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折原臨也という男












折原臨也について俺が知っていることは実はそう多くない。
情報屋であるとか、やくざともつるんでるとか、そんなことぐらいしか知らない。
表向きの職業は…なんだったか忘れたので、まあ置いておく。
俺が臨也のことでよく知ってるのはひとつだけ。
性格は最悪だってことだけだ。
臨也は、その一挙手一投足、立ち振る舞いや些細な言葉の端にさえ企みと罠を潜ませたような男だ。常に次への布石を用意し巧妙に仕掛けを施し、他者の弱みを握って操り絶妙のタイミングで背を押して、そうして、転がり落ちる人間の様を外側から観察するのが趣味という悪趣味極まりない最悪の外道。
…つまりなにが言いたいかって言うと、とにかく折原臨也という男は性質が悪いってことだ。新羅あたりは完全な悪人でないと言うが(同じ口で反吐が出るとも言っていたが)、俺にはとてもそうは思えない。
本当に手前は最悪だな、と呟いて。
俺は、人のベッドを占領する最悪な男を睨みつけた。

「手前、いい加減退きやがれ」
「やだ」
「………」

他人のベッドを占領し他人の枕を抱え込んで、その所有者をちらりとも見ずに拒否したやつは「君のせいで俺は調子最悪なんだからね」とのたまった。

「…手前の自業自得だろうが」

言っておくが、こいつの調子が悪いのは色っぽい理由なんかじゃない。性懲りもなく池袋に現れたのをぶん殴ろうと追いかけ回した結果だ。
…まあ、俺も投げたもんが当たると思ってなかったから、そう言う意味では俺のせいでもあるんだが。

「俺は悪くないもん。仕事で行ったんだし、シズちゃんに会わないように気をつけてたのに、シズちゃんが勝手に気づいたんじゃないか」

そうほざきながら、臨也はころりと寝返りを打つ。
枕を抱き締めたまま仰向けになって、それから顔をしかめて背中が痛いと文句を言って、それから、くん、と鼻を鳴らす。

「シズちゃんの匂いだ」

……こいつのこれはわざとなのか?
甚く満足そうに目を細める臨也に溜息をついて。

「いい加減にしろ」

枕を力ずくで取り上げる。
案の定、ぷうっと頬を膨らました24歳の男に、また溜息が漏れた。

「シズちゃんのけち」
「…ケチじゃねぇ」

ああ本当に嫌になる。
さっきも考えたことだが、やはりこいつの性格は最悪だ。
なにが最悪かって言えば、一番は人の心を弄ぶところだ。普段は人のことを殺すとか死ねとか言いながら、こうやって甘えたそぶりを見せるから、本気で性質が悪い。
いつもいつもいつも、俺はこれに絆されてしまってこの最悪な男の恋人に納まり続けているのだ。我ながら悲しすぎる。

「シズちゃん機嫌悪いねぇ」
「手前のせいでな」
「酷いなぁ。せっかく心優しい恋人が、シズちゃんは今日のケガのこと心配してるだろうなーって思ってわざわざ来てあげたっていうのに」
「うぜぇ…」
「あーあ、そういうこと言うんだ。ちぇ、シズちゃんのバーカ」

ぷいっと顔を逸らしてころりと背を向けて。
臨也は「もうシズちゃんなんて知らないもん」と呟いた。
ガキかお前は。そう思うが、怒る気にはならなかった。
臨也なりの甘えだと理解してしまう自分が悲しくて、こう甘えれば俺が怒れないと理解している臨也をずるいと思う。

「大体深夜に人を叩き起こすな」
「シズちゃんは人じゃないからいいんだよ」
「…やっぱ殴らせろ」
「やだ」

やだじゃねぇよ。手前みたいな男がそんなふうに言ったって可愛くなんかねぇんだよ。ぐらっときたりなんかしねぇ、断じてしねぇ。

「もう少しそっちに寄れ。俺が寝られねぇ」
「………」
「いーざーやー」
「シズちゃんのバカ」

それはこっちの台詞だ。
ころりとまた寝返りを打った性悪は、寝ころんだまま上目遣いに拗ねた目で俺を見上げている。
その態度のどこまでが計算なのか、と穿った見方をしてしまう俺は悪くないはずだ。
と、手が伸ばされた。
両手をあげてだっこをねだる子供の仕草。…手前な。

「ねぇシズちゃん」

お決まりの呼びかけ。
甘く柔らかな声を出したってだまされるものか。そう思うのに。

「手前は本当に最悪だな」

溜息一つで妥協して抱きしめてやれば、うっとりと目を眇めて。
臨也はくすくす笑う。

「でもそんな俺でもいいんでしょ、シズちゃんは」

………。
たぶん今の俺はものすごい渋面なのだろう。
酷い顔だね、とまた笑って、頬をすり寄せてきた。
やはりこいつは性質が悪い。
どこまですれば俺が怒るか、どの程度だったら許容範囲か、あるいは、どうすれば機嫌がなおるのか。
全部全部、計算して行動しているに違いない。
重い溜息とともに目元に唇を落とせば。
臨也はくつくつ笑って「口にしてよ」と強請ってきた。


「…本当に最悪だ」


俺のそんな呟きすら、こいつには予想の範囲なのだろう。














※臨也を最悪だ最悪だと思いながらも結局好きな静雄さんの話。


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