ねえ今日は日本人っぽい大晦日をすごしたいな、それで、年を越す瞬間にはキスをしていようよ。
ジーノがそう言ったのは、ちょうど年越し30分前。恒例の歌番組が終わる直前だった。
ああうん別にいいよ、そんな風に適当な返事をして、歌番組に飽きていたらしいジーノに達海がぎゅうぎゅう抱きしめられていると、気付けば年越し10分前。

「あ、ちょっと待て、離してジーノ」

少し眠たげに時計を見た達海が、面倒臭そうにジーノの腕を振りほどいた。

「なんで?あ…もう…タッツミー……」
「日本らしい正月を体験したいとか言ったのはジーノじゃん」

蕎麦ぐらいなら俺にも作れる、そう豪語して、水の入った鍋を火にかける達海。
じいっとまだ変化のない鍋を少し見つめてから、達海はつまらなさそうな視線を送ってくるジーノをますます面倒臭そうに振り返った。

「なのにジーノ…お前、ワガママ」
「ワガママじゃなくて愛情表現。おいでタッツミー、もうカウントダウンだよ」
「えー、火見とかねーと……」
「もう!」

焦れて立ち上がったジーノが、菜箸を持ったままの達海を後ろから抱きしめる。
はたしてテレビからなのか外からなのかわからない、ラスト数発の鐘の音。それを聞きながら達海に顔を近付けるジーノ、そしてちょうどその時に鍋のお湯がこぽりと音を立てた。

「わ、ちょ、ジーノ、…っ」
「うん、今年もよろしくね……」

息さえ奪われるような深い口づけをしている間に、最後の鐘が響き終わる。
ねえ、ロマンチックだね。
そう言いたげなジーノの瞳を余所に、達海は腕を伸ばして火を止めた。
カチカチカチ、と鳴った音に、ジーノは眉をひそめる。

「……たーっつみー?」
「蕎麦できた。食べようぜ、ほら」

今にも開いて、ムードがなんだと言いそうなジーノの口を目で封じてから、達海はシンプルな年越し蕎麦を完成させて振り返った。

「タッツミー…あのねえ……、う…おいしそう」
「だろ」

もう年越しちゃった蕎麦だけど、と言いながらソファーの前のテーブルにそれを置いて、達海は苦笑する。

「とりあえず食お、ロマンチックなのはまあ…来年すればいいじゃん?」
「……そんなこと言ってさ、絶対忘れてるよタッツミーは…」

ぶつぶつと呟きながら蕎麦を一口食べたジーノが、「おいしい」と零した。

「……それはよかった。じゃあまあ、……ジーノ」
「ん?」
「今年もどうぞよろしくお願いします」

ぺこり、と頭を下げた達海。改まった態度に思わず吹き出したジーノが、口のまわりを拭う。

「やっぱり色気にはほど遠いな」

それから一度箸を置いて、同じようにジーノもぺこりと頭を下げたのだった。





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