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それらすべて愛しき日々(仮)

※パラレル。来良組も来神組もみんな高校生で同級生。臨也さん完璧別人警報。
















「僕、臨也さんが好きなんです」

唐突な、本当に話の流れからして唐突な言葉だった。
臨也はきょとんと帝人を見下ろし、首を傾げる。

「?――俺も、帝人くんのこと好きだけど?」

空気が凍った。
しん、と静まり返った昼休みの教室。
あれ?と臨也は不思議そうな顔で周りを見回す。

「どうしたのさ?」

とりあえず、もっとも近くにいた新羅に問えば、引き攣った笑みを浮かべて首を振る。
さらに首を傾げた臨也は、周りの人間が、

――鈍い。鈍すぎる!

と思っていたことには気づかなかった。
ついでに、一部の察しのいい生徒が被害を避けるためにこそこそと教室を逃げ出したことにも、気づかなかった。

「…なに?」
「…臨也さん鈍いっすね…」
「なにそれ?失礼だよ正臣くん」

いやいや。失礼でもなんでもないですよー。
そう思うが、二人の人間の視線…というか、圧力を感じて、正臣は黙った。
昼休みで昼食の真っ最中だというのに、なんでこんなストレスの溜まりそうな状況になっているのか。少し、場所を考えずに発言した親友に文句を言いたい気分になる。
だが、それよりも何よりも、臨也が鈍いことが問題だろう。
中学時代から自分への好意には鈍かったが、ますます磨きが掛かっている気がする。
もっとも、臨也にとっては帝人は(同い年だが)弟のようなもので、無邪気に懐いてくる帝人を可愛がっている。だから、まさか帝人の『好き』が下心を含んだ好きだなどとは思いもしないのだ。
思わず溜息が漏れる。

「…臨也、お前はもう少し警戒心をもて」

もはや父親も同然な気分の門田にそう注意されても。
臨也は意味が分からないと言いたげな顔をするだけだ。

「ドタチン、それどういう――」
「うん。臨也、少し黙ろうか?」
「なに新羅?俺、何かした?」
「いやいや、君は悪くないよ?」

君はね。
門田と新羅に頭を撫でられて眉間に皺を寄せ、子供扱いするなと唸る臨也の姿はいっそ微笑ましい。が。
先ほどから無言で帝人と睨み合いを続けているもう一人の友人に気づいている彼らは気が気ではなかった。まさに一触即発の状況なのだ。とにかく臨也に余計なことを喋らせてはいけない。

「臨也さん、とりあえず飯食っちゃいましょう?」
「いいけどさぁ、みんなどうしたのさ」
「気にしなくていいよ。たいして面白い事じゃないから」
「臨也、さっさと食わないと時間がなくなるぞ」

さりげなく、帝人の宣戦布告――と、彼らは受け取った――を受け、腸が煮えくり返っている静雄から距離を取る。

「あれ?シズちゃんたちは?」
「うん。あの二人は放っておいていいよ」
「?…そう?」

状況を理解していない臨也はやはり鈍いと言わざるを得ないだろう。…将来が心配である。


 ***


「…竜ヶ峰。手前、いい度胸じゃねぇか」
「僕はいつまでも指をくわえて見ているだけの意気地なしとは違いますんで」
「…………」
「…………」
「……殺す」
「それはこちらの台詞ですよ」

睨み合いから喧嘩に発展しそうな静雄と帝人に。
新羅はやれやれと溜息をつく。
そして、弁当の中身をつつく臨也に声をかけた。

「あーあ…臨也、やっぱりあれ止めてよ」
「なに?また冷戦?」
「…みたいだよ」

君を巡る争奪戦なんだけどね…。口には出さないがそう思って、新羅はとにかく止めてよ、と頼む。

「シズちゃんも帝人くんも暴れちゃだめだよ。それより昼、食べちゃわないと時間なくなるよー」
「……おう」
「…わかりました」

臨也の言葉に二人は渋々といった様子で頷き、それぞれの席に戻っていく。それを確認し、新羅が再び自分の弁当に向き直った時――

「臨也さんは帝人のこと、好きなんですか?」

二人に聞こえないように小声で、正臣がそう訊いたのが聞こえた。
(ちゃっかり臨也と向かい合って食べているが、そこはあえて突っ込まないでおく。)
対する臨也は、それが何を引き出す為の言葉かを考えることなく頷く。

「うん。好き――あ、もちろん正臣くんも好きだよ?」
「俺も臨也さんが好きですよ」

望み通りの言葉を引き出すことに成功した正臣が満足げに微笑む。
ついでにさらりと告げた告白は、通じないことが前提で。
にこにこと笑い合う二人に、報われねぇなと門田は呟いた。構わないっすと返す正臣に、やはり臨也は不思議そうな顔をするだけだ。

「あれ?なんか、俺だけ仲間外れっぽくない?」

新羅は納得いかないとむくれるその黒髪を撫でる。

「みんな臨也が好きだって話だから、気にしなくていいんだよ」
「…………」

しかし、ちょっと育て方を間違えたかもね。と、そう思う。いや、別に新羅が育てたわけではないが、臨也が恋愛沙汰に鈍いのは間違いなく遠ざけ続けた自分たちが原因だった。他人の感情の変化には鋭いはずなのに、それに自分に対する好意が絡むと途端に鈍くなるのは、これから先困るかもしれない。
でも、

「僕も臨也が好きだよ。セルティの次にだけど」

と、さりげなく自分の好意をアピールする。
そうすれば、

「俺も新羅のこと好きだよ」

そう答えてくれると知っているからだ。
やっぱり臨也にはこのままでいてもらいたいなぁ、と思ってしまう自分を、新羅は改める気はなかった。

「君ってホントに鈍いよねぇ」
「…それ、さっきも正臣くんが言ってたけど、どういう意味さ」
「あはは。うん、分からないなら、分からないままがいいと思うよ?」
「なにそれ――」
「ちょ、彼女がいるくせに何してんですか、新羅さん」
「臨也、こっち来い」
「あ、門田くんずるいよ。それに沙樹ちゃんがいる紀田くんには言われたくないなぁ」

文句を言う正臣の相手をしている新羅から門田に視線を移した臨也に。
門田は手を伸ばし、くしゃりと頭を撫でる。

「俺も、臨也が好きだぞ」

そう言われて、臨也は嬉しそうに「俺も」と笑って。
それから、あれ?という顔をした。…ようやく何か変だと思ったらしい。

「…ていうか、みんなどうしたのさ?」

問うが、臨也の手前、あからさまに怒れない二人にじっとり睨み付けられて。
周囲は、何でもないと首を振るだけにとどめた。

「たまには言っておきたかっただけだよ」

僕たちは君が大好きだからね、と、新羅がそう言って。
それに臨也はくすぐったそうに目を細めて、柔らかく笑う。

「俺も、みんなが好きだよ」

臨也はそうしてるとかわいいなぁ。これで変なこと企まなきゃもっとかわいいのに。
そんな本音は口にせず。新羅は代わりとばかりに痛いくらいの視線を送り続ける静雄に矛先を向ける。

「で?静雄は?」
「あ?」
「静雄は言わないの?」
「…………」

うろうろ泳ぐ視線。
見つめてくる臨也の視線は酷く真っ直ぐで。
やましい気持ちを抱えている身としては、非常に痛い。

「…シズちゃん?」
「あー……あの、な」
「うん」

正直、静雄はここまで緊張したのは初めてだというくらいに緊張していた。
心臓の音がうるさい。

「お、俺も、手前が好き、だぞ」
「うん。俺も好きだよ」

何とか、どさくさに紛れて口にした告白は、やはり受け流されたが。
嫌いと言われなかったので静雄は一応満足した。
だが。
目下最大の敵対勢力は、そんな静雄の態度に敵愾心を燃やしたらしい。

「静雄さん、少し話があるんで付き合ってもらえますか?」
「……。おう、俺もさっきから話しておきてぇことがあったんだよ」

険悪な空気をまき散らし出ていく二人に。
臨也は「昼、食べなくていいのかな」と呟いたのだった。
本当に報われない。

と。一人黙々と昼食を進めていた杏里が箸をを置いて臨也を見た。
じっと見つめられて臨也がなんだと思うまもなく、彼女もまた、彼に告げる。

「私も、臨也さんが好きです」
「ありがと。俺もだよ」

ふわりと笑う臨也は、その好意が友愛であると信じている。

「やっぱり、臨也さんは、鈍いです」
「えー…杏里ちゃんまで?…俺、そんなに鈍い?」
「はい」

そうかなーと首を傾げる臨也に。
杏里はくすくすと笑って、臨也さんはそのままでいいですから、と言うのだった。














※総愛され(友愛含む)な臨也の話。

中学時代から過保護な人たちに囲まれているもんだから毒気がほぼ0な臨也さん。実に平和です。


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