pj0218 | ナノ





同化願望

※匿名さまリクエスト「ヤンデレの静雄に愛されて夜も眠れない臨也の話」
若干流血表現あり。苦手な方はご注意ください。











がちゃん、とドアが壊される音に。
俺――折原臨也はビクリと身を竦ませた。

「ッ」

やばい逃げなければ、と思うが、それより先に大きな足音が迫ってくる。
身を隠す時間さえもうない。
予想に違わず姿を現した金髪の男――シズちゃんに、頬が引き攣った。

「やあ、シズちゃん」

辛うじて絞り出した声が、震えていなかったのは奇跡に近い。
油断していた。
ここ3週間ほど来訪がなかったせいで、すっかり油断していた数分前の自分を心の中で罵る。

「ずいぶん、久々だねぇ」

3週間。
長いようで短いその間、俺はつかの間の平穏な夜を過ごすことができていた。
だが、それも終わりらしい。
悪夢の到来に、俺は引き攣った笑みを浮かべるしかなかった。

「手前のクライアントの、あの変態ストーカー野郎な」
「…うん」
「逃げ回りやがって捕まえんのに苦労してよぉ。んで、今日やっと捕まえてボコボコにしてやった」
「…そっか」

もう少しもつことを期待したが、ダメだったらしい。
シズちゃんが話す内容は、3週間前に聞いたものと大差なかった。


シズちゃんが俺に――性的な意図を持って――近づく人間を攻撃するようになってずいぶん経つ。
それは、俺たちが付き合い始めてどれくらい経った頃だったか。
たぶん、ふとした切っ掛けだったのだろう。だが、そこから全てが崩壊した。
最初の頃はそれこそ俺に近づくすべての人間に対してだった。これでは商売に支障が出ると、わざとそういう目で俺を見る人間を見繕いその人物だけを狙うように仕向けたのは少し経った頃。
そして――


「いたッ」

シズちゃんはいつの間にか俺を食べたいと願うようになった。
言っておくけど、性的な意味じゃない。文字通り食べたいのだ。
当然俺は食べられたくなんてないのだけど、力でシズちゃんに勝てるわけがない。
シズちゃんの理性などという不確かなものに期待するしかないのが不甲斐なかったが、それ以外にどうしようもなかった。

「シズちゃん、痛い、から」

がぶがぶと――だがこれでも加減して――噛み付かれて、痛みに涙が滲む。
時折思い出したようにキスされるけど、圧倒的に噛み付く回数の方が多い。

「…っ、くッ」

首筋や手首、腕。
服から出ている箇所を何度も噛まれて、舌を這わされて。

「あー…クソ、喰っちまいてぇ」

ぼそりと呟かれる物騒な言葉に、ビクリと身体が揺れた。
ぺろりと舐められて、今度は耳朶を甘噛みされる。

「しずちゃ、ん…やめっ」
「嫌だ。もっと痕付けさせろ」

いや。これどう考えてもマーキングじゃないよ。
そう思って、やめろと手で制するが、無視された。
押し返そうにも、俺の力じゃどうにもならない。相手は俺の抵抗などまったく感じていないのか、また噛み付こうとしている。

「い…い加減に、しろッ」

油断している今ならと、がつんと頭突きをかまして逃走を試みたが…。
これは失敗だった。
くらくらする。俺の方が被害が甚大過ぎだ。これじゃ逃げようもない。
せめてもの抵抗で痛みと眩暈を堪えて睨みつければ、呆れたような顔をされた。
まったくダメージがないとか、正直ムカつくんですけど…。

「手前な、いきなり何しやがんだ」

声に剣呑な色はなく、ただ純粋に呆れた気配だけがあった。

「君が、やめないからだろ…」
「やめるは気ねぇよ」

ぐっと詰まる。
何か反論の言葉を紡ぐべきなのだろうが、出てこなかった。
この男は、恐らく自分が病んでいる自覚がないのだ。
だから、ただ自分が正しいと思う、したいと思うことをしているだけなのだ。

「…俺を殺す気?」
「今は殺すっつーか、喰っちまいたいんだけどな」
「…自分が、人間として間違ってることをしてる自覚、ある?」
「さあな、手前が言うには俺は化け物らしいからなぁ?」

…ああそうかよ。
その物言いと表情でわかった。俺の認識が間違っていたらしい。
にやりと笑うシズちゃんの顔に迷いはなかった。
つまり、こいつはもう自覚してたのだ。自覚した上で狂っていることを選んだのだ。

「…最低だね」
「かもな」

するりと手が頬を撫でていく。
慈しむような仕草も決して嘘じゃないと知っている。
それだけに凶行が際立つわけなのだけど。

「本気で食べる気なわけ?」
「…まだ食わねぇよ」

まだな、と言われて背筋が寒くなった。

「今日はこっちでいいから、付き合え」

『今日は』――なら、いつかは食べる気なのか。
緩くボトム越しに下肢を撫でられて、先程と似た、だが異なる震えが背を走る。
体格差、体力差、膂力の差、どれをとっても俺に勝ち目はない。
皮膚を食い破られる苦痛に耐えながら与えられる快楽はすでに俺の中にしっかりと刻まれてしまっていた。
自分がマゾだと思ったことはないが、どこで間違ってしまったのか。
考えるだけ無駄だと分かってもいつも考えてしまう。

――とりあえず、また次の囮を見繕わないと。

俺が安心して眠れるのは、もう随分前からシズちゃんが囮を追っている間だけだった。
いつ訪れるか分からない相手に怯えて、浅い眠りと覚醒を繰り返す生活は正直辛い。
そうこう考えている間に押し倒されて、服の下に侵入する手にピクリと身体が小さく跳ねた。
明日の自分が傷だらけ痣だらけでまた新羅の世話になるのを想像し溜息をついて、ふわりと香った煙草の匂いに眉を寄せた。
シズちゃんはそんな俺にお構いなしに、喉に近い場所を舐めている。
ああ嫌な予感。そう思った直後、がぶりと喰らいつかれて。

「いッ…ッ……うぅッ」

ぶつりと嫌な音がして、鉄錆の匂いが辺りに漂った。
なおも深く肉を抉る歯に、堪え切れず苦悶の声を上げる。
相当酷い傷になっているのは確定だった。
そのまま丹念に流れ出た血液を舐め取られて、あまりの痛みに涙が零れる。

「臨也」
「な、に…?」
「愛してる」
「…そっか」

ちゅっと、血の匂いのする唇が重なってきて。
素直に口を開いて受け入れれば、今度は舌を噛まれた。
さすがに噛み切る気はなかったのか少し血が出る程度だったが、痛い。

「ん、ぅ」

毎回毎回、よくもこうまで噛み痕を残すものだ。
主張にしてももう少し穏便にキスマークくらいで済ませて欲しいものである。
…ああ、いや。ひょっとしたらこれは味見なのか?とふと思った。可能性は高い。

「痛ッ」

また、今度は右の手首を浅く噛み切られた。
いい加減終わって欲しいけど、やっぱり君とは金輪際ヤりたくない、なんて言ったらたぶんこのままくびり殺されるんだろう。
痛いのが好きなわけじゃないんだけどなぁ、と心の中だけで呟いて。
俺はもたらされる痛みに顔をしかめながら、諦めて大人しく目を閉じた。

いつか本当に喰い殺されるかもな、と過ぎった考えはとりあえず一度蓋をして忘れることにした。
明け方はまだ遠かった。
















※独占欲のひとつの究極形態を疑似体験。

臨也さんが好きすぎて食べちゃいたいシズちゃんに毎回酷い目に合わされる臨也の話。
これって…ヤンデレなのか…?…リクの解釈の仕方を大幅に間違った感があります。
すみません。書き直し要請はいつでも受け付けますので。
リクエストありがとうございました!


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