せっかくのクリスマスイブなのに、タイミングを逃して達海を誘うことが出来なかった。
だけどせめてプレゼントは渡したいと思い立って、買っておいたプレゼントを掴んで家を飛び出す、それが少し前の話。
なにも考えずに到着したクラブハウスはもうとっくに鍵が閉まっていて、しんとしていた。
外だけでなくクラブハウスももう真っ暗で、いつもならもう達海は寝てしまっている時間だけれど、なんとなく、今日は違う気がする。
「……椿、こんな時間になにしてんの。不審者だよ」
「こんばんは。メリークリスマス、ッスから」
思いが通じたように開いた窓に、椿は笑いかけた。
今にも雪が降りそうなほど、しんと静まり返った空気に、達海の声が響く。
「そうだった。……寒いだろ、入ってこいよ」
「……ッス」
ひらひらと揺れる手の平に誘われるまま、椿は冷えきった体を弾ませた。
椿を部屋に招き入れるなり、寒い寒いと呟いて布団の中に戻る達海。
椿がそっとベッドの端に腰掛けると、くぐもった声で達海がいう。
「誰かさんが誘ってくれなかったから、クリスマスなんて忘れてたよ」
「すみません……怒ってます、よね?」
「怒ってないよ、ちょっと俺の言葉が足りなかったのかも」
もぞもぞと布団が動き、達海が顔を出した。ゆっくりと伸ばされた手は椿の頬に触れて、その温度に達海は苦笑する。
「冷たい。……なあ椿、もうちょっとわがまま言って。……近くに来てよ」
「でも」
(子供扱いされたくない)
いつかなにかの折で言った台詞を飲み込むけれど、達海はお見通しのよう。ふっと笑った大好きな人に、胸が苦しくなった。
「甘やかしたいし、甘やかされたいの。椿がこっちに来ねえと、どっちも出来ないんだからさ」
にひ、と笑いながら達海が布団を捲る。
「ほら、おいで。明日の予定、あけておいた俺に感謝しろよ」
「達海さん…!」
ぎゅう、と達海の体を抱きしめると、「椿の手、冷たい」と怒る声がした。
「じゃあ、あたためて」
唇が触れそうな距離で囁くと、達海は笑う。
「そう、それでいいよ。あっためてやる」
自然に重なる唇に熱を与えられながら、椿は持ってきたプレゼントを思い出した。
眠った彼の枕元に置いたら、明日、笑顔を見せてくれるだろうか。
考えただけで楽しみでたまらない。
「達海さん、明日、予定いれないでくれてありがとうっす」
思わず浮かれてそう言うと、いつもよりずっと素直な達海が、「いいよ俺も会いたかったから」と椿に囁いた。
(クリスマス、ありがとう…)
しかし、クリスマス限定の素直の魔法にじんわりと椿が余韻にひたっていると、達海がにやりと笑う。
「今日はめちゃくちゃにしちゃってよ、椿。お前なしじゃいられなくなるくらいに」
「な……っ」
そうしたら不安もなくなるだろ?挑発的な笑みの達海に、先程の感動もどこへやら。
ごくんと喉を鳴らした椿が、達海を抱きしめる腕に力を入れる。
「やりすぎっす、達海さん……」
「でも、ホンネだけどね」
「ああもう!」
少し効き過ぎのクリスマスの魔法に椿が負けるのは、日付が変わる頃だったとか。
end