東雲さまからの頂き物! | ナノ





神のみぞ知る

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大人静雄×中学生臨也。

















「シズちゃん。…、シズちゃん、シズちゃん…」
「あんだよ。っせーな」
「…聞こえてる?俺の声…」
「あ?」
「ちゃんと、シズちゃんに届いてる…?」
カタカタと頼りなさ気に震える細い肩。怯えた瞳と折れてしないそうな小さな身体は今にも壊れてしまいそうな程に脆く、安心させるべくその痩身を腕の中へと閉じ込めた。一切の手加減をしないままに抱き留め、骨が軋むまで力を込める。するりと背中へ回された細腕は抵抗を示すものかと思いきや、縋り付くような吐息とも溜息とも呼べないものが唇から吐き出された。しずちゃん、とたどたどしく紡がれた渾名。瞬間胸に広がった苦味からは、敢えて目を背けることにする。
「ったく、手前は何テンパってんだ」
「うん、ごめん…」
「だーかーら、何か俺に謝らなきゃなんねえことでもあんのか?」
「………」
「ねえだろうが。俺にまで気を遣う必要はねえよ」
「………」
「返事は?」
「う、ん…」
「良い子にはご褒美、な」
「んっ、シズ、ちゃ…」
柔らかな薄い唇を塞ぎ、反射的に開かれた咥内へと舌を滑り込ませる。期待したように上擦る甘い悲鳴を取り込み、粘膜同士を絡ませ合う行為に没頭した。ざらざらとした表面を楽しみ、裏側に溜まった唾液を啜るとふっと力が抜ける。上顎を擦り、歯茎にも舌を這わせた。震えだす小さな身体が愛おしくて、流し込んだ唾液を飲み下す様は弱冠14歳とは思えない程扇情的である。うっすらと目を開け、彼の表情を確かめた。真紅に染まったまろやかな頬。それは陶器のように白く、しかし肌触りは滑らか過ぎるほどで。目尻から堪え切れなかった涙が零れ落ちた筋を指の腹でなぞり、一瞬唇を離した。
「あっ…?」
「酸素、吸っとけよ」
「シズちゃ…?ふあっ…!」
繋がっていた唾液の糸は呆気なく途切れ、揺れる肩で息を吸ったことを確認すると再び唇を奪った。スイッチが入ったのか積極的に絡ませ始めた舌を甘噛みしてやると、腕の中で大袈裟に身体が跳ね上がる。付け根を思いっ切り吸うと溢れ出した唾液が恐ろしく甘いと思ったのは、おそらく勘違いではない筈だ。ぴちゃりと漏れる粘着質な水音。鼓膜を犯すように、それはゆっくりと侵略していく。訳もなく煽られた。目の前が真っ赤に染まり、世界が塗り潰されていく。折原臨也という一回り以上も歳の離れた存在によって、これまで形成されていたちっぽけな世界はいとも簡単に変革が齎されたのだ。
「ふ、はっ…」
「ん…、大丈夫か…?」
「へーき、だよ…」
「全然平気そうじゃねえけどな」
「も、意地悪言わないでよ…」
「手前見てると追い詰めたくなっちまうんだから仕方ねえだろ」
「ふふっ、シズちゃんの方が俺より子供みたいだね」
「あ?」
「かわいい」
膝の上に乗せた臨也が甘えるように胸板へと頬を摺り寄せ、しずちゃん、と鳴いた。肩から外れ落ちそうなワイシャツは臨也のものではない。サイズが違いすぎるそれから覗く胸の突起や鎖骨は目に毒で、気が付けば剥き出しの首筋へと噛み付いていた。皮膚に犬歯が喰い込む感覚は興奮しか生み出さず、このまま動脈を引き裂けば。臨也は大した抵抗も示さないままそれらを甘受するだろう。こうして目立つ場所に所有印を刻まれる度、酷く満たされたように吐息を零すのだ。求められた証だと臨也は言っていた。醜い筈の独占欲を慈しむように触れ、幸せだと微笑む。果たしてこれが彼にとって幸せであるのか、明確な回答は導き出せないままであった。
「ね、今日は一緒に寝れる?」
「おう。悪かったな、こんな所にまで仕事持ち帰っちまって」
「うんん、シズちゃんは悪くないよ。俺がシズちゃんと一緒に寝たいって我が儘言ったりするから、シズちゃんは気を遣っちゃうんだよね…。ごめんなさい…」
「あーっ、クソ…。何でそうなんだよ…」
「え?」
「あのなあ、俺が手前と一緒にいたいんだよ。知ってんだろ?手前がいねえと駄目なことくれえは」
「っ、…」
「おら、何離れようとしてんだ。今日は離してやんねえぞ」
「…シズ、ちゃん…」
「あとあんま泣くんじゃねえ。目も腫れるし、興奮すんだよ」
「も、ばかシズちゃん…」
「おいこら手前喧嘩売ってんのか?」
「そうじゃないもん」
ぎゅっと抱き付かれ、手触りの良い黒髪を優しく梳いてやる。すき、シズちゃんすき、だいすき、と譫言のように何度も何度も愛の告白を繰り返された。耳朶に口付けを落とし、優しく吸い付くような動作に切り替える。そこが弱いことを知りながらも、敢えて攻め立てるのは大人の狡さと言われても反論は出来ない。
「そろそろ寝るか?」
「んー…」
「どうした?」
「紅茶飲みたい…」
「駄目だ」
「…、シズちゃんのケチ。そう言っていっつも飲ませてくれないんだ」
「眠れねえってぐずるのは手前だろうが。ただでさえ不眠気味なんだ、ココアかホットミルクなら許してやる」
「……。ココアはシズちゃんが飲みたいんでしょ?」
「あー…」
「じゃあ俺ホットミルク!蜂蜜入りのやつ」
「はいはい、お子様仕様な」
「お、俺は子供じゃないもん…!」
「そういうことにしといてやるよ」
唇を尖らせて拗ねる表情が可愛いと思いながら、そっと臨也の腋の下に手を入れた。そのまま軽々と抱き上げると、出来るだけ衝撃を与えないよう優しくマットレスの上に下ろす。確か瓶詰めの牛乳があった筈だ、と冷蔵庫の中身を脳内で思い出していた瞬間。くっと背中に感じる違和感に首を傾げた。
「臨也?」
「…どこ行くの?」
「キッチンに決まってんだろうが」
「………」
「臨也?」
「俺も一緒に行って良い?」
「はあ?んなもん一々俺にお伺い立てることでもねえだろ」
「…、シズちゃん…」
「わりい、手前はそういう奴だったな」
今にも泣き出しそうな臨也の頭を少々乱暴に掌で掻き混ぜる。戸惑いがちに視線を彷徨わせ、ほっそりとした腕が伸ばされた。それを絡め取って抱き寄せ、大して重さを感じない身体を持ち上げる。元々少食なのか、それとも食物が筋肉にも脂肪にもなり得ない体質なのかは定かでない。しかし腕に感じる重みはあまりにも軽過ぎて、意図せず壊してしまいそうで、正体不明の恐怖が下腹部からずくずくと湧き上がった。ぎゅっと力が込められる。痛みは感じない。無論物理的な痛みは、の話だが。
「泣くんじゃねえよ」
「泣いてない、もん…」
「へえ?鼻声なのは気の所為か?」
「か、ぜ、引いたの…」
「じゃあ明日は病院だな。付き合ってやるよ」
「あ、明日には治ってる…!」
「そりゃ随分都合のいい風邪だ」
くつりと喉奥で笑うと、反論出来ないのかそれ以上は口を噤んでしまう。湿ったシャツは事実を語るに十分過ぎる証拠だが、これ以上攻めると本格的に泣き出しかねない。ベッドの中でなら兎も角、それ以外で見る愛おしい子供の泣き顔は心臓を弾丸で貫かれるよりも痛いものだ。ほろほろと零れ落ちる涙がいっそのこと枯渇してしまえば良いのに、と非現実的なことを何度思ったかは分からない。思えば出会った時から。涙こそ流してはいなかったものの、小さ過ぎる身体では受け止めきれない程の悲しみを抱えていた。今でこそ自然な笑みを浮かべることが出来るようにはなったが、未だ傷が癒えたと断言することは出来ない。早く忘れちまえ、と奥底で燻った感情をぶつけるべく柔肌に爪を立てた。余計なものなど全てを捨て去り、狭過ぎる世界を盲目的に遮断してしまえば。きっと、臨也の幸せに繋がる筈なのに。
「シズちゃん」
「何だ?」
「俺ね、シズちゃんのことホントにだいすきだよ」
「…手前はいつも唐突だな」
「そうかなあ…。俺はいつでもシズちゃんのことしか考えてないよ?頭からシズちゃんにばりばり食べて貰ったら、シズちゃんが死ぬまで俺達は一緒なのにね」
「………」
「ぐちゃぐちゃに溶けちゃえば良いんだよ。そしたらさ、どっちがどっちか分かんなくなるくらい掻き混ぜちゃうの。混ざり合った俺達は永遠に一つ。素敵だと思わない?」
「手前がそう思うなら、そうなんだろうよ」
「へへっ、シズちゃんだいすき…」
うっとりと夢見心地で呟く臨也へと愛しさが募る。今すぐにでもその唇を塞いでしまいたかった。呼吸が出来なくなるくらいに舌を絡ませ、その命を全て喰らい尽くしてやれば。きっと眠っているだけではないかと思わず確かめたくなってしまうような穏やかな死に顔でこの子は最期の時を迎えるだろうと確信めいたものがあった。おそらくそれを臨也が望んでいることに気付いたのは、もう随分と前のことだった。希望的観測でも憶測でもなく。十中八九の可能性で、この子供は平和島静雄に殺されることを望んでいるのだ。
「臨也」
「なあに?」
「心配しなくても手前一人置いてったりはしねえよ」
「…シズちゃん?」
「何つーか、あれだ。手前の方が俺より先に死にそうな気もすっけど、寿命的には俺の方が先にお迎えが来んだろうよ。そん時は手前も一緒に連れてってやるから安心して良いぜ」
「…、嘘じゃない、よね…?」
「そんな状況じゃねえだろ」
「…っ、しず、ちゃん…」
「おい、泣くんじゃねえぞ。嬉しいなら泣くんじゃなくて笑え。そう教えただろ?」
「ん、うん…」
しずちゃん、と名前を呼ばれ、求められるままに臨也を腕の中へと囲った。肩甲骨を引っ掻き、労るように腰を擦ってやる。低血圧もあって決して体温が高くはない臨也だが、安心しきって預けてくる身体はほんのりと熱を持っていた。汗ばんだ額に唇を落とし、濃度を増した匂いに鼻先を埋める。甘い、と思った。懐かしい匂いだ。ベビーローションのようなミルクの匂いと、臨也自身が発する匂い。
「寝るか?」
「うん…」
「眠そうだな。我慢してたのか?」
「そんなことないよ。シズちゃんと一緒にいたかっただけだもん」
「可愛いこと言ってんじゃねえ。襲うぞ」
「襲ってくれるの?」
「…、襲われてえのか?」
「シズちゃんにならいつでも襲って欲しいもん」
ね、腕枕して?と甘えた声を出した臨也の頬へと衝動的に噛み付いた。とろりと蕩けそうな空気に目が眩みそうになる。このまま臨也の望む通り、跡形もなく彼という存在を食べてしまえたら。現実的ではない夢想に想いを馳せた。細胞一つ一つまで体内へ取り込み、内臓器官に吸収させる。それはとても甘美で、幸福な瞬間に違いない。
「好きだ」
「シズちゃん?」
「好きだ、臨也」
「…知ってるよ?シズちゃんは俺を攫ってくれたメシアだもん」
「ただの犯罪者だっつーの」
「合意の元だから犯罪にはならないよ。ずっとね、俺はシズちゃんしかいない世界に行きたかったから。それを叶えてくれて、俺をシズちゃんのものにしてくれて、監禁までしてくれるなんて、シズちゃんは俺だけの神様だよ。すき、シズちゃんだいすき」
─だから俺のこと、最期まで責任持って可愛がってね?俺の世界は全部シズちゃんにあげるから、シズちゃんの世界全部俺にくれなきゃ駄目。俺だけを見て、俺以外全部棄てて、でも俺だけは棄てないでね?俺のこといらなくなったなんて言ったら許さないから。そんなことシズちゃんに言われたら、俺きっとシズちゃん殺しちゃうよ…。
棄てるわけねえだろ、と吐き捨てた。棄てるわけがない。棄てれるわけもない。全てを犠牲にしてまで静雄は臨也を選んだのだ。あれから何事もなかったかのように繰り返される毎日。日常が少しずつ歪んでいったのは、隣人宅が越してきた時からだった。
臨也の母親はネグレストだった。育児放棄という児童虐待。裸足で毎日玄関前に放置されている小さな子供へと最初に浮かんだ感情は同情であった。痩せ細り、感情がぽっかりと抜け落ちてしまった表情。痛々しい子供を部屋へと招き入れたのは、人助けという大義名分の元で行われた行為であった。泣くことも笑うことも忘れてしまった可哀想な子供。助けてやりたいと思った。救ってやりたいとも。おそらくその頃から内に孕む欲望はあった筈だ、と今なら冷静に自身を振り返ることが出来るのだが。
実際には臨也が心を開いてくれるまでに半年以上の期間を要した。人間不信に陥り、見返りも求めず暖かな寝床と食料を与えてくれるような人間が存在するとは俄かに信じられなかったのだろう。猜疑心を剥き出しだった表情が次第に柔らかくなり、シズちゃん、と渾名で呼ばれるまでに打ち解けた頃。堪らず肉付きの薄い身体を抱き締めていた。この行為については言葉で説明出来るほど理論的なものではない。本能に従ったまでだった。脳へと伝達されたのだ。この哀れな子供を、自分だけのものにしてしまえと。
体温に触れると、臨也が堰を切ったように声を上げて泣き出した。嗚咽とも悲鳴とも咆哮とも取れる声で激しく泣きじゃくる。こうして静雄の前で臨也が泣くのは初めてのことだった。聡明な子供は静雄の前でも歯を食いしばり、決して弱さを見せようとはしなかった。泣くことも笑うことも忘れていた子供が漸く取り戻せた人間らしい感情に、胸が震えたのは言うまでもない。皮膚感覚を刺激するのは痙攣する身体と、荒々しく吐き出される熱い呼気。抗い難い劣情を覚えた。今すぐにでもキスをして、押し倒して、全身くまなく嘗め回して、魂ごと屈服させたいと。静雄は思ったのだ。同情なんて綺麗なものではない。臨也に抱いた感情は不純で穢い、それでいて限りなく神聖な恋慕であった。
─シズちゃん、シズちゃんのことがすき…。お願い、俺のこと愛して?家族なんて、母親なんていらないから。シズちゃんだけいればいい、それ以外何にもいらない。だから、…っ、だから俺を、シズちゃんのものにして…?
涙ながらに訴えられ、理性が音を立てて崩壊する瞬間を静雄は初めて目の当たりにした。乱暴に揺さ振った身体が真っ白であったことだけが妙に印象的で。どろどろと巣食う胸の内は悟らせないよう、冷静に振舞う自らは酷く滑稽に思った。余裕ある大人を演じ切れたのか、曖昧に残った記憶を遡っても答えは見付からない。尤も、臨也の前では演じる必要もなかったのだ。愛されることなく、愛を知らないままに育った子供が愛して欲しいと縋り付く。これで陥落しない人間─否男はいないだろう、と静雄は思った。世界の穢れを知らない子供が口にするのは悪魔の囁き。甘く、致死量に達する毒を持った楽園の果実と同じである。
その日の内に静雄は賃貸であるマンションを引き払う決意をした。少しだけ広くなった部屋で一緒に住むか、と提案した瞬間に見せた花が綻ぶような微笑みは、おそらく一生忘れないだろう。結果として臨也は静雄を選んだ。選択肢は臨也に委ねる振りをしておきながら、その実臨也には選べるほどの選択肢は残されていない。静雄と出会うまでの生活に戻るか、静雄を選ぶだけの覚悟はあるのか。どちらにせよ幼子にとって残酷なことをさせた自覚はある。家族を棄てさせ、剰え監禁という形で俗世間から遮断させ。彼の将来を全て、踏み躙ってしまったも同然である。
「馬鹿言ってんじゃねえぞ。簡単に棄てれるような遊び相手じゃねえってことが、手前にはまだ分かんねえのか?」
「うんん、分かってるよ。俺にはシズちゃんだけで、シズちゃんには俺だけ。俺達が一緒に死ぬまで変わらないことだよね?」
「当たり前だ」
「俺ね、今が幸せ過ぎて怖いくらいなの。こんなに幸せで良いのかなあ…」
「手前はもっと幸せになっても罰は当たんねえよ」
「ホントに?今よりもっと、シズちゃんが俺のこと幸せにしてくれるの?」
「覚悟してろ」
「っ、シズちゃんだいすき…」
引き寄せられるままにキスを交わす。だぼついたシャツの隙間から素肌を弄り、浮かび上がった肋骨一本一本に爪を引っ掻けた。漏れる喘ぎに本能が刺激させれながら、深くなる行為へと一先ず集中することにする。
─逃避行の行く末は、誰も知らない。



End



愛の真理とは、時に残酷な異形として姿を現す。
2011.07.02







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