱きしめ、その手を取って。
盛大に顔をしかめた。

「……タッツミー?」
「おー、おはよ」

いつものように達海の手の甲にキスをしようとすると、それを阻んできたのは強烈な、すぐに目が覚めるほどの濃い匂いだったのだ。

「なに、……僕の香水?うわ、つけすぎだよこれ…、どうしたの」
「つけすぎ?んー…お前のせいで鼻おかしくなったかな…、っぶ、げほっ」

首を傾げて自分の手首の匂いを嗅ぎ、咳き込む達海をジーノはじとりと見る。

「……ほらね、手洗ってきなよ」

そう言うと、思ったより素直にベッドから出ていく達海の後ろ姿。
少し前にハマっていた香りを振り撒いて、よたよたと洗面所へ向かう達海を、ジーノは手をひらひらとさせて見送った。

「やれやれ……素晴らしい目覚めだね」

(それにしても)
今日はどうしたのやら。
相変わらず読めない恋人を微笑ましく思っていると、少しばつが悪そうに達海が帰ってくる。

「で、さっきのはなに?」
「……ちょっと試してみたかったんだよ」

唇を尖らせた達海は、最近ちょっと香水が気になると呟く。
(意外だ)
そういうものには全く興味がなさそうなのにとジーノが素直に言うと、まああんまり興味はないけど、とよくわからない返事があった。
これは何か隠してるな、と少しまだ先程の香水の匂いが残る体を抱きしめる。

「僕の匂いにいつも包まれていたいなんてかわいい理由だったら、こんなもの付けなくても、いつでもこうして抱きしめてあげるよ?」
「それはいいや」
「はは!ハッキリしてるところも愛してるよ、……でも、香水にも合う合わないがあるんだよ、タッツミー」

そして、残念ながらさっきのものは達海には合わなかった。
自分に合うものを揃えたから当然とも思う。
それに加えて、達海にはもう少し甘いものを使ってほしい、そんな私情。
そこまで考えたところで、ジーノはふと、一つだけ持っている、ほとんど使っていない香水を思い出した。

「あ。ちょっと待ってて、タッツミー」

その香りがどうしようもなく気に入って買った小さな瓶。だけど予想通り、自分には合わなかったそれ。
棚の真ん中に、大事にしまってあった小瓶を持ってまたベッドに座り、達海の手をとった。

「この香りはどう?嫌いじゃないかな?」
「ん」
「じゃあちょっと失礼」

ほんの少しだけ達海の手首に香水を付けると、ジーノが好きな甘い香りが広がる。
いつもの達海のかすかな、シャンプーと少しの汗の匂いが消えるのはもったいない。けれど、こういうのも悪くないかもとジーノは口元を緩めた。

「さっきのよりずっといいよ、気に入ったならあげる」
「さんきゅ。じゃあもらっとく」

お礼に、とめったにない達海からのキスがまぶたへ降ってきて、ジーノは目を閉じる。
頬へ添えられた手からは甘い香りがして、ゆっくりとそこに自分の手を重ねた。
(素敵な朝だ)
さあ今日はなにをしようか、そう思いながらはたと目をあける。ひとつ、聞き忘れていた。

「ねえタッツミー、どうして香水が欲しかったの?」
「別に、すげー理由はないよ」
「うそ。教えてよ」
「だからー……」

耳元で囁かれた声にジーノは思わず笑みをこぼして、達海をぎゅうぎゅうと抱きしめた。
照れているのか、抱きしめ返してくる細い体。
近付けば近付くほど、達海から甘い香りがふわりと届いた。


『お前とずっとこうしてると、自分からジーノの匂いがして気が気じゃないんだよ』





end

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