dr94 | ナノ





青い春と書いて、

※R-18。来神時代。
















あーあ、どうしよう。
そう心中で愚痴て、臨也はずるずると本棚に寄りかかった。
場所は第2図書室。現在は3限目が始まって少し経った頃だ。
普段ならこの時間はまず人がいないというのに、今日に限ってはそうでなかった。
本棚の間の死角になる場所に身を潜めていたのが災いしたのだろうが、何でよりによって自分がサボっている場所で、と溜息が零れるのも仕方ない。
だが、そんな途方にくれる臨也を他所に、不純な青春を謳歌している生徒2名は盛り上がっている様子であった。
さてどうするか。
天を仰いで思案する。
そ知らぬ顔で出て行って水を差すのも悪くはない。そもそも臨也は他人の情事に興味などなかったし、さらに言えばそういうこと自体どうでもいいと思っていた。少なくとも自分は興味がない。とても健全な男子高校生の反応とは言いがたかったが、臨也はそういう人間だった。

「…う〜ん…ホント、どうしよう」

はふと息を吐き出して、頭をこつりと本棚に預ける。
昼寝するつもりだったんだけどなぁ、と思ったところで、気付いてしまった以上今更だ。ピンク色の空気を撒き散らす人間がいる空間でのんきに寝るのはさすがの臨也であっても出来れば遠慮したいものだった。
眠気も既に去っていることだし、ここはもう堂々と出て行っちゃおうかなぁ。
ぼんやりとそう思いつつ、本棚ひとつ隔てた向こう側の音を意識から遮断しようと勤める。

「まったく、いくら若いからってこんなとこで盛るとか――――ッ!?」

いきなり、後ろから口を押さえられて羽交い絞めにされて。
臨也はぎょっとして視線を後ろへと向けた。
そして。自分を押さえ込む相手が誰であるかを認識し、臨也はざっと血の気が引くのを感じる。
ついつい本棚の向こうに気を取られて油断し過ぎた。
身を捩って逃れようともがくが、圧倒的な膂力の差の前では何の意味も持たない。

「おい、落ち着けッ」

慌てたような調子の小声で静雄が臨也を羽交い絞めにしたまま静止の声をかけてくる。
そのただ焦りしか感じさせない様子に、臨也は冷静さを取り戻した。

「…手離すけど、大きな声出すなよ?」

そう言われてこくりと頷くのを確認し、静雄はそろそろと手を離す。
「…ちょっと、何でシズちゃんがここにいるの?」
「うるせぇ、昼寝してたんだよ」
こそこそと聞こえぬように小声で話す彼らに気付くこともなく、隣のイチャつきは増している。
漏れ聞こえる濡れた声に、静雄は緊張した面持ちでそろりとそちらを見た。

「なにシズちゃん?気になるの?」
「うるせぇ黙れノミ蟲。気になるっつーか…やべぇだろうが」
「まあ学校だしね」
「いや、そうじゃなくてよ」
「えー…じゃあ何さ」
「…ッ…ばれたらやべぇってんだよ!」
「そりゃ気まずいかもしれないけど、やばくはないでしょ」
「…ッこのノミ蟲が!」

いつもと違いすべて小声の会話だ。大声を出せない静雄はギリギリと奥歯を噛み締めて、こんなシーンに居合わせたにも関わらず平然としている天敵を睨みつける。
そんな静雄を眺めて、臨也はあーそっかシズちゃんってば童貞だもんねと心の中で笑う。初心な反応だとある意味感心して、それから臨也はでもさ、と言った。

「あの二人がいつまでああしてるか分からないんだから、やっぱり出て行くしかないんじゃない?あそこ通らないと外に出られないよ?さっきあの二人鍵かけてたし、ホントは今日の午前中はここ閉められてるはずだからドアには張り紙してあるし」
「あ?そんなのあったか?」
「そうだよ。君見てなかったの?」
「………すげぇ眠くてそれどころじゃなかったんだよ」

それより、と静雄は臨也に問う。

「なら何で鍵が開いてたんだ?」
「俺が開けたから。でも俺開けてからちょっと出たけどその後ちゃんと鍵閉めたのにさぁ。…どうもあの二人のどっちかが図書委員か何からしいね」
「………」

つまり静雄は臨也が鍵を開けた後、偶然臨也が外に出たタイミングで入り込んだということらしい。
むうと眉間に皺を寄せて、静雄は舌打ちした。

「手前が開けっ放しにしなきゃ、俺はこんなとこに閉じ込められなかったってことだよなぁ?」
「責任転嫁しないでよ。そもそもサボろうとしたシズちゃんが悪いんでしょ」

険悪な空気を漂わせながら、それでも喧嘩に発展しないのはどちらも今のところイチャつくカップルの前に出る気がないからである。
真っ最中の現場に顔を出すのはさすがに…というのが本音だった。
臨也にしたって、出来れば興味もない他人の情事など見たくないのだ。

「でも、あの二人がいつまでああしてるかは分からないよね…。たぶん昼休みには終わってくれると思うんだけど」
「まだ一時間以上あるじゃねぇか」
「だって仕方ないでしょ?別に俺は出てってもいいけど」
「止めろ!」
「ほら、君がそうやって止めるからそれも出来ない。そうなるとここで終わるの待つしかないじゃないか。最悪」

文句を言う臨也だが、静雄はそわそわと本棚越しの声に落ち着かない様子でいるばかりで妥協案を出す気配もない。
それに溜息を吐き出して、臨也はもういいやシズちゃんとここにいても仕方ないし、と立ち上がる。
静雄と一時間強をこの狭い空間に閉じ込められるなら、見たくない光景を出来るだけ目に入れないようにして通り過ぎる方がマシだ。そう結論付けた彼は、そのまま歩き出そうとして。

「ちょっとシズちゃん…」

腕を掴まれ引き寄せられて。
静雄の隣に逆戻りした。いや、実際は逆戻りどころか背を密着させて抱き込まれる体勢になってしまっている。
何だって言うんだと睨もうとして、臨也ははたと動きを止めて、視線を下げた。

「ねぇ、シズちゃん」
「…なんだ」
「当たってるんだけど」
腰辺りに押し付けられる形になった硬いもの――正直な話考えたくないが――に、臨也は苦りきった声を出す。

「いくら若いからって恥ずかしくない?とりあえず引っ込めてよ」
「…無茶言うんじゃねぇ」

聞こえる卑猥な水音と嬌声を考えれば仕方ないことなのかもしれないが。
そんなものを押し付けられる臨也にしてみれば災難以外の何ものでもない。

「…手前は、なんともねぇのかよ」
「ちょっ、何触ってんのさっ」

苛立ち気味の小声と共に服越しにそこを握られて、臨也は焦った。
別に特に何の反応も示していないとはいえ、天敵にそんな場所を触られる可能性など考えたこともなかったのだ。
最初捕まった時以上に血の気を引かせて、臨也は嫌だと首を振る。

「あー…反応してねぇな…まさか勃たないとかか?」
「〜〜〜っ!そんなわけないだろっ、俺はこんなAVと大差ないもので勃ったりしないだけだよっ」
「へぇ…?」
「ッ!!!」

ビクリと大きく体を振るわせて、臨也はとっさに唇を噛み締めて声を堪えた。
だが、そんな臨也の反応を楽しむように揉み込んでくる手は容赦がない。
臨也を追い詰めるように服越しにもどかしい刺激が与えられて、臨也は必死で声を抑え込むしかなかった。

「ああ、ホントだ。ちゃんと勃ってきやがった」
「〜〜〜〜〜ッ」
「声、我慢しとけよ」
「ッ…ふ、ぅ……ッ」

やんわりと口元を空いた手で覆って、睨みつける視線を無視する男は臨也のズボンのファスナーを下ろしてしまう。
下着を掻き分けて侵入した手が、臨也のそれを引きずり出して外気に晒して。
臨也はぶるりと震えて、きつく目を閉じた。
ぐちぐちと濡れた粘液の音がする。それが隣からの音なのか、指先で弄られる自分のものの音なのか。声を殺して堪える臨也にはもうよく分からなかった。
逃げようにも力の差は歴然としている。背後からがっちりと抱き込むような体勢で抱えられてはどうすることも出来なかった。

「っ…、う………ッ!」

ぐり、と指先が先端の孔を抉って。
大げさな反応を示した臨也は、生理的に滲んだ涙もそのままに静雄をきつく睨み付ける。
「あー…んな顔で睨むな」
自分だけ興奮している状態が何となく癪に障って勢いでこんなことをしてしまっただけだったのだが。
妙に色気を感じさせる臨也の表情に、静雄は、やばいな、とどこか人事のように思った。
ぞくりと背筋を走ったのは、欲情だ。
聞こえる音と声とあいまって、酷く興奮させられる。

「…手前が悪い」
「っ、ふ、うっ!」
「別にそんなつもりなかったのに」
「う、ぁ…ッ」
「止まんねぇ」

覗く白い首筋に食い付いて歯の痕を残し、静雄は臨也の雄を扱き上げた。
止めろと睨んでいたはずの臨也の目が、与えられる快楽に引き摺られてとろりと潤み始める。
それを間近に見て、静雄はごくりと唾を飲み込んだ。
力加減を誤らないように注意しながら、滲み出る白濁混じりの液体を全体に絡めるように手を動かして、過敏な反応を返した先端に時折指先を突き立てる。
聞こえてくる女生徒の嬌声と、口を塞いだ手から僅かに漏れる臨也の掠れた嗚咽と。
それらに煽られるまま、静雄は臨也の耳朶に軽く歯を立てて、舐め上げる。
「ひ、ぅ…ぅ」
臨也も押し当てられる静雄のものにぞくぞくと背筋を粟立たせた。
悪寒ではない。むしろ興奮を煽られ、性感を高めるその感触に、臨也は息を殺し切れず、低く呻く。
「っ…おい、噛んでいいから声出すなよ」
そう言って口に指が潜り込んで来て、臨也は反射的にそれに噛み付いた。
だが噛み付かれたことなど気にした様子もなく、侵入した指は臨也の舌や上顎を悪戯に弄り回していく。
「ふ、う…っ」
苦しさにポロポロと涙を零す臨也に、静雄はやばいと耳元で囁くように呟いた。
「なんか、すっげぇ、可愛い」
「ッ、ん…ぅっ」
その言葉に馬鹿言うなと叫びたい臨也だったが、舌を捕らえられた状態ではそれもかなわない。
それでも白み始めた頭で後で絶対報復してやると誓い、臨也は血の味のする指をさらに食い締めた。が。

「――ッ…っひ、ぃっ」

途端、臨也のそこを握る指先に力が込められ、悲鳴を上げるはめになる。
「痛いかよ?」
くつりと笑った男の手を引っ掻いて力を緩めさせようとするが、無駄だった。
それどころかそのまま親指がぐりぐりと先端を刺激してくるものだから、感じているのが痛みなのか快感なのか分からなくなっていく。
しきりに首を振って、無意識に何とか感覚を逃がそうとしている臨也のその姿に静雄は楽しげに笑った。
そして、痛みと快楽の間で苦しむその姿を十分堪能してから、力を抜いて扱いてやると。
「…、っ…んッ」
臨也は小刻みに体を震わせて欲望を弾けさせる。
脳内を白く染め上げる快楽。その余韻にぼんやりとしたまま荒い呼吸を繰り返す臨也に、静雄は少しの間手のひらで受け止めた白濁を見詰めていたが。

「ちょ、しずちゃ」
「騒ぐな」
「ッ…や、めッ」

静止の言葉などまったく聞き入れる様子もなく、ズボンを引き摺り下ろした静雄の手が臨也の後孔に触れた。
それが何を意味するのか分からないほど無知ではない。臨也は冗談だろうと息を呑んで身をよじって逃れようとする。だが、押さえ付ける力は依然強いままで、逃れることは出来なかった。
何で、と混乱した頭で考えるが、その間にも静雄の動きが止まることはない。確かめるようにそこを指先で何度か撫でて。
臨也の精液で濡れた指が微かに粘着質な音を立てて押し込められる。
「…っ」
遠慮なく突き入れられる指先に、息が詰まった。
「っ…う、いた、い…ッ」
「力抜け、ノミ蟲」
無理無理無理だから。そんな器用なこと出来るわけないだろこの変態!
そう喚きたててやりたかったが、そんなことしようものなら隣で盛っている生徒に見つかってしまう。天敵に押さえ付けられて尻を弄られている無様な姿を晒す気はなかった。
力なく首を振って嫌だと訴えても、静雄は止めてくれない。
ぐちゅ、と卑猥な音を立てて、指が何度も往復しながら体内に精液を塗り込んで馴染ませていく。性急だが決して乱暴でない指が体内で蠢き、慣らすように広げられて、さらに指が増やされる。そんなことを繰り返されて、息も絶え絶えになりながら臨也は埋め込まれた質量に目を伏せて堪えた。
初めて知る後孔を押し広げる異物の感触はただ気持ち悪くて痛いだけで。
苦痛に零す涙を舐め取られて、臨也は体を慄かせる。

「―――ッ」

指が、どこかを掠めた瞬間。
臨也は大きく目を見開いて、ビクンと大きく体を揺らした。
「…ここか…?」
耳元で呟いた静雄がぐりっとその場所を指を曲げて押し潰す。
「っ、っ…――ッ!!」
声を上げないようにするのが精一杯だった。
頭が真っ白になるほど強烈な感覚に、息が止まる。
前立腺、か。知識では知っていたが、出来ることなら生涯そこを弄られる感覚など知りたくなかった。湧き上がる強烈過ぎる悦楽に飲まれながら、臨也はこれなら痛いだけのほうが良かったと思う。
天敵の手で射精させられただけでは飽き足らず、後ろを弄られて感じるなど、プライドが許せなかった。
なのに。

「ふ…、うっ…っん」

ぐずぐずに蕩けた頭は、この快楽をもっと欲しがっている。
せめてそれが相手に伝わらなければいい。そう思う臨也の思惑など見透かしているかのように、静雄は指が引き抜いて。
「挿れるぞ」
固いものを臨也の広げられて閉じきらない後孔に押し当ててきた。
「シズちゃ…っ…それは、や」
だ、と続けようとした声は、再び口を塞がれ遮られる。
そのまま静雄の雄が臨也の中に沈められて。
ずぶずぶと埋め込まれる長大な塊に、臨也は唇を戦慄かせた。
声を発する余裕すらない。自分を犯すその質量は指とは比べ物にならないくらい圧倒的で、熱と痛みと恐怖で固まった体は動かすことすら出来なかった。
自分の身に起こっていることが信じられず、臨也はただ内側から押し広げられ引き裂かれる痛みに戦慄する。

「う…ぁ…」

ひゅうと吐き出される息。
呼吸のたびに体内で脈打つ雄を緩く締め付けてしまい、その埋め尽くすような感触にくらりと眩暈を覚える。
「っ、きつい、力抜け」
文句を言いながらも腰を進めて全てを収めた静雄は、浅い呼吸を繰り返しながら臨也の汗で張り付いた髪を軽く払う。
しっとりと濡れた首筋を唇で辿りながら、押さえていた口を開放する。と。

「やだ…む、り…ッ」

ふるふると首を振って、臨也がうごかないでと小さく必死な声で訴えてきて。
静雄は怪訝そうな顔をして、緩く動かしていた腰を止めた。
「…痛ぇのか?」
「っ…あ、たりまえ、だろッ」
こっちは初めてなのに、と唸って睨んでくる涙で潤んだ赤。
それにきょとんとして、何度か瞬きを繰り返して。
静雄はようやく脳に到達した言葉に、嘘だろと呟く。

「…慣れてねぇみたいだとは思ったけどよ…でもお前、確か…」

前に男と付き合ってただろ、と呆然とした顔で言う静雄に、臨也は眉を吊り上げた。
臨也は性的嗜好に関しては至ってノーマルな人間だ。確かに好奇心で上級生の男と付き合ったことがあるが、こんなことをさせる気はなかったし、させなかった。
それに噂じゃ…とさらに続ける男に臨也は憤慨する。どの噂のことか知らないが、そういう噂が流されていることは知っていた。実害のない妄想を鼻で笑って放置していたのも事実だ。だが、改めて静雄の口から聞いて自分と誰かの情事を想像してしまい、臨也は思い切り鳥肌を立てた。
余りのおぞましさに何も言えない臨也の様子に、静雄は恐る恐るといったふうに訊いてくる。

「まさか…本当に初めてなのかよ…?」

慣れていると決め付けていたらしい静雄に、臨也は眉間に皺を寄せたまま頷く。
忌々しい男は、その動作に大きく目を瞠り、それから小さく息を吐き出した。
臨也には分からないことだったが、それは歓喜ゆえの溜息だった。

「へぇ…じゃあ、俺が手前の初めての男ってやつか」

くくっと笑って、静雄は臨也を押さえ付ける腕の力を僅かに強くする。
「っ、ぅん…ッ」
体の中の静雄のものがずれて擦れて、臨也は慌てて自分の手で口を塞ぐ。そんな臨也に気を良くして、静雄はゆっくりと腰を動かし始めた。ゆるゆると馴染ませるように掻き回されて、内壁を擦られるたびに湧き上がる感覚に臨也は小さく押し殺した喘ぎを漏らす。
内臓を直接触られている恐怖と痛みを凌駕する感覚。じんわりと湧き出すそれは、慣れない臨也には恐ろしいものだった。
ましてやたったひとつの本棚だけで隔てられた向こう側に人がいるのだ。
にもかかわらず、理性を剥ぎ取ろうとする快楽に必死で抗う臨也を嘲笑うように、静雄は馴染んできた中を穿ってきて。
臨也は目を閉じ、自分の口を手で覆ったままただひたすら蹂躙されるしかない。
ぐちゅぐちゅと抽挿のたびに液が泡立って音を立て、そのいやらしい音に耳からも犯されている気分になる。

「っ、あいつら、また始めやがった…」

ちっと舌打ちして、静雄は甲高い嬌声の後、僅かな間を置いてまた聞こえ始めた甘ったるい睦言と水音に嫌そうな顔をした。
こっちは満足にこいつの声も聞けねぇってのにと唸って、臨也の首筋に軽く歯を立てて。
静雄は快楽に犯されて理性が飛びかけ外れそうになった臨也の手の代わりに、自分の手で臨也の口をもう一度塞いでやる。
そして、先ほどまでの臨也の体を馴染ませるための動きから、徐々に律動を早め始めた。

「ふぅ…ん、んッ」

がつがつと奥まで激しく穿つたびに、臨也の眦から涙が零れ落ちる。
それを舐め取りながら、奥深くまで突き入れ、抜ける寸前まで引き出して。
その動きにひくひくと震える臨也の緩く立ち上がった雄を手のひらで包んで擦り上げてやる。
「っ…、」
前と後ろ、両方からの強い刺激。混じり合う痛みと快楽が齎す奇妙な陶酔感に酔って、臨也は甘い吐息を零して静雄に身を任せた。
初めて他人から与えられる悦楽は、臨也の脳を支配するのに十分な威力を持っていて。
それが命を脅かしかねない天敵によって齎されたものだということが、より臨也を煽り立てている。
こんなことにされても、臨也は静雄を嫌いではあるが、嫌悪感は抱かなかった。嫌いな人間に抱かれるなど堪えられないと思っていたんだけど、と心の中で一人ごちて。臨也はそこで思考を中断する。
今はとりあえずこの快楽に身を委ねてしまいたかった。
ずんっと突き上げてくる雄の先端が内壁を擦り上げる。
脳を蕩かすような快感に大きく身を震わせて、臨也はきゅうっと体内の静雄を締め付けた。

「おい、あんま締めんなッ」
「ぁ、ぁ…っ…ん、んーッ」

後孔を深く穿たれながら先端を爪先で抉られて。
臨也はビクビクと痙攣しながら静雄の手の中に吐精する。
「…ッ」
そのきつい締め付けに抗うことなく、静雄も眉を寄せ臨也の中に精を吐き出した。
体の中で熱いものが弾けて流れ込むのを感じながら、臨也は意識が白んで目を閉ざした。







「ん…」
ぼんやりと目を開いた臨也の視界に、天敵の顔を見つけて。
臨也は何度か目を瞬かせた。

「しず、ちゃん…?」
「目ぇ醒めたか」
「なんで、俺、シズちゃんに膝枕されてんの…?」

状況が分からず身を起こそうとして、ずきりと痛んだ下肢に眉を寄せる。
とてもではないが口に出したくない場所が、酷く痛んだ。
そこでようやく、先ほど起こったことを思い出して、臨也はそろそろと顔を上げて静雄を見る。
「ねぇ、シズちゃん」
「おう。ああ、あいつらなら昼休みになる前に出てったぞ」
「…そう」
ベタベタした感触はしないので、どうやら後始末はしてくれたらしい。
自分の体を見下ろして、臨也は溜息をつく。
なんだか色々どうでもいい気がしてきた。そう考えて、気だるい体を起こそうとして。
ぐいと手を掴まれて引き止められて、また溜息をつく。

「何シズちゃん?」

問えば、何故か視線が逸らされる。
一体なんだというのだ。そう不機嫌さを顔に出す臨也に、静雄はうろうろと視線を泳がせたまま、言った。

「責任は、とるからよ」


………。
…………。
……………。


――はい?


何かとんでもない言葉を聞いちゃった気がするんですけど?
固まった臨也は何とかぎこちない笑みを浮かべ、首を傾げる。

「いや、あのさシズちゃん。俺別に女の子じゃないし、そんなこと気にしないから。だから君も気にしなくていいよ」
「そうはいかねぇだろ」
「いやだからさ。君と俺ってただの天敵だろ?犬猿の仲っていうの?とにかくそんななんだから気にする必要ないし、俺も犬にでも噛まれたと思って忘れるからさ。ね?」

だからホントむしろ忘れて下さい。そう思う臨也だったが、静雄は頑として首を縦に振る気はないようで。
臨也を睨みつけて、なおを言う。

「責任取るっつってんだろうが。取らせろよ」
「いやなんでそんなに拘るのさ。俺は別に責任なんて取って欲しくないし」
「うるせぇ、とにかく責任取るって言ってんだよ俺は。察しろこの馬鹿ノミ蟲!」
「いや、察しろって言われても一体何を察しろって言うのさ…」

それより律儀すぎるのも考え物だよシズちゃん、と呟く臨也に、静雄は複雑そうな顔をして、それから「実は手前ってかなり鈍かったりするのか?」と口にする。
何のことだと怪訝そうな顔をした臨也は、まさかその直後に、

「俺は手前が好きなんだよ」

と、爆弾発言が投下されるとは知る由もないのであった。














※この後、お付き合いするまでに臨也さんが散々逃げ回るのは当サイトのお約束です。


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