pj0236 | ナノ





依存

※匿名さま「『瓦解』の静雄視点かその後の話」
















痛い、苦しい、辛い。
どこが痛いのか、どこが苦しいのか、どこが辛いのか。
それすら分からないほど、全身が、心が、痛む。

――ッ!!!

嫌だと、許してと請うても止めてもらえなかった。
暴力と罵倒と、嘲笑と。
貶められて、傷ついた。
そんな弱い自分をわらうことさえ、できなかった。






「――さん!臨也さんっ!」


必死に自分の名を呼ぶ声に。
臨也はきつく瞑っていた目を開いた。
――ああ、またあの夢か。
そう思って、自嘲する。
ぶるりと寒気が走った。

「臨也さん」

ぬくもりをを求めて手を伸ばすより早く、暖かな手のひらが頬を滑る。

「…みかど、くん」
「大丈夫ですか?」

うなされていましたよ。
そう言って、汗で張り付いた髪を払ってくれる手に、臨也はほっと息を吐いた。

「…大丈夫だよ」
「嘘、つかなくていいですよ」

そっと髪を梳かれて目を細める。
「帝人くんは心配性だねぇ」
くつくつ笑って、ゆっくりした動作で身を起こして。
臨也はふうと小さく息を吐いた。
別に、嘘ではないのだ。
寒気も、あの痛みも苦しさも辛さも、すでに去った。
確かに傷つきはしたけれど、それを引きずり続けるには――。
「君が、守ってくれるんだろう?」
するりと伸ばした手でまだ少年の丸みを残す頬を撫でて、笑ってみせる。
静雄から受けた痛みを引きずり続けるには、この少年の与えてくれるものは心地よすぎた。暖かすぎた。
触れられるだけで氷解するのなら、それはもう、痛みでもなんでもないのだろう。

「この前のあれ、シズちゃんの顔はなかなか見物だったよねぇ」
「……」

先日、静雄に宣戦布告――と言っていいのかはわからないが、あえてここは宣戦布告としておく――をした帝人と、それに予想外の動揺を見せた静雄を思い出してそう言えば。
何故か、帝人は不愉快だと言わんばかりに眉を寄せて黙り込む。
「帝人くん?」
その反応が何に対してのものか判断できず問いの調子で呼びかけた臨也に、帝人は不機嫌な顔はそのままに、髪を梳いていた手を後頭部に回して引き寄せた。

「っ…ん」

ちゅっと音を立てて離れる唇。
押しつけるだけのそれが、帝人の気持ちを如実に表していて、ついつい笑ってしまう。

「やきもち?」
「……静雄さんのことなんか、考えないでください」
「…帝人くんはかわいいなぁ」
「………」

不満顔をさらにしかめる彼は、臨也の気持ちの変化をたぶん理解していないのだろう。
経験の差かな。いや、性格かな。
もっと自信を持てばいいのに、と心の中でごちて。
臨也は自分からもキスを送った。

――俺はとっくの昔に、君のものなのにね。

根底にあるものが依存だろうと、愛は愛だ。
臨也の、人間に向けるそれをとは違う愛を独り占めしていることをそろそろ彼は理解しても良い頃だと思う。

「好きだよ、帝人くん」
「…、僕も好きです」

耳元に寄せられた唇から零れる囁きはまだわずかに疑心の響きが宿るけれど。
そんなところも含めて好きだと思うあたり、すでに後戻りはできないなと思い知る。
弱っているところにつけ込まれた。
そうわかっていても、抱きしめてくるその腕が心地よくて抗えない。
やっぱり前言撤回。当分理解しなくていい。
年下の子供にすっかり依存してしまっているなどまだしばらくの間は知られないようにしよう、と考えて。
臨也は口の端をわずかに持ち上げて声に出さずに笑った。

――あの日の夢を見たって起きたら君が慰めてくれるって知ってるから平気、なんて言いたくないし。

ああ、すっかり自分は弱くなってしまったな、と自嘲して。
まあいいかと、臨也はそっと目を閉じて、帝人の腕に身を委ねた。














※依存と愛がたぶん等量くらいな臨也とそれに振り回されている帝人。

「瓦解の静雄視点かその後の話」ということでしたのでその後の方で書かせて頂きました。
やはり帝人くん難しいなぁと思いつつ書いていたら、当初の予定とまったく違う話になりました。名残は冒頭部分のみ…という有様です…。
リクエスト頂いてから時間が経ちすぎてしまい大変申し訳ございませんでした!
リクエストありがとうございました!


BACK




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -