dr91 | ナノ





餌付けはほぼ完了しました

『餌付けしてみました』と同設定。シズイザ未満。
















まもなく日付も変わろうという深夜のこと。
連絡もなく訪れた静雄に、臨也は迷惑そうに眉を寄せた。
ここのところ仕事が立て込んでいて、あまり機嫌がよくなかったのもある。
「何か用?」
と、素っ気なく訊いた臨也に静雄もムッとした表情を浮かべ、それから手に提げていたビニール袋を突き出した。

「飯、作れ」

なんとも強引な男だ。
文句を言ってもよかったがそれで暴れられても面倒だと思い直し、臨也はじゃあ入ってと促す。
まあ忙しすぎて夕食を食べ損ねていたのだ。丁度いい。と仕事を一旦休むことに決めた。

「でもシズちゃん、君、だぁい好きな先輩と夜ご飯食べたんじゃなかったの?昼に続いてファーストフードとか俺には理解できないけど」
「腹減ったんだよ…って言うかなんで知ってんだ」
「そりゃ、俺は素敵で無敵な情報屋さんだからね」

静雄が持ってきた食材を確認しながら、臨也は簡単に作れそうなものを考える。
何がいいかなぁ。ジャガイモにニンジンって、これひょっとして貰い物か何かなのか?あ、エリンギ発見。あとはレタスとほうれん草と――…いやいや待てよシズちゃん。君いつから菜食主義者になったのさ。何なのこれ?野菜料理でも作れと?

「…ねぇシズちゃん、ちょっと訊きたいんだけど」
「おう、なんだ?」
「今日は野菜オンリーなヘルシーメニュー?でいいのかな?」
「あ?んなわけねぇだろ」
「じゃあなんで野菜しか入ってないのさ」
「あー…葉物以外は貰いもんなんだよ。あと、肉やら魚やらは手前んとこのがうまいしな」
「ああそうかい」

まあ下手に安売りだとか特売だとかのものを買ってこられるよりはマシか。
そう考えて、臨也は溜息をつきつつ冷凍庫の中身を思い出す。
昨日は寒ブリを焼いたので魚は却下だ。だとすると――。

「ハンバーグでもいいかい?」
「すぐ出来んのか?」
「多めに作って冷凍しておくのは基本だからね」

じゃあ待っててと言えば、静雄はおう!とそれは嬉しそうに頷く。
いそいそとリビングへ向かう大きな子供の背を見送りながら、臨也はやれやれと首を振ったのだった。



「はい、味わって食べてね」
「ああ、いただきます」

ハンバーグは――臨也だけなら和風おろしハンバーグという選択肢もあったのだが、静雄の好みを考えてデミグラスソース。(尤も、ハンバーガーを昼も夜も食べたくせにハンバーグを喜ぶ静雄の気持ちは臨也には理解できなかったが。)付け合せの野菜は静雄の持ってきたもの。ジャガイモとニンジン、エリンギに、あとはほうれん草のバターソテーも少々。
ちゃっかり自分の皿からニンジンを外した臨也は、深夜に頂くには重いメニューに少し遠い目をする。
が、目の前の天敵はホクホク顔で自分の手料理を食べていて。
なんだかなぁ…と思いつつも、臨也は頬を緩めた。

「おいしい?」
「うまいっつーか、お前の作ったもんで不味いもんなんてねぇだろ」
「いや…俺だって人間だから失敗くらいするよ?」
「へぇ…」

想像できねぇな、と臨也を見て。
静雄は「ま、手前の作ったもんなら多少不味くても食うけどよ」と口にする。

――は?

思いもよらない言葉に、一瞬思考が停止した臨也に対し。
自分が何を言ったのかおそらくなんの自覚もないのだろう。
静雄はのんきにハンバーグの最後の一切れを口に放り込み、咀嚼している。
「…………」
いや、この単細胞の言葉に深い意味なんかあるわけないだろうし、そもそも材料がもったいないとかそんな理由だろう。ああもう心臓に悪い男だなぁ、そういうことは女の子に言いなよ。俺に言ったってしょうがないだろうに。
そう、混乱気味の頭をさっさと切り替えて溜息をついて。
臨也は何事もなかったかのように、静雄に「こんなに食べないから半分あげる」とハンバーグの乗った皿を差し出したのだった。














※たぶんなんという事のない日常の話。
いつの間にか静雄の目的が変わっているのに、たぶん双方とも気付いていないです。


BACK




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -