はぴいざ!!4 | ナノ





happen!

『はぴいざ!!』 賛同作品その4。シズイザ。
















「結婚しよう」

そう言われて、静雄はぱちりと一回瞬きした。
「ああ゛?」
そのあとすぐ、それまで以上に表情を険しくして、ドスのきいた声を出す。
その反応にくっと喉を震わせて。
臨也はにやりと笑った。
胸倉を掴まれて足先が辛うじて地面についているだけの状況。
その状況で言うにはあまりに不似合いな言葉だということはわかっている。

「…いや、そんな顔しないで、よッ」
「ッ!」

ナイフを一閃して緩んだ指から逃れた臨也は、数歩後ろへ跳んでから、言った。

「結婚しよう。そう言われる夢を見たんだ」

まったく変な夢だよねぇと笑う姿を見て、静雄は眉を寄せた。
「あ?…誰にだ…?」
「おや、まさか食いつくとは思わなかったんだけどね」
彼の苛立ちの種類が変わったことに気付いて、臨也も怪訝そうに眉を顰める。

「……いいから、誰に言われたんだ」
「夢の中のことなのにさぁ…」
「るせぇ。で?」
「君だよ。君。あーもうホントなんでよりによって君なんだか…これがドタチンだったら――ッ」

臨也はほとんど本能的に言葉を切って横に跳んだ。
そのすぐ脇を静雄の持っていた標識が掠めていく。

「…避けてんじゃねぇよ」
「いや、今のは避けなきゃ俺死んでたんだけど…」

ますます機嫌を降下させた相手に困惑する。
一体何が彼の神経に触ったのか。…まあ、自分の存在は静雄を苛立たせるらしいので考えても仕方ないかもしれないが。
そう思って溜息をついて、臨也はどうするかな、と逃走経路を思案しはじめた。
と。何を思ったか、静雄ががらんと標識を放り投げる。
そして。

「結婚するぞ」

そう、言った。
その言葉を受けて、今度は、臨也がぱちりと瞬く。
ええ、と…今、この男は何を言った?

「し、シズちゃん?」
「だから、結婚。してやるって言ってるんだよ」

何故か胸をそらして轟然と言い放つ静雄。
対する臨也はひたすら???と疑問符を頭に浮かべるだけだ。
しばらく頭の中で言われた言葉を理解しようと努めて――どう考えても言われたままの意味にしか受け取れず、頬を引き攣らせる。

「は…、…なっ、なに言っちゃってんの!?」
「ん?まあ気にすんな」
「いや気になるし!ちょ、っと待って!いや待て待て待て待て!!」
「あー聞こえねぇ」

ずかずかと歩いてきた男に混乱した頭のまま慌てて逃げようとするが、迷いがない分相手の方が早い。
あっという間に距離を詰められ、ぐっと手首を掴まれ引き寄せられて。
くいっと顎を掬われて、そのまま軽く、唇が触れた。
すぐに離されたそれに、臨也は僅かな間呆けていたがはっと正気に返って静雄を睨む。

「ちょ、ホント何なの!?なんでこんな…ッ」
「あ?んー…好きだから、じゃねぇか?」
「なんっ、っていうかなんで疑問系!?」
「いや、よくわかんねぇんだけどよぉ…手前が他のヤツと喋ってるとイラつくし、しばらく顔見ねぇと気になってしょうがないし…ちょっと前にトムさんに手前の名前伏せて相談したら、恋じゃねえかって言われたんだよ」
「鵜呑みにすんなそんなもの!」
「いや、別に鵜呑みにゃしちゃいねぇけど。今すっげぇイラってきたし、確かにまあ、お前を俺のもんにしたらそんなにイラつかねぇかもなって思って」
「思うな!そもそも俺は男!君も男!男同士は結婚できないってことぐらいいくら馬鹿でも知ってるだろ!?」

いい加減にしろと怒鳴る臨也に、静雄は気にした様子もなく首を捻った。

「…馬鹿は余計だ。あー…でも確かにそうだよな」
むうと少し考えて、それからぱっと明るい表情をして何を言い出すかと思えば。
「あ……ええと、ほらあれだ。養子…縁組?だったか?それをすりゃあ、手前は俺のってことになるじゃねぇか」
「さもいいこと思いついたみたいな顔で言うな!」

ホントいい加減してくれと臨也が叫んでしまうのも無理はない。
臨也にしてみれば青天の霹靂、予想外もいいところなのだ。
だが、そんなことを気にしてくれる静雄ではなかった。

「つーわけで、結婚前提で俺と付き合えノミ蟲」
「なんで!?」
「いいだろ。手前だって俺のこと嫌いじゃねぇだろ」
「いや嫌いだし」
「口先だけで嫌いって言われてもな」
「いやいやいや!口先だけじゃないし!」

ぎゃんぎゃん怒鳴るとうざったそうな顔をして、それから少し屈んで。
「嘘つけ」
「ッ」
ちゅ、とまたキスされる。
ビクリと竦んで、そのまま顔を離す静雄を凝視する臨也の目を同じように凝視して。
静雄はふっと笑った。

「なぁ、嫌じゃないんだろ?」

嫌がってねぇだろうが。と確信した表情で言われて臨也は唸るしかない。
野生の勘か、それとも、意外に観察力があるのか。
臨也の中で揺れる感情をしっかりと捉えた静雄は、逃げ道を塞いだと言わんばかりだ。

――そりゃ、今はもう嫌いじゃないけど。

だからと言って、臨也のそれは好きだと言えるほどはっきりとした感情ではない。嫌悪だって消えたわけではない。
ただ、その中に、どこかにずっと持っていた憧れが変質した感情が混ざってるというだけなのだ。
なのに、この男はそれを自分に都合のいい形で引きずり出そうとしている。そう、明確に感じた。

「ノミ蟲」
「……なに」
「一応言っとくけどな」
「………」
「俺は、手前のこと、やっぱこういう意味で好きらしいぜ?」

そう言いながら、またキス。
触れるだけのそれに満足そうな顔をする静雄から目を逸らさないままだった臨也は、そこでようやく、またキスをされたのだと気付く。
唐突な二度目の告白がじわじわと胸に浸み込んできて、それに気をとられていてまったく気付けなかった。
そのことに、今更ながらにうっわあり得ない!と心中で叫ぶ。

「あー…もう何なの」

なんか今は全然口でも勝てる気がしないんだけど、と真っ赤になってしゃがみ込んだ臨也に。
静雄はくつくつ笑って、抱きしめさせろよとその手を引っ張るのだった。














※嬉しいような嬉しくないような複雑な気分の臨也さん。

…え?幸せですか? …たぶんその辺に落ちてるんじゃないかと思います。(うっかり取り落としてしまったようです)
…冗談です…すみません。最終日までには幸せな臨也が書けるようにがんばります!


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