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▽たるちと主人公が腐ってます、キャラ×キャラの話も少ししてます




『攻めの反対語は?』
「受け」

 こうして私が同僚のエリートサラリーマン茅ヶ崎が腐男子だと知って早数ヶ月、職場での彼は今日も絶好調で王子様だ。しかし女の子たちににこやかに対応しているその脳内で、男の子同士のとんでもない妄想をしていることを知っている私はもうとても王子様として見ることはできなかった。そして昼休み、そんな茅ヶ崎と一緒に昼食をとるのはもう定番化していた。

「あ~~~~最悪、体力漏れてるし。無駄に長く話すんじゃなかった」
『いつもお疲れ様です』
「もっと労って」
『労いに魔法のカードでも…って思ったけど今私の推しイベ中だから普通に無理』
「えー次イベ俺の推しの彼氏のイベかもしれないのに」
『知らん。自分の推しもその彼氏も自分で養え』

 ちなみにここで茅ヶ崎が言っている彼氏とはもちろん公式の設定ではなく、茅ヶ崎の脳内の設定である。私たちは昼ごはんを食べながら揃って器用にスマホをタップしている。仕事中で唯一気が抜ける瞬間だ。

「あ、名字昨日のアニメ見た?俺の推しカプがついに付き合ったんだけど」
『えっ待ってどっちがどっち?』
「A×B」
『大天才』
「逆カプ戦争神回避」

 お互いに無駄な戦争は避けたい。気が抜けるオタク友達が職場でもようやくできたのに、逆カプでその友情を壊すのは勿体無い。解釈不一致による戦争もまたしかり。

『ねえそういや茅ヶ崎って劇団に所属したんでしょ?』
「あーちょっと待ってこれだけ終わらせる……。オッケー、うんそう。寮にも入ってる」
『…確か団員は男だけだよね』
「そう!その話ししたかった!」

 急に目を輝かせた茅ヶ崎が私の方にずいっと顔を近づけてきた。彼がクソキモオタ腐男子干物野郎とは知っているが、やはり彼の顔面は心臓に悪いのでそういうことはやめてほしい。あと今度私の推しのコスしてほしい。

「4組に5人ずつ所属しててそれぞれ3部屋割り当てられてるから必然的に同室が…」
『は?二次元か?』
「いや気が早すぎわろた。それくらいなら普通にあるから。問題なのはここから…その組み合わせ…」
『ゴクリ』
「(口でゴクリって言う人初めて見た)ネオヤンキー×一匹狼ヤンキーのケンカップルとか俺様天才役者×毒舌生意気女装っ子とかいろんなカプ妄想できるんだけどどう?」
『まずネオヤンキーってなんや』

 そこから茅ヶ崎によるMANKAIカンパニーなる劇団の説明が始まった。だいたいの話を聴き終わった私の口から知らず知らずのうちに言葉が漏れていた。

『いや二次元かよ…』
「それな」
『そんなん茅ヶ崎の天国じゃん』
「毎日楽しんでおります」
『…ちなみに茅ヶ崎に同室はいないの?』
「俺で妄想するのはNG」

 根っからの腐女子なんで多少の妄想は許してほしい。本人には言ったことはないが、実は茅ヶ崎と同僚の社員でも妄想してます、絶対言わないけど。

「んでどう?推しカプいそう?」
『んー…話し聞いただけじゃなんとも言えないからなー顔見なきゃなー。ねえ今度の公演いつ?』
「えっ観に来る気?」
『観なきゃわかんないし。それに茅ヶ崎の演技も観てみたかったんだよね』
「俺はついでかよ、てか今は俺たちの組公演やってないし」

 なんだ残念、わりと本気で観たかったんだけど。私が残念がっていることに気づいたのか、茅ヶ崎は少しの思案後一つの提案をした。

「…次やる時招待してやってもいいけど」
『えっほんと?てか悪いから普通にチケ買うよ』
「いーから、ここはおとなしく男性に奢られてなさい」

 招待が茅ヶ崎の奢りと呼ぶのかはわからないが、これで無事茅ヶ崎の舞台を観に行けそうだ。

「楽屋とかにも案内するからちょっと早めにきてね」
『茅ヶ崎そんな権限あるの?』
「いやないけど平気でしょ」
『適当だなー、まあ顔見て話せれば誰がいいとか推しカプとか決まるだろうから嬉しいけど』
「は?話させないけど」
『は?』

 お互いを何言ってんだこいつみたいな顔で見合う。えっ私変なこと言った?いや言ってないわ、これは茅ヶ崎がおかしい。

「別に話さなくても顔見るだけでわかるでしょ、俺が性格とか説明するし」
『でも人から聞くより本人と話した方がわかるじゃん。てか挨拶くらいしないと失礼だし』
「平気平気。俺から言っておくから」
『…なに?そんなに私が劇団員さんたちと話のが嫌なわけ?』

 私がちょっとムッとしたような顔を茅ヶ崎に向ける。そこで茅ヶ崎は一旦口をキュッと結んだ後、私から目をそらしながらもう一度口を開いた。

「……だって会話して恋されたら…俺が困るし」
『え?なんて言った?』
「急にラノベ主人公特有の難聴やめて」