はぴいざ!! | ナノ





春待ち

『はぴいざ!!』 賛同作品。シズイザ。
















ふぁぁと小さく欠伸をして。
臨也は眠そうに何度か目を瞬かせた。
まだ肌寒い日もある春の朝。
空調などというものとは無縁の室内は、ひんやりと冷たい空気に満たされていた。
布団の外と中の温度差にふるりと震えて、臨也は眉を顰める。
こんなことならば新宿へ帰ればよかったと思ってしまうのは、隣にいるべき人間がいないからだ。
僅かに腕を動かして探った場所はまだほんのりと暖かく、ベッドの主が出て行ってそう時間が経っていないことを示している。
耳を澄まさずとも聞こえてくる音。
それを聞きながら、それでも布団を出る決心はつかなかった。
もう一度寝てしまおうか。そう考えて、はふ、と小さく息を吐いて、くるりと寝返りを打って壁の方を向く。
まだ残る眠気に身を任せ、瞼を閉じようとした時――足音が聞こえた。
迷うことなく近づく足音はそのままベッドの側までやってきて。
そして、ふわりと空気が動く。
決して相手のように鼻が利くわけでない臨也にもわかるほど近く。
すっかり馴染んだ香りと気配は、声をかけるでもなくただ臨也を見下ろしているらしい。

「…なに?」

顔をそちらに向けずにただ問えば、相手――静雄は答えぬまま、髪を撫でてきた。
優しい手つきで何度も髪を梳かれて、暖かいような、苦しいような、よくわからない感情がじんわりと胸を満たす。
妙に息苦しくて。
臨也は小さくと息を吐き出して、目を閉じた。

「…今日は寒いね」

ぽつりと呟く。
僅かな間のあと。
今度は返事が返ってきた。

「……まだそういう日もあるだろ」

それに俺は寒くねぇ、と。そう言いながらも、静雄は臨也の少し冷えた頬に手を滑らせ暖めるように撫でていく。
「シズちゃんの手はあったかいねぇ」
どこか独白めいた言葉に、静雄が溜息をついた。

「…暖めてやろうか?」
「遠慮するよ」

声に親切心からではない響きを感じ取って。
臨也は首を緩く振って、静雄の方へと顔を向ける。
見上げた先の顔は、少しだけ残念そうだが無理強いする気はないらしく穏やかなもので。
「シズちゃん?」
まさか、静雄がこいつもこうやって大人しくしてりゃ可愛いのに…などと思っているなど思いもせず。
臨也は寝返りを打ち仰向けになって、首を傾げて声をかけた。

「ん?どうした?」
「…何でもないよ」
声をかけたものの言うべき言葉は見つからず、首を振る。
先程じんわりと広がった不思議な感情はまだ臨也の胸にあって、うまく言葉を紡げる自信もなかった。
するりと頬から首筋へと滑る手のひらがくすぐったい。
悲しいのでも、苦しいのでもないのに。
静雄の行動と眼差しに、心臓がきゅうっと引き絞られるような気がした。

「しずちゃんは、ずるい」
「あ?何のことだ?」

意味がわからないと眉を寄せる整った顔。
それを遠慮なく見つめながら、臨也はくすりと笑う。
わからなくていいのだ。というか、わかってもらっては困る。
「さあ、何のことだろうね?」
もともと力では圧倒的に不利なのだ。せめてこれくらいは優位でいたいと思うのは仕方ないだろう。
答える気がないことを察したのか、静雄が何か言いたげな顔をするが、臨也が首を振って制したことで諦めたらしく。
代わりにまた小さく溜息を落とした。

「…起きないのか?」
「寒いから、やだ」
「手前、ホント寒がりだよなぁ」
「うっさい。…早くもっと暖かくなればいいのにさぁ」

春のやつ何もったいぶってるんだろうね。
そう文句を言うと、苦笑された。
仕方ないやつだなという雰囲気が見て取れるその顔に、臨也は眉を寄せ抗議しようとしたが。結局、それは出来ずに終わる。
静雄の行動は、臨也に抗議の間を与えぬほど一瞬だった。
毛布から覗いていた指先を辿った手に、そのまま手首を掴んで引き起こされて。
ぽすりと静雄の胸に寄りかかる体勢になった自身に、臨也は何が起きたのか把握できずきょとんとする。
状況が飲み込めないまま目を瞬かせていると、さらにばさりと毛布が被せられて二人で羽織るような状態になって。
「ほら、こうしてりゃあったかいだろ」
そう言いながら両腕で囲うように抱き締められて、ようやく静雄の行動の意味が臨也にも伝わった。

「珍しいねぇ…。甘やかしても何にも出ないよ?」
「………、…俺も、寒いんだよ」

さっき寒くないって言ったくせに。
そう思ったが、臨也は口にしなかった。
自分より高い体温に包まれて、その心地良さに目を細める。
じわりじわりと侵食する感情は、もう胸どころか臨也の全身を満たそうとしていた。
「おい、寝るなよ」
耳元で聞こえる低い声も、心地いい。

――ああもう。こんなに甘やかしてどうしようっていうのさ。

そう頭の片隅で思うのに、もうこの心地良い腕に抗うことは無意味に思えて。
臨也は頬を緩めて目を閉じて、ただ、その甘やかな温もりに身を委ねた。














※春のある朝のはなし。

幸せってなんだろうかと考えて迷走した結果、こうなりました。…ホント何なんでしょうね、幸せって。
…次こそちゃんと臨也を幸せにします。すみません…。


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