pj0237 | ナノ





ある夏の日の話

※匿名さま「来神組で海へ行く話」
来神時代(だと思います)。大して出番ないけどモブ注意。

















「…なんで、海」
むうと顔をしかめて打ち寄せる波を見つめてそう言った臨也に。
海に行こうと言い出した張本人――新羅が笑う。
「まあいいじゃん」
ほら、風が気持ちいいね!とか言われても臨也の気分が晴れないことくらい知っているだろうに、新羅は臨也の不満などまるで気にした様子もなく、周りを見回した。

「今度セルティと夜デートすることになってね、その下見だよ」
「…ああ、例の彼女ね。…っていうか、下見なら夜に行けよ。さらに言うなら俺を巻き込むな。あとデートだと思ってるのはたぶん新羅だけじゃないの」
「うっわ、可愛くないなぁ。ぼっちの臨也君を誘ってあげた心優しい僕にそういうこと言うんだ」
「本当に心優しい人間はそんなこと言わないよ」

あとぼっちって言うなぼっちじゃないし!と唸って。
臨也は額から伝ってきた汗を拭う。
季節は夏。
炎天下の砂浜は、正直、すごく暑かった。

「早くドタチンとシズちゃん帰ってこないかなー…暑いしアイス食べたい」
「そんな暑い中、コンビニまで買出しに行かされた二人がかわいそうだと思わないのかい君は」
「欠片も思ってないことを口にしても説得力ないよ新羅」
「…早く帰ってくるといいね」
「だよねぇ。ホントあっつい…」
「あ、上着脱いで海に入れば涼しくなるよ?」
「やだね」

そんな会話をしながら暑さを日陰でしのぎつつ、ぼんやりと海を眺める臨也と新羅。
買出しに行った二人はまだ帰ってくる気配はない。
そこに複数の男が近付いてきた。
どんな状況でも人間観察は怠らない臨也はすぐに気付いたが、暑さで先に何かアクションを起こす気にはなれないので放置していると。
予想通り、まっすぐこちらに向かってきた男の一人が声をかけてくる。

「ねー君、暇なら俺らと遊ばない?」
「そこの彼氏より楽しませてあげられるよー」

これまた予想通り。何ともベタなナンパである。
…俺そんなに女顔かなぁ、そんなつもりないんだけど。いや、きっちり服を着込んでるせいだよねうん。と思いつつ、臨也は小さく息を吐いた。
その間にも、男達は口々にお決まりの台詞を吐いて臨也の気を引こうとしているが、まるきり聞いていない。
「臨也もてもてだね」
「…新羅、あとで覚えてろ」
茶化すだけで助ける気はないらしい新羅を睨んで。
臨也は白けた顔で男達を見て、男5人で海とかむさっ苦しいねぇ、と心の中で笑った。
ナンパ目的にせよ、複数がいきなりでは女の子を誘うのは無理だろう。低脳だねぇもう少し考えなよと思い、そこまでで臨也の興味は完全に失われた。
この暑い中、敢えて大体の反応を予測できるこの程度の連中に付き合ってやる気は起きなかったのだ。
どうするかなぁと考えていると、痺れを切らしたのか男の手が伸びてきて――臨也の手首を掴む。
汗でじっとりとしたそれが酷く不愉快で、眉をしかめて息を吐き出す。

「残念だったね、お兄さん達。俺は男だよ。とりあえずその汚い手を離してくれないかな?」

にっこり笑う臨也だが、その目は笑っていなくて。
あーあ、ナイフを出す前に消えてくれるといいけど、と隣の新羅はこっそり溜息をついた。
「え、男?」
「マジ?…でもこの顔なら男でもかまわないかも…?」
「いいじゃん、行こうぜ?」
口々に――たぶん本人たちは聞こえていないつもりなのだろう――そう言い、ニヤニヤ笑って手を引こうとする男に、臨也の眉間に皺が寄る。
「放してって言ってるんだけど」
いつ臨也愛用の凶器がが繰り出されるかと――通報は遠慮したいので――ハラハラする新羅。
だが、なおも強引に誘おうとする相手に臨也の我慢の限界が来るより早く。

「!!」

突然、砂地がザクッと小気味の良い音を立てた。
臨也と男達の間に斜めに突き立つ幟。
どこの海の家のものか、色あせた幟に書かれた文字は『やきそば』でなんというか間抜けだったが、勢いよく砂地に突き刺さるほどの勢いで投げられれば十分脅威である。
とっさに身を引いて避けた臨也は、くるりと振り返って投擲した張本人を睨みつけた。

「…シズちゃん、俺に当たったらどうするのさ」
「あ?避けただろうが」

睨みつけられた当人――静雄は、臨也の抗議に問題ないと言わんばかりにしれっとした顔をする。
そんな彼が抱えているのは、これまたどこから持ってきたのかベンチだ。
担ぐのではなく無造作に片手で持っている――引きずっているわけでもない――姿に、幟の衝撃から覚めた男達は若干顔を引きつらせる。なんとなく、異常を察したらしい。
静雄の後ろでクーラーボックス1個とコンビニ袋を複数という大荷物を持つ羽目になった門田が、これから起こることを男達以上に正確に予測して溜息をつくのが見えた。

「ところでよぉ……なぁ手前ら、なあにしてやがんだ?」
「え、あの、いや…その」
「ああ、ナンパされてたんだよ。ほら俺可愛いからさ?まったく嫌になるよねぇ」

静雄の問いに言葉に詰まった男達の代わりに答えた臨也は小首を傾げる。
それに、少なくとも性格は可愛くないとその場にいた全員の意見が一致した。
そして静雄だけが臨也の言葉にさらに別の感情を抱く。

「手前ら…そいつは俺の獲物なんだよ、勝手に手ぇ出してんじゃねぇよ?」
「ひぃっ」

臨也に絶賛片思い中の静雄の中で、どうやら彼らは敵性因子とみなされたらしい。
青筋を浮かべてベンチを持ったまま近付いてくる静雄に、男達は情けない声を出して逃げ出した。
「待ちやがれこのクソ野郎どもがぁあああ」
それを追って走り出す後ろ姿を見送って、臨也はやれやれと首を振る。

「あーあ、シズちゃん行っちゃった。…あれかな、逃げるものを見ると追いかけたくなるってやつ」
「……静雄は犬じゃないぞ」
「静雄くんー!聞こえてないだろうけど早く帰っておいでよー!」

静雄を刺激しないように余計なことはしゃべらずにいた新羅は十分離れたのを確認してから叫ぶ――当然返事はなかったが。
じりじりと照りつける焼けるような日差しの下だというのに元気なことだ。
そう思い、思ったことで暑さを思い出した臨也は静雄のことは放置することに決め、は門田のところへチョコチョコと移動した。

「ドタチン、アイスー」
「わかったからひっつくな」
「何買ってきたの?」
「だからひっつくな…静雄が気付いたらまずい」
「んん?なにがまずいの?あ、でも大丈夫、ドタチンだから」
「…根拠がないぞ」

静雄に密かに想いを寄せられてることに気付いていないのか。あるいは、気付いていて気付かないフリをしているのか。
読めない男に、門田は頭を抱えたくなる。
どちらでも別にかまわないが、巻き込むのだけは止めて欲しかった。

「ドタチン、それよりアイスー」
「あ、僕もアイスもらおうかな。何買ってきたの?」

門田の気持ちを知ってか知らずか。
好き勝手なこと言って門田の持つクーラーボックスに手を伸ばす臨也と新羅。
さらに、ベンチを軽々スイングさせながらまだ男達を追いかけ回している静雄の姿。
それらを順に眺めて。
門田は、なんで俺はこいつらと一緒にこんなことろまでわざわざ来てしまったんだろうな…と諦め半分に思ったのだった。














※海である意味があまりにもなさすぎな話でした(…おい)

「来神組で海に行って臨也が男に絡まれるのを静雄が助ける話」というリクエストでした。
絡まれる…でナンパしか想像できなかった自分の発想の貧困さに悲しくなりました…こんな話しか出てこなくてすみませんでした…!あとドタチンも今回も巻き込んでしまってごめんなさい…反省します…。
リクエスト頂いてから時間が経ちすぎてしまい大変申し訳ございませんでした!
リクエストありがとうございました!


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