pj0219 | ナノ





これで、おわり

※匿名さまリクエスト「来神静臨で卒業式に臨也が静雄に告白する話」










卒業式。それは、ひとつの区切りであるわけで。
よく晴れた空を見上げて、臨也は小さく息を吐いた。
春の暖かな日差しがぽかぽかと心地よく寝てしまいたくなるが、現在進行形で人を待っている最中なのでそれもできない。
いつ来るのかも知れない――あるいは来ないかもしれない――相手をただ待つしかないのはさすがに退屈だった。
式はとうに終わり、見下ろした先には集まって何やらやっている生徒や帰宅する生徒たちの姿が見える。
特別別れを惜しむような相手もいない臨也は、眠さに目を擦りながらフェンス越しにそれを眺めているだけだ。
今日、彼ら同様に臨也もこの学校を卒業する。だから、このひとつの区切りと同時に、自分の思いも断ち切ろうと決めていた。3年という長いのか短いのかよく分からない間ずっと胸に秘めてきた思いをぶちまけて、楽になってしまいたい。そして、心置きなく相手を嫌ってしまいたかった。


「我ながらベタだよねぇ」

そう呟いて臨也はくるりと振り返った。
それとほぼ同時に勢いよく開いたドア。階下へ続くそこに現れた人物に、臨也は目を細めて小さく笑む。

「臨也ぁ!手前これどういうつもりだ!!」

静雄の手にはぐしゃぐしゃになった一枚の紙切れ。
ひとが勇気を振り絞って書いたってのに、と苦笑して、フェンスの側を離れ、静雄も元に向かう。

「どうもこうも、書いてあった通りだけど?」
「意味がわかんねぇぞ」
「君にはそうだろうね」
「…馬鹿にしてやがんのか」
「まさか!」

首を振って静雄を見上げて、日に当たってきらきらと輝く金色の眩しさに、臨也は目を細めた。
ああ、やっぱり好きだな。そう改めて思う。
眉間に皺を寄せた精悍な顔は、この3年間臨也の心を占め続けていた。
好きで好きで好き過ぎて、嫌われていると分かっていてもちょっかいを出し続けた。
少しでも長く自分を見ていて欲しくてかなり酷いこともしてしまった。
そこに微塵の後悔もないと言えば嘘になるが、最初からやり直したいと思ったこともない。
でも、だからこそ。
裏の世界に本格的に足を踏み入れると決めた時、臨也はこの気持ちを『卒業まで』と区切ることを選んだのだ。
これから先、弱みになりかねない感情は捨ててしまうべきで。望みのない感情を持ち続けることは無意味だった。
そして――時は過ぎて、期限がついに来てしまった。ただそれだけのことだ。
臨也は感傷に浸る自分を嘲笑して、大きく息を吸い込んだ。
これで全て終わらせる。そう決めていた。
それは、たぶん折原臨也にとって初めての告白で。
そして、ひょっとしたら最後の告白になるかも知れなかった。
相手の薄い色の目を見つめて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「俺は、シズちゃんが好きだった。ただ、それを伝えておきたかっただけ」

声は震えなかった。そのことに安堵して、臨也は満足げに息を吐く。
言ってしまえば随分とすっきりした。まだ自分の心の整理はついていないが、吹っ切るきっかけとしては充分だ。
臨也は唖然としている静雄に目を細めて笑う。
言いたいことを言えば、もう用はない。
静雄の返事など分かっているし、聞く必要さえない。
これでいいのだ。後悔はしていない。そう自分に言い聞かせて。
「じゃあね」と口にして、固まっている静雄の横をすり抜けようとして。

「…なに?」

腕を掴まれて、足を止められた。
用がないなら放して欲しい。疑問の言葉も、否定の言葉も今だけは欲しくなかった。

「臨也」
「だから、なに?」

呼ばれて、振り返らずに問う。

「好きだったってことは…もう好きじゃねぇのかよ…?」
「そうだね。そのつもり――」

言葉は途中で遮られた。
引っ張られて行き着いた静雄の腕の中で硬直する。

「俺は好きだ」

ビクリと身体が震えた。
今、なんと言った?混乱しきりの頭で、臨也は言われた言葉を反芻する。
スキ、すき――好き?

「――え?」

ようやく脳が知覚した情報は、余計に混乱を呼ぶだけだった。
息を呑んでそろそろと見上げた臨也の目と、静雄の目が合う。
腕の中の相手を見下ろす視線に、いつもの怒りの気配はない。

「俺は手前が好きだ。臨也、手前は?」
「だ、から…もう好きじゃない…って…」
「んな顔で言われても説得力ねぇんだよ」

なあと囁く声は、静かだが微塵の揺らぎもなかった。

「もう一度聞く。誤魔化そうとしたらこのままサバ折りにするからな」
「…なにその脅迫…」
「臨也、手前は、俺が好きだろう?」

疑問系であるのに確信が込められた響き。
臨也の頭はまだ働いていない。
ただ頭の中で先程の言葉が反響していた。

「好きって、だって、ありえないよ」

ありえない。
静雄が臨也を好きな可能性など、万に一つもないと思っていた。
信じられるはずがない。

「だって、いつも嫌いだって…」
「手前だって嫌いだって言ってただろうが」
「でも、それは…」
「手前が素直じゃねぇのは知ってたつもりだったけどよ…まさか手前も俺が好きだとは思わなかったんだよ」

ずっと黙ってるつもりだった。と言われて、臨也は瞬く。

「なあ、俺が好きだよな?」

囁くような問いかけ。
言ってくれと訴えるそれは切実な響きで。
臨也は反論の言葉を吐けなかった。
はあ、と小さく息を吐く。

「すき、だよ。俺も、シズちゃんが好きだ」

その答えに、静雄は笑って臨也を抱き締めた。
加減しているのだろうが、ぎゅうぎゅうと締め付けるそれは抱擁と言うより暴力だ。
臨也は呻いて、力を緩めろとその背を叩く。

「シズちゃ、それ、マジ、痛いからッ」
「あー…悪ぃ」

謝るくせに緩められない腕と掠れて震える声に。
臨也は目を瞬かせ、困惑を吐息と一緒に吐き出した。
困った。予定外だ。
臨也は静雄に振られる気さえなかったのだ。一方的に告白して、それをけじめとして全て忘れようと思っていたのだ。
だというのに。

「…俺が好きとか、趣味悪いよシズちゃん」

笑って言ってやれば、うるせぇ黙れと返される。
その声が照れを含んだものであることは明白で、臨也は痛みに顔を顰めながらも声を出して笑った。

「好きだよ、シズちゃん」

大好きだ、と口にすれば胸の中が暖かくなった。
最初に告げた時は、あんなに胸が軋みを上げたと言うのに現金なものだ。
臨也の素直な言葉に、静雄は一瞬だけ呼吸を止めて、それから、心の底から嬉しそうに顔を綻ばせた。
それは、臨也が初めて見る心からの微笑で。
臨也はその表情に胸を高鳴らせたのだった。
















※おわりとはじまりのはなし。

指定がなかったので両片思い設定で書かせて頂きました。
実は臨也さんと告白が結びつかなくて悩みました。いや、このひと絶対自分の感情否定しそうじゃないですか…?
書いてる最中もああでもないこうでもないと二転三転…。結局こんな感じに落ち着きました。
リクエストありがとうございました!


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