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モブ視点の丞と長編主

 今日は待ちに待った舞台の日!この日のために今日まで仕事を頑張ったと言ってもちっとも過言ではない。それくらいに生きがいだった。しかも今日見る舞台には客演としてあの高遠丞が出ると聞いたらそりゃ楽しみが倍増するだろう。

 彼はGOD座に所属していて、私も何度か観に行ったことがあるが彼の演技は素晴らしかった。ビジュアルも最高に王子様だったことを鮮明に覚えている。元々好きだった舞台と好きだった役者が出ると聞いては期待してしまうのは仕方がないことだと思う。











 最高だった。最高の舞台だった。あの…本当に最高で、途中何度涙を拭ったことか。そしてやっぱり高遠丞はすごかった。他劇団の客演とあってそこまで大きな役どころではなかったが、それでもわかるほど彼の演技は素晴らしかった。あの頃と変わらない、いやあの頃以上に進化していた。これは今彼が所属しているというMANKAIカンパニーの舞台も一度観に行かなければ…と観劇を検討しながら休憩しようと近くのカフェに向かって歩いている時、明らかに見覚えのある男が目に入った。

 ………え、もしかしなくても高遠丞?帽子かぶってるけど間違いなく高遠丞だよね?いやめちゃくちゃ目立つでしょ、まだ舞台終わってそんな経ってないよ!?てか帰るの早ッ!客と同じタイミングってどんだけ早いんだよ。誰か待ってる感じだ…、気になるけどあんまりジロジロ見るのも悪いよね、さっさとカフェ行こ。私が再び歩き出した時、高遠丞は誰かを見つけたようでそちらに向かって手を振っていた。私の後ろ?つられて振り向くと眼鏡にマスクをつけた男の人が歩いていた。高遠丞ほどじゃないけどこの人も背高いな……………ちょっと待って、え?名字名前?

『お疲れ様です高遠さん』
「ありがとうございます名字さん」

 あーーーー間違いなく名字名前。眼鏡とマスクで顔隠してるけどわかる…あれは名字名前。あんま数は行けてないけど、彼の舞台は一度一度の印象が大きい。忘れられるはずがないのだ。というか私の後ろから来たってことはまさか名字名前も高遠丞の舞台を観劇してた?それで終わったから会ってこれからご飯でもどうですかってか?あぁん?

「この劇場の近くにカフェあるんですけどそこでどうですか?軽食とかもあると思います」
『ではそこで』

 案の定かー、しかもそれ私が行くカフェじゃん。うんこれは不可抗力、たまたま行こうと思っていたカフェがたまたま二人が行くカフェと一緒だっただけだから、たまたま。

 二人に続いてカフェに入って観察出来る席に座ってアイスティー頼んだ。二人は何を話してるんだろう…

『高遠さんが演じたロウリィが初めて出て来るシーン、ライトの使い方が特殊だなと思ったんですがあれは演出ですか?』
「ああ、あそこは劇団の監督さんとも相談して決めました。それに合わせて稽古も変えたんですが、結果的に良くなりましたね」
『やぱりそうだったんですね…あの演出だとロウリィの性格やこれからやることが…───』
「序盤はあまり出番がなかったので、あのくらい特殊な方が…───」

 え、演劇バカだ…!マジで二人とも演劇の話しかしてない………演出から演技や大道具のことまで限りがない。プライベート的な話もしないかなってちょっと期待しちゃったりなんかしちゃってたけど、そんなことなかった。ずっっっと演劇の話、エンドレス。私のアイスティーもいつの間にか水滴がグラスにびっしりだ。

『ふう…たくさんお話ししてたら時間を忘れちゃいますね…』
「そうですね、演劇の話を名字さんとここまで密に出来る機会もなかなかないですからつい話しすぎちゃいます」
『休憩にデザートでも食べますか?』
「じゃあ俺は…このガトーショコラで」
『私は…どうしましょう……』
「おすすめにショートケーキってありますよ。これなんかいいんじゃないですか?」
『ではショートケーキにします』

 な、なんか…可愛い……なんだろう…よくわからないけど…なんかこの二人のやりとり可愛いな……。

『あ、きましたね』
「…うん、甘すぎなくて美味いな」
『私が選んだショートケーキもとても美味しいです。自家製のクリームがなめらかで口どけが柔らかいです』
「へぇ…美味しそうですね」
『一口食べてみますか?』
「いいんですか?じゃあお言葉に甘えて………あー…ほんとだ、美味しいです」

 今あーんってした?気のせい?私の夢?

「俺のもどうぞ」
『いただきます………うん、上のカリカリのところが美味しいです』

 まッまた…!またあーんってしたッ!!!夢じゃない!!これは現実!!!!圧倒的現実…!

 二人ともあーんとか全然気にしないタイプ?全く照れもせず当たり前のことのようにやってたし…間接キスも周りのことも気にしてなかったし、男の人同士ってそういうものなのかな。

『あ、すみませんマネージャーから連絡きてました…ちょっと連絡してきますね』
「わかりました」

 名字名前は携帯を手にカフェの外へ出て行った。どっちを見ればいいんだ…とりあえず一人残った高遠丞を見よう………

「…………ッハァ…」

 え、めっちゃ顔赤くしてため息ついてる。大きな手で見えないように顔を隠してるけど、私がいる位置からはちょうどその真っ赤な顔が見えてしまった。

 た、高遠丞めっちゃ照れてるーーーッ!!さっきは「こんなのなんてことないぜ」って感じで全く照れてなかったのに、一人になった途端にそれ!?ほんとはめちゃくちゃ照れてたけど隠してたの!?ここで演技力使ったの!?いやでもここ使い所だよ!なにかすごいものを見てしまった気がする…あーんも間接キスもすごく照れてたんだ…。

『すみません、お待たせしました』
「いえ、連絡大丈夫でした?」
『はい急ぎの連絡ではなかったので』

 名字名前が戻ってきた途端いつもの表情に戻ってる…す、すごい……それに対して何も気づいていない名字名前、ニコニコと笑顔で「ショートケーキ、もう一口いかがですか?」とケーキを乗せたフォークを差し出している。あ、悪魔だ…笑顔の小悪魔だ………それをやんわりと断っている高遠丞…心中お察しします。

 とりあえず私の中でMANKAIカンパニーの観劇と、名字名前が出演する舞台のチケットを死ぬ気でもぎ取る決意をした。




(拍手ありがとうございました!)