dr24 | ナノ





犬も食わない意味のないこと

※新羅と臨也の意味のない会話。




















暑さから少しでも逃れようとパタパタと手で仰ぐ臨也の首筋と鎖骨に赤い痣。
先程手当てしたばかりの手首のグロテスクな手形はきっちり包帯を巻いて隠されているが、そちらは惜しげもなく晒されていてあまり視覚的によろしくない。

「ねえ臨也、ちょっとは隠そうって気はないのかい」

問いかける新羅は心底うんざりした顔だ。
おや、という顔をした臨也が自身の鎖骨の少し上に浮く赤く色づくそれに指で触れる。
次いで顔を上げ、にやりと笑って臨也はかぶりを振った。

「いいんだよこれは。君たちが想像するような、そういう色っぽいものでもないしね」

くつくつと楽しげに笑う姿から、ここまで来る間にもわざとそれを晒して見た人間の反応を楽しんでいたことは明白だ。
悪巧みをせずともたちの悪い男であることにかわりはない。新羅は呆れたように見やってから、手元の薬と包帯の片付けに戻った。

「じゃあ何だって言うんだい?」

手持ち無沙汰ならぬ、手以外が暇だったので問いかけたに過ぎない。
それがわかっている臨也は、さして面白くもなさそうに口を開いた。

「昨日、どういう経緯だったかは忘れたけどシズちゃんと口論になってね」
「へぇ…静雄が口で対抗するなんて珍しいね」
「うん。っていうか、暴力で解決するような内容じゃなかったからさ」

そこで一旦言葉を切った臨也は、つ、と赤い花弁を撫でる。
それを横目で見ながら、そう言えば歯形でないのは珍しいなと新羅は思った。
喧嘩が原因ではないケガを負って新羅宅を訪れる臨也の肌…特に首周辺…は、大概酷い有様になっている。固まった血とくっきり刻まれた歯列の痕は無残で、痣はその後もしばらく臨也の身体に残っているのが普通だった。
それが今回はあまりにも少ない。治療が必要なのは手首くらいでそれも軽い捻挫でしかなかった。

「シズちゃんって肌白いじゃん」
「……まあ、そうかもね」

話が見えた気がした。何でそんなに君らは馬鹿なんだと言ってやりたいが、言ったところで聞く耳を持たない相手だし、そんなことに労力を使うのはごめんだったので結局新羅は何も言わなかったが。

「でさ、どっちが白いかって話になってさー。俺は絶対俺よりしずちゃんのが白いと思うんだよ。色素薄めだし。でもシズちゃんは俺のが白いって言い張ってさ」
「ははは…君らって本当にそういう時でも干戈倥偬というか…。臨也、君は静雄が絡むと途端に軽挙妄動になる自分を自覚しているかい?」
「煩いよ」

睨みつける臨也は、だが別に怒っているわけではないらしい。
面白そうに笑みを浮かべている。

「まあ、結局さ。試すことになったんだからある意味手が出たのと同じようなものだったけど。お互いに痕つけて比べてみたんだよね」
「…そういう展開になるのは君らなら想像できるけどね」
「シズちゃんの場合は次の日には痕が消えちゃうからその場で比べるしかなくてさぁ。本当はより長く残ったほうがきめ細かくて肌が白いってことで決着できれば良かったんだけど」
「うん。もういいよ。俺はもう聞きたくないな」
「だめ。聞かせる。っていうか、聞け」
「うわ、最悪。ああセルティ。何で君は今ここに居ないんだい。僕はもうこんな惚気なんて聞きたくないよ」
「何処が惚気だ」

君らの場合それは間違いなく惚気だろう。低い声で反論する臨也にそう答えようと新羅が口を開こうとした時。

がこんッ。

大きな騒音…というより何かが吹き飛ばされて床に当たった破壊音だ…が響く。
ああ、なんで今日に限って千客万来…いやたった二人だが…なんだと新羅は呻いた。

「臨也!手前これはなんだ!!」

怒鳴り込んできた静雄が自分の腕をずいっと相手の前に突き出す。
そこには見事な歯形があった。ああ、歯並び良いんだねとか新羅は現実逃避気味に思う。
とりあえず壊されたドアの請求は臨也に回そう。そう決めて、静雄に声をかける。

「やあ静雄。今日も相変わらずだね。でもできれば扉は壊さないで欲しかったよ」
「よう新羅…ああ悪ぃな。臨也の野郎がここに逃げ込んだもんでよ」

場に不似合いなのんびりとした声で挨拶する闇医者と借金取り。
そんな二人と、見るものを怯えさせるような静雄の形相など気にした様子もなく、臨也は首を傾げ静雄の腕の歯形をつつきながら言う。

「逃げ込んでないよ。手首がちょっとヤバかったから診てもらいに来ただけ」

その言葉に、静雄は片眉を跳ね上げ新羅に視線で問うた。
応じて首を縦に振って新羅は一応闇とはいえ医者らしく忠告する。

「軽い捻挫だけど、あまり何度もすると癖になるから気をつけたほうがいいよ」
「…わかった」

重々しく頷く静雄に、どうせ怒ったりしたらすぐ忘れるから無駄と臨也が呟いた。
これは黙殺することにしたらしく、静雄はもう一度臨也に腕の歯形を見せて、

「手前こんな痕つけやがってどういうつもりだ」
「だってシズちゃん噛んだ時何も言わなかったじゃん。俺だけ痕残るとかムカつくしさぁ」
「だからって思いっ切り噛み付く馬鹿がいるかッ」
「それぐらいしないと次の日まで痕が残らないシズちゃんが悪い」

ああもうなんなの。新羅は耳を塞ぎたい気分で天を仰いだ。
人の家まで来て痴話喧嘩をするこの二人を今すぐどこかにやってしまいたいと痛切に思う。

「人の首とかに盛大に痕残すってどんだけ独占欲強いのさ。俺は君の所有物じゃないんだよ?」
「あァ?なに言ってやがる?昨日のそれは手前の言い出したやつのせいだろうが。まず第一に、手前は俺のもんだろうが」
「はあ?馬鹿じゃないの?俺は俺だけのものですよ?どこかの単細胞暴力男にくれてやった覚えはありませんッ」

うるさい。五月蝿と書いてうるさい。ああ昔の人はよく言ったものだ。
新羅が壊されたドアの修理を業者に依頼する間もその応酬は続いている。
少し離れ、通話相手にその声が漏れないように配慮する自分なんて偉いんだろうと自画自賛してみる。…現実逃避だ。わかっている。
そうして少しだけ自分を慰め、新羅が電話を終えて戻ろうとした時、姦しかった声が急に途絶えた。
おやと思いながらもいつまでも廊下にいるわけにいかないので戻る。直後に後悔した。

「ふ…ぅッ」

決して軽いキスでないのは傍目にも明白で。新羅はため息をついて見ぬ振りをするべきか、いっそ堂々と見ているべきか迷う。
そうこうしている間に合わさっていた唇が離れ、大人しくなった臨也に静雄が満足げに目を細めたのが見えた。
それから、ふと、静雄の視線が臨也のシャツの合間から見える肌を辿り、

「ああ、ちゃんとついてるな」

つ、と先程臨也がしたのと同じ仕草で臨也の鎖骨の上の赤をなぞる。
その一部始終を視界に入れてしまった新羅は、ああもうヤダこのバカップル!とついに盛大に目を背けたのだった。














※無自覚に惚気る情報屋と迷惑掛けられっぱなしの闇医者。
言い忘れましたが当サイトは新セルを推奨しております。


BACK




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -