dr70 | ナノ





まさかの展開

※新臨+シズイザ。臨也がいつにも増して別人。











その時、臨也が来ていると知っていたら静雄は絶対新羅のマンションに足を踏み入れはしなかった。
だが、もし足を踏み入れなければ静雄は今頃後悔していたはずだと、そう…忌々しいが…確信してしまっていた。



インターホン越しに挨拶し、招き入れられるまま入ったマンションで。

「新羅」
「はいはい」
「………」

目の前で起こっている光景に、静雄は目を丸くした。
脳が明らかに理解を拒絶しているが、見た光景が覆されるわけもなく。
いやいや、ちょっと待てよお前ら。お前らそんな関係だったのか?っていうか新羅、手前セルティはどうした!?と、混乱した頭の中で必死に叫ぶ。
目の前で繰り広げられる行為――それは、明らかにキスと呼ばれるものだった。しかも軽い触れるだけのものでないことは漏れ聞こえる水音からも明白だ。

「ちょっ、っ手前ら、なにして、やがんだ…っ」

何とか絞り出した声に、新羅がちらりと静雄の方を見る。が、行為を中断する気がないどころか、見せつけるかのようによりいっそう合わせを深くした。

「…ん、う…っ」

恍惚とした表情で新羅のキスを受け入れる臨也の方は、静雄の言葉など聞こえてもいないらしい。新羅の白衣にしがみつくようにして身を預けている。

「は…っ、しんら」
「気持ちよかった?」
「ん、よかった」

たっぷり数分臨也の口内を味わってから、新羅が問う。こくりと頷く臨也は甘えるようにその肩口に額を押しつけていて。

「…っ」

なんだかよくわからないが、静雄は無性に腹が立った。
セルティという恋人がいるのに臨也とこんなことをする新羅に対してか、新羅を誘う臨也に対してかはわからなかったが、とにかく腹が立った。

「いい加減にしやがれ」

ぐいっと臨也のコートのフードを掴んで引き剥がす。予想外に簡単に離れた細身の身体がそのままよろめいて静雄の胸に倒れ込んできた。

「なにすんのさシズちゃん…っていうか、君いつからいたのさ」
「それはこっちの台詞だ」

憮然とした顔で抗議する臨也を睨めばきょとりと見上げてくる。その表情に静雄の言葉を理解した気配はなかった。

「…え?俺、なんかした?」

首を捻る姿は無防備そのもので、このまま首をへし折ってやろうかと暴力じみた考えが頭に浮かぶ。それを深呼吸でいなして、かわりに新羅に視線を向けた。と、にやにや笑う顔が視界に映る。

「やあ静雄いらっしゃい」

その表情がすごくムカつく。
優越感を露わにしたような表情は、まるで静雄を馬鹿にしているようだった。否、明らかに馬鹿にしていた。

「…手前、わざとか」
「さあなんのことだい?」

イライラする。ムカつく。許せない。
こいつは俺のだ、とほとんど無意識に臨也を抱きしめて。
そこではたと自分の奇妙な思考に気がついた。
…こいつは俺の?なんだそれ?と首を傾げて、静雄は腕の中の男を見下ろす。

「…シズちゃん?」

暴力を振るわない静雄を不思議に思ってか、臨也は不振そうな顔を向けている。そのどこか警戒心に欠く無防備さの一因が新羅にあるのだと悟って、苛立ちが一気に加速した。

「手前、新羅とつき合ってんのか」
「は?」
「だからっ」

怒鳴るように繰り返そうとした静雄に臨也が困惑の表情を浮かべる。

「…あのさ、シズちゃん。新羅は運び屋の恋人だよ?俺とつき合うわけないじゃん。君頭大丈夫?」

あ、大丈夫じゃないからそんなこと聞くのか、と呟く臨也は本気らしいが、本当にそうなのかと新羅に目で問うと含み笑いが返る。

「だいたいなんでそんなこと思うのさ…って」

一回言葉を切って、臨也はああ、と納得したような表情をした。

「もしかしてさっきのキス?あれは昔からの習慣って言うか…」
「…習慣って…手前」
「うん。俺、昔新羅と少しだけつき合ってたからさぁ」

新羅ってキス上手いんだよ。
さらりと言われた台詞に、静雄は硬直した。
つき合ってた?こいつと新羅が?
再び混乱をきたして思わずじっと臨也を見つめてしまう。

「シズちゃん?」

どうしたのだと問う声が、ひどく遠く感じた。

「…そういうの、やめろ」
「?」
「恋人がいるやつと、浮気みてぇなことすんな」
「…浮気、なのかな?新羅?」
「僕としては役得だけどね?」

くすくすと笑う童顔の闇医者を睨むが、肩を竦めるだけで大して気にもしていないらしい。それが益々静雄の苛立ちを煽るのだと知ってやっているとしか思えない態度だった。

「私の中でセルティへの愛と臨也への好意は別物だからね」
「手前」

ぎりっと奥歯を噛みしめる。
別物?そんなのただの言い訳、屁理屈だ。認められるわけがないと、強く思った。殴りたい衝動を抑えられなくなりそうになって拳を握った、その時――

「んー…つまり、シズちゃんは俺が新羅とキスしたのが気に入らないわけ?」
「なっ!?」

今まで沈黙していた臨也がなんの含みもなく言った言葉に、思わず絶句する。その通りだった。言われて初めて意識したが、静雄はそれが気に入らなかったのだ。図らずも知ってしまった自分の本心に困惑する。

「…シズちゃん、俺のこと嫌いだよねぇ?」
「あ、当たり前だろうがっ」
「ふうん」

今更言えるわけもなく臨也の確認を肯定すれば、そっかと頷く。

「じゃ、新羅が俺の毒牙にかかるのが心配なのか」
「───は?」

なんだそれは。

「でもそれはもう遅いかもよ?俺と新羅って中学の時からのつき合いだし、ねぇ?」

くつくつ笑う臨也に、さっきとは若干違う種類の怒りが沸く。ムカつく。許せねぇ。そう思う。臨也が自分以外となど、静雄には許せるはずがなかった。
気づいてしまった感情を否定する間もなく怒りに支配されて。
静雄はその衝動のまま抱き込んだままだった臨也の顎を掴む。

「…このノミ蟲野郎が」
「?…シズ…っ!」

がつりと歯がぶつかったが気にする余裕などない。
噛みつくようなキスに強ばった身体を抱き竦めて欲望のまま貪った。

「ん、ぅ…んんッ」

臨也が嫌だと逃れようとするが、静雄の力の前では臨也の抵抗などないに等しい。

「やっ、しずちゃ」
「黙れ」
「ふ…ぅう…や、しんらっ」

悲鳴のような涙声の直後、ちくっと首筋に痛みが走った。

「っ…手前!」

くらりと一瞬視界が歪んで、緩んだ手から細身の身体が取り上げられる。
注射器を片手に静雄を挑発するように笑んだ新羅が、腕の中に臨也を閉じこめて言う。

「静雄、臨也をあまりいじめないでほしいんだけど?」

大丈夫?と問う新羅と震える手でその白衣を握る臨也。
その背を優しく撫でる手。臨也に触るなと思うのに、声が出なかった。

「静雄、君は臨也のことが嫌いなんだろう?なのにこういうことするのはよくないんじゃないかなぁ?」
「っ…手前だってよくねぇだろうがっ」
「でも俺は君と違って臨也のことが好きだよ?こうやって抱きしめたいと思うし、キスだってしたくなる」
「っ…とにかく、そいつを離せ」
「なんでだい?」
「なんでって…」

なんでと言われても、静雄には答えようがなかった。今更すぎて、言えるわけがなかったのだ。
そんな静雄に新羅が意地の悪い笑みを浮かべた。戸惑うように静雄と新羅のやりとりを見ている臨也の頬に唇を寄せて、

「君に指図される覚えはないよ。これは僕と臨也の問題なんだから」
「…新羅?」

ちゅ、とキスする。
その表情が見えていない臨也が困惑気味に新羅を見ようと顔を上げて。その唇にまたキスが落とされる。

「ん」

されるがまま従順に新羅の行為を受け入れる臨也の姿は、今の静雄には耐えがたかった。自覚するまでの自分なら何とも思わなかったのだろうが、今は腸が煮えくり返るような嫉妬を感じる。

「離せ」

自分でも驚くほど低い声が出た。

「静雄?」
「そいつは俺のもんだ。触んじゃねぇ」

獣の威嚇に似たそれにも新羅は怯む気配はない。
楽しげに目を細めて、臨也を抱く腕に力を込めたのがわかった。

「へぇ?嫌いなのに?」

嘲るような声は、明白な挑発だ。
それがわかっていても乗る以外になかった。とにかく離せ、そいつは俺のだ。そう感じるまま吐き出す。

「…嫌いじゃねぇよっ。これでいいんだろうがっクソッ」

もう恥も外聞もどうでもいい。臨也に弱みを握られようがなんだろうが、今俺以外の男が臨也に触れていることの方が堪えがたかった。
目を見開いた臨也が静雄を見つめているが、それを気にする余裕もない。ただ、目下最大の敵を睨み据える。
が。

「うん。ならいいよ」
「へ?」

至極あっさり、新羅は頷いた。
一瞬何を言われたかわからず呆けた静雄に苦笑して、ほら、と臨也の背を押して。
振り返って新羅を見た臨也に新羅は微笑む。

「…新羅?」
「良かったね、臨也」
「………」

その言葉に何度か瞬いて、臨也は溜息をひとつ吐いてから、こくりと小さく頷いた。

「良かったかは、わからないけどね。…新羅、俺ひょっとして心配かけた?」
「だいぶね」
「…そっか。ごめん。あと、ありがと」
「いいよ。まあ、少し残念だけどね?」

くすくす笑いながら、くしゃりと頭を撫でる手が離れて。
新羅は静雄に顔を向けた。

「ねぇ静雄、臨也のこと泣かせたらただじゃおかないからね」
「っ」

口元は笑っているのに、目は笑っていない。その鋭い視線に静雄は一瞬息を詰める。
後は二人で話し合ってね、と手を振って出ていく背を見送って。
その背が完全に視界から消えて、静雄はようやくゆるゆると息を吐いて力を抜いた。
そして、そこで臨也の視線に気づく。
じっと静雄を見つめるその赤みの強い瞳はいまだ困惑の色が濃い。

「………あー…っと、その、だな」
「…………」
「なんて言えばいいのか、困るんだけどな」

一難去ってまた一難…とは少し違うが、似たようなものだ。
うろうろと視線を泳がせる静雄をしばし見つめていた臨也が、こてんと首を傾げて口を開く。

「…シズちゃんいつから俺のこと好きだったのさ」
「…知らねぇ。気づいたのだってついさっきだぞ」
「そっか。まあシズちゃんだしね」

くくっと笑う臨也は見た目いつも通りの臨也だった。

「…手前は俺のことどう思ってるんだ?」

問うと、困ったような表情を見せて「…新羅のおせっかいのせいだ」と呟く。

「俺さ」
「おう」
「言う気なかったんだよねぇ。だってシズちゃん俺のこと好きじゃなかったし」
「…今は、んなことねぇよ」

うんそうだね、と、こくりと頷いて、いつになく素直な表情を見せる相手にドキリとする。

「俺はずっと前からシズちゃんが好きだよ」

これでいいかな?と小首を傾げて言われて。
舌打ちが漏れた。
もっと早く自分の気持ちに気付けば、新羅に触れられることはなかったのだ。なのに、と思う。

「…ずっと前っつーけどよ、手前こそいつから好きだったんだ」
「んー…秘密、かな」
「手前」
「ははっ、でもずっと好きだったよ」

殺したいくらいにさ。
囁き声とともに間合いに踏み込まれて、ちゅっとリップ音。
それが完全に離れる前に捕らえて、合わせを深くする。

「…ん」

さっき怯えさせてしまった分できる限り優しくしようとしたのだが、どうやら臨也は不満らしい。
唇を離した後で静雄の額にごつんと自分のそれをぶつけて文句を言う。

「やっぱ下手」
「…悪かったな」
「いいよ。しょうがないから俺好みに調教するし」
「ああ?」

なにやら聞き捨てならない単語が混じっていたが、

「ね、もっとしよう?」

そう言われて文句を言う機会を逸した。
何度か触れるだけのキスを繰り返す。

「キス、好きなのか」
「うん好き」

うっとりと言われて、なら上手くならねぇとなと思った。でないとこの男はまた他の相手としそうである。

「あ、俺、新羅とは最後までしてないからね」
「…そうなのか?」
「うん」

だから今度してみようか、と誘われて。
静雄は手前が嫌じゃねぇなら断る理由はないなと頷いた。













※過保護で世話焼きな新羅とそれに甘えてる臨也の話。(…静雄はどうした。)
ドタチンでやると掛け算になりそうになかったので今回は新羅で。管理人は新臨も好きなのです。


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