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体育祭

※つきのさま「来神シズイザで体育祭」 後編。
















ようやく静雄が一息ついたのは、あの後さらに一回競技に出てからだった。
面倒だと言いつつも真面目な静雄はきちんと出ているのだから、基本的にサボる方針の臨也にしてみれば、よく頑張れるよねぇあんなもの、と言ったところだ。

「あ、俺そろそろ行かないと」

プログラムの順を思い出しながらそう言って。
よいしょと立ち上がって、伸びをする。
と、
「臨也!さっさと来い」
門田に呼ばれた。
どうやらもう集合しているらしい。
「今行くから!」
叫んで、まだ横にいた新羅と戻ってきていた静雄を見て。
じゃあ、俺行ってくるね、と言って軽い足取りで門田の方に向かう。
次の競技は――、

「ハードル走かぁ」
「ああ、あいつノミみてえにピョンピョン跳ぶしな」
「それ関係ないと思うよ」

妙な返答に苦笑して、それから話をしながら待つことしばし…。
ようやく臨也の番が回ってきた。
スタート地点に並ぶ臨也は、見るからにやる気のなさそうな顔である。
当然のように、スタートしてからもやる気はなさそうだが。

「ああ、でもやっぱり早いねぇ」

さすが静雄と毎日飽きもせずに追いかけっこをしているだけのことはある。
とても真剣にやっているとは思えないのに普通に早いなど、真面目に練習していた人間からすれば許されることではないだろう。
「まあ、臨也の場合、毎日命がけだから早くもなるかもね」
命のかからないスポーツとしてやっている人間とは鍛え方も違うのかもしれない。
そんなことを一頻り考えて、そこでようやく新羅は隣の人物がやけに静かなことに気付く。まあ、彼は臨也が絡まなければ比較的名前通りの静かな人間なのだが。

「静雄?」
「………」

呼ぶが、返事はない。
静雄の視線は、まっすぐに一人だけに固定されている。
それを確認し、新羅はついさっきも違う人物が同じことをしていたのを思い出した。

「…静雄くん」
先程より少し呆れを含んだ語調で言えば、びくっと反応した静雄が新羅を見る。
「お、おう、何だ」
「…君って本当に臨也だけ特別なんだねぇ」
「なっ、なな、何言ってやがんだ!そんなことねぇよ!!」
「……そうかい」

ブンブンと首を振って否定する静雄。しかし、その否定を信じる人間はいないだろう。
呼びかけに、明らかに臨也だけに集中していた視線をぱっと逸らす辺りが臨也よりは幾分マシだが。
それでも新羅に言わせれば、五十歩百歩。似たもの夫婦め。というのが感想だった。
やれやれと首を振って、髪をかき上げて。
新羅は早くセルティに会いたいなぁと現実から逃避するのだった。





しばらくして、臨也が戻ってきた。
新羅と静雄に手を振って。
それから競技のアナウンスに耳を傾けて、静雄に顔を向ける。

「しーずちゃんこうたーい」
「おう…」
対する静雄の歯切れは悪い。
「?…どうしたの?」
「何でもねぇよ」
「そう…?」
当然それに気付いた臨也は首を傾げるが、静雄は僅かに視線を逸らしてしまった。
まさか君まで惚れ直したとかないよね?そう思うが、今口を出す勇気はないので新羅は引き攣った笑みを浮かべるにとどめ。代わりにこの場を離脱すべく口を開く。

「じゃあ、僕はそろそろ行くよ。あまりサボってるとマズイからね」
「あ、じゃあ俺もついていくよ」
「………なんでだい」
「だって俺、今暇だから」
「…………」

離れたかったのに離れさせてはもらえないらしい。
じゃあね、と次の競技に向かう静雄に別れを告げて。
臨也はさっさと救護テントに向けて歩き出してしまった。

「待ってよ、臨也。一緒に行くのはいいけど余計な用事を増やさないでよ?」
「んー…多分大丈夫なんじゃない?」

にやにや笑う臨也の顔は、何か企んでますと言わんばかりだ。
たぶん今の彼には何を言っても無駄だろう。
せめてとばっちりを受けませんようにと祈ることしか、今の新羅にはできなかった。
ついつい臨也を押し付ける相手――当然門田だ――を探すが見つからず項垂れる。

「大丈夫だよ。君に害はないと思うから」
「…それ、信用できるのかい?」
「うん」

こくりと頷いて。
臨也はほら、とグランドを指差した。
そこでは既に次の競技が始まっている。
今の競技は『借り物競争』だ。

「高校生にもなって借り物競争はないよねぇ」
「…まあ、確かにね」

誰の立案か知らないが、面白くはあるがさすがに微妙だ。
そう思って苦笑した臨也が「あ、シズちゃんの番だね」と呟いて。
新羅も静雄に視線を向ける。

「…何を企んでるんだい?」
「さあ?」

にやにや笑いは消さぬまま。
それは秘密だよ、と臨也はウインクひとつして言った。



臨也と新羅がそんなやり取りをしている頃。
二人に見られているとも知らず、静雄は落ちている紙を一枚拾い上げた。
高校にもなってまさか借り物競走をするとは。
臨也が同じような感想を抱いているとも知らぬまま、彼は手にとった紙を開き。

………。
…………。
……………。

「いぃざぁやぁああ!手前の仕業かぁあああ!!」

怒りのまま雄叫びを上げ、臨也がいるだろう方向――救護テント付近に人を殺せそうな視線を向ける。
すぐに目標の人物は見つかった。臨也も静雄の叫びは聞こえていたようで、ひらひらと手を振って見せていて。
ふざけやがって!ぶっ殺す!!
心の中でありったけの罵声を浴びせ、静雄はにっくき仇敵に向かって走り出した。



「あははっ、怒らせちゃったみたいだね」
「…君、なんて書いたのさ」
「秘密」

競技そっちのけで、恐ろしい形相で迫ってくる静雄に。
臨也はにやにや笑いは消さぬまま身を翻した。

「じゃ、俺逃げるから!」
「え、君このあと100m走あるよね?」
「シズちゃんのあの剣幕じゃそんなの出てられないよ!」

じゃあねと走り出した臨也と、それを追って駆け抜けていった静雄の背を眺め、新羅は首を振る。
まんまと脱走の口実にされたと静雄が気づくのはいつになることやら。
とりあえず、臨也と静雄の棄権を伝えねばならなくなった新羅は、面倒だなぁ、と溜息をついたのだった。














※似たもの夫婦(笑)と体育祭。

ちなみに、二人の出場競技は、『静雄:100m走、1000m走、障害物競走(臨也による静雄対策あり)、借り物競争(臨也による仕込みあり)、その他多数。(ただし個人競技に限る) 臨也:100m走(学年全員参加。結局サボった)、ハードル走。』でした。
色々盛り込みすぎで長くなりそうだったのを前後編で収めようとした結果、逆に色々不足した気がします。…精進します。
遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
リクエストありがとうございました!


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