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この世で一番大事なもの

※吸血鬼パロ。フリリクの吸血鬼パロと同設定。











「しーずちゃん」

ぎゅうっと後ろから抱き付いてくる臨也に「なんだ」と応じた。

「んー、なんでもないー」
「手前な…」

そのまま俺の背中に懐くこの生き物は、人間ではない。
強いて言うなら元人間と言えなくもないが、今のこいつが人間でないことに違いはない。
人間の生き血を啜る夜の住人。こいつの種族、それは“吸血鬼”と呼ばれている。

「シズちゃん、俺おなか減った、かも」
「あ?…あー…前喰ったの随分前だしな」
「うん」

確か二週間くらい前か。と考えて、頷く。

「くれてやるからこっちに座れ」
「はーい」

背から軽い重みが(考えてみれば妙な表現だが実際臨也の体重は相当軽い)退いた。
示されるまま素直に俺の膝に乗り上がる臨也の腰に手を回して支えてやって、真正面から向き合って。
合わされた赤味の強い瞳の色が俺だけを見つめるのに密やかな満足を覚える。

「しずちゃん?」

とうに成人しているのに臨也は何処か稚い仕草をする。
新羅に言わせればほとんど精神が成長していないからだということらしいが、臨也が吸血鬼になったのは中学に上がる少し前だという話だから、確かにそうなのかもしれない。

「…ちょっと残念だったかもなぁ」
「?…なにが?」
「手前が吸血鬼になり立ての頃に出会ってればよ、手前の“初めて”を全部俺のものにできただろうが」
「…なにそれ」

意味わかんないとぼやく臨也にほらよ、と首を差し出せば。
柔らかい唇の感触がすぐに降りてきた。
ぺろりと舐められてくすぐったさに僅かに身を竦ませて。

「飲まねぇのか?」

問えば、不満そうな声が返る。

「さっきの発言が気になってるの」
「あ?ああ、だって手前の初めては全部他の奴が持ってっただろうが」
「だからその初めてって…なにさ」
「だからよ」
「うん」
「手前のキスもセックスも全部、他の野郎が持ってってるのが気にいらねぇんだよ」
「………」

急に黙った臨也を訝しんで顔を上げさせると、きょとんとした顔が見えた。
なんだよ、俺の独占欲が強いことぐらい知ってるだろうに。
しばらくの沈黙のあと、臨也は大きく大きく溜息をつく。

「……馬鹿?」
「どうやら飯はいらねぇみたいだな」
「いやいるし。さすがに俺もおなか減ったからこれ以上は無理」

ぶんぶん首を振って否定して、臨也は困ったような微妙な顔をした。

「俺、ファーストキスなんて幼稚園の時に済ませたしさぁ…そんなこと言われても困るんだけど」
「…吸血鬼になったのは中学上がる少し前だろ?」
「うん」
「だったらせめて、最初の吸血くらいは貰いたかったって思ってもしかたねぇだろ」

吸血鬼にとっては吸血はある意味性行為よりよっぽど気持ちのいいものらしいし、最初の相手は忘れられないものらしい。
だったら希少価値じゃねぇか。心が狭いと言われようと、臨也の心に深く刻まれてる相手が俺じゃないのが気にくわねぇんだよ俺は。

「…俺、人から直接血を吸ったのはシズちゃんが初めてだよ?」
「………嘘だろ?」
「いや、ホント。嘘言ったって仕方ないでしょこんなこと。ついでに言うなら俺は君以外の人間の血なんて吸ったことないよ」

失礼だね君、と言って臨也は気分を害したのかもぞりと身じろいで離れようとする。
それは手に力を込めることで制して、俺は腕の中の吸血鬼の顔を注意深く見つめた。ころころと表情を変えるし表情を繕うのも得意だが、俺に対しては比較的無防備なやつだ。不愉快そうに寄せられた眉間の皺以外、特筆すべきことを見つけられない秀麗な顔。それをたっぷり十秒は眺めてから、俺は納得して頷いた。

「嘘じゃねぇみたいだな」
「最初からそう言ってるし。俺、シズちゃんと契約するまではずっと人工血液飲んでたんだからさ」

そう言えば、こいつは俺のになる前は新羅に飼われてたんだったな。
だとすればそれもありえないことじゃない。
…ああクソ。やっぱりさっさと探し出すべきだった。俺以外がこいつを飼ってたとか、すっげぇムカつく。
次新羅に会ったらうっかり殴ってしまいそうだ、などと思いながら腕の中の痩身を抱き締める。

「しっかし、シズちゃんって本当に嫉妬深いよね」
「嫌か?」
「嫌じゃないよ。むしろそういうのは嬉しい」

もう機嫌は直ったらしい。くすくす笑って懐いてくる臨也は甘ったれた声で俺の名を呼ぶ。

「シズちゃん、俺はもう、シズちゃんだけのものだよ?」
「当たり前だろうが」
「うん」

こくりと頷いて嬉しそうに笑う臨也に。
こいつは誰にも渡さないと誓いを新たにした。

「臨也」

名を呼ぶたびに強まる契約の拘束力をこいつは理解していないだろう。
それでいい。否、それがいいのだ。
このどこか稚く、けれど最凶の吸血鬼は一生このまま俺に飼い殺されていればいい。
己の真実を一切知らぬまま、ただ籠の鳥になっていればいいのだ。

「臨也」

今度の呼びかけは明確な意図を持って。
意味を察した臨也が再び首筋に顔を寄せてくるのを感じながら。
俺は飼い主の役目を果たしてやろうと噛み付きやすいように頭を傾けてやった。













※独占欲の固まりな静雄さん。


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