pj0217 | ナノ





愛情コンポート

※匿名さまリクエスト「一般人静雄×芸能人臨也のパラレル静臨」。甘いです。











――深夜。日付があと40分ほどで変わろうという頃。
突如来訪した人物は、玄関を開けて迎えた俺に綻ぶような笑顔で見せてくれた。

「久しぶり、シズちゃん」
「…ああ、久しぶり」

予想外の来訪にまだ驚きが抜けていない俺の首に。
そいつはぎゅうっと手を回して抱きついた。
慌ててその細身を玄関の中に引き入れる。

「手前な、誰か見てたらどうすんだ」
「なに?シズちゃんは見られたら困るの?」
「そうじゃねぇよ。つか、困るのは手前だろうが」

細腰を抱き返して言えば、耳元で軽やかな笑い声。
ああチクショウ。堪んねぇ。
これを直で聞くのは2ヶ月ぶりだった。

「俺は別に構わないけどなぁ」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。人気俳優が」
「ははっ、俺としては別に廃業したって困んないんだけどねぇ」

テレビから聞こえるのよりずっと柔らかく優しい声。
臨也の甘えるようなそれが耳朶を擽る。
それが嬉しくてちゅっと唇を軽く啄ばんでから、ふと気付いた。

「そういえば、」
「ん…なに?」
「お前どうやってここまで来たんだ?」

今は冬だ。寒いのが嫌いなこいつが歩きで来るとは思えないが…まさかタクシーじゃないだろうな?
そう問えば、臨也は首を振って一言。

「幽くんに送ってもらったんだよ。あ、今日は用事があるから寄れないけど、今度遊びに行くからって言ってたよ」
「幽か」

それなら納得だ。
幽と臨也は同じ事務所に所属していて先輩後輩の間柄だ。
仲も良好で、元々ファッション紙のモデルからアイドルを経て俳優になった臨也は持ち前の社交性からか人脈が広く、幽も何度か世話になったらしい。
たまたまオフが重なった日に幽が自分の友達として臨也を紹介してくれたのが、俺と臨也の最初の出会いだった。
俺の何が気に入ったのか、忙しいスケジュールの合間を縫って会いに来る臨也に、会った瞬間に一目惚れした俺はどんどん惹きこまれていって。
世間一般でいうお付き合いを始めたのは、出会って一年が過ぎた頃だった。

「そう言えばさ」
「今度は何だ?」
「幽くんが言ってたんだけど、君、最初のお給料で買ったの録画用のビデオデッキだったんだってねぇ」
「……」

幽…なんで話したんだ。こいつは外面はすこぶる良いけどな、俺に対しては結構意地が悪いんだぞ。
案の定、臨也は楽しそうに先程までのきれいな微笑をにやにや笑いに変えている。

「それってつまりそういうことだよねぇ?」
「…うるせぇ。幽の出てる番組録るためかもしれねぇだろうが」
「俺がそう言ったら幽くんが違うって言ったんだもん。幽くん俺に嘘つかないしねぇ?」
「…ああもう黙れ。いつまでも幽幽って言ってんじゃねぇよ」
「あれ?やきもち?弟くんに?」
「うるせぇ」

かわいいなぁシズちゃん。
そう同い年の男に言われる俺の気持ちが分かっているんだろうか。
…ああ分かるわけねぇよな。こいつは10代の女子にかわいいと言われたって笑ってスルーできるような男だ。

「…手前、今忙しいって言ってなかったか?」
「うん。正月からこっち、ずうっとお仕事と挨拶回りでもうヘトヘト」
「だったらせっかくの休みくらい静かに休んでていいんだぞ」
「………」

せっかく人が身体を気遣ってやっているというのに、そう言ったら頬を抓られた。
手加減なしなのだろうが痛くはないのでしたいようにさせてやっていると。
心の底から心外だというように、顔を顰められる。

「シズちゃんは、俺に会いたくないの?」

拗ねた声。
上目遣いに睨まれたって迫力などあろうはずもない。

「んなわけねぇだろ。会いてぇよ。でも、それで手前が体調を崩したらその方が嫌なんだよ」
「…シズちゃんは素直で可愛いなぁ」
「おい」

今のは半分以上馬鹿にしてたよな?そうだよな?

「シズちゃん、俺はね?恋人のために時間も割けない甲斐性なしになる気はないんだ。要領いいから何とかできるし、シズちゃんが心配するようなことなあんにもないんだよ?」
「…それでも、心配なんだよ」
「ん。ありがと。心配してくれるのは嬉しいよ?でも、だからって俺の気持ちを考えないのは駄目。それは許さない」
「…悪ぃ」

好きだよと囁かれれば、俺に抗う方法なんてあるわけがない。

「とりあえず、上がれよ」
「うん」

いつまでも寒い玄関にいれば臨也に風邪を引かせてしまう。そんなことになれば幽の冷たい視線が突き刺さるのは必至だった。
抱き締める腕を解いて、促して歩き出す。
ゆったりとした軽い足音がついてくるのが、どこかくすぐったい。

「なんもねぇけど、コーヒーなら出せるぞ」
「あれ?シズちゃんコーヒー飲むんだっけ?」
「…牛乳と砂糖があればな」
「…あいかわらずお子様舌だねぇ君」
「うるせ」

ローテーブルの前に座った臨也を確認してから、俺はキッチンへ向かう。
コーヒーは臨也が好きだからといって幽が定期的に届けてくれている。
淹れ方まで教えてくれたので、たぶん大丈夫なはずだ。

「あれ?これ――」
「おい。あんまり物崩すなよ」
「んー。あ、俺の写真発見」
「荒らすな!」
「うっわ、シズちゃん買いすぎ。こんなに雑誌とかばっか買ったって読まないんじゃ意味ないよ」
「………」

スクラップブックとかちょっとどうなの。とか言っている相手に、一言言いたい。
本物に会えないんだから仕方ないだろう!と。
……。
その後も雑誌を引っ張り出したりビデオやDVDのラベルを確認したり。
忙しなく家捜し――としか言いようがなかった――する臨也に注意したり文句を言ったりして。
そうこうしている間にコーヒーができたので、臨也のところに持っていく。
もちろん自分の分は砂糖と牛乳たっぷりだ。文句言うな。飲めねぇものは飲めねぇんだ。

「ほらよ」
「ありがと」

カップを受け取って一口口に含んで。
こくりと飲み込んだ臨也が満足げな表情をした。

「おいしいよ。さっすがシズちゃん」
「…そうかよ」

手放しで褒められるのはさすがに気恥ずかしい。
そっぽを向いて答えたら、笑われた。
本日三度目の「かわいいなあ」は無視する。
しかし。
さっきから何か臨也がそわそわしている気がして、俺としてはそれが気がかりでいまいち寛げないでいた。
結構な頻度で上の方を気にする仕草が目立つ。
なんだとそちらを見るが、あるのは壁にかけられた時計くらいなものだ。
首を傾げ、それから臨也に視線を戻して。
聞くかどうするか迷っているうちに、ちらりと時計を見た臨也が「あ」と呟く。
時刻は丁度0時だった。
一体なんなんだと思う間もなく。
臨也が俺を振り返って、きれいな、俺の大好きな笑顔を浮かべる。

「誕生日おめでとうシズちゃん!」

俺、これを誰よりも先に言いたくて来たんだよ。
そう言われて。
俺はほんの一瞬呆けた後、今日が1月28日――自分の誕生日だったと思い出す。
理解して、じわじわと嬉しさが滲み出してくるのを感じた。
にこにこ笑う臨也が俺に向かって両手を差し出す。

「シズちゃん大好きだよ」

優しく囁くようなその声に。
俺は嬉しさに沸きたつ感情のまま臨也を引き寄せ、抱き締めた。















※君が生まれた今日に感謝!


芸能人関係ないね!な話になりました。むしろシズちゃんハピバSS…?
今回のこれで、芸能界詳しくない人が業界ネタを書くのは無理ということがよく分かりました〜。
力量不足、知識不足で申し訳ありません!
リクエストありがとうございました!


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