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君の隣

※匿名さまリクエスト「シズイザで『隣の体温』の続編」 後編。















「シズちゃん!」

長身を僅かに屈めて歩く見慣れた背中を雑踏に見つけて。
そう叫んだ臨也に、静雄は緩慢な動作で振り返った。
一瞬戸惑うような、気まずいような顔をされて、臨也まで怯む。
だが、もう心は決まっていた。

「…どうしたんだ?」
「うん。俺ね」

問われて口を開くと、なにか察したのか静雄は視線を泳がせる。

「…あー…こんなとこでする話じゃなさそうだな」
「あ、ごめん」
「いや、いい。臨也、こっち」

当たり前のように繋がれた手を引かれて、臨也はその体温にほっとした。
これが欲しかったのだ、と強く感じる。
そういう意味で好きかどうかなど分からない。
だが、臨也にはこれが必要だった。それだけは、触れた瞬間に痛いほどよく分かった。
ずんずん歩く静雄に連れられるまま、臨也は路地裏に足を踏み入れる。
少し奥まで行ってから止まった静雄に合わせて止まって、振り返った長身に目を細めた。
ひょっとして、もう追い抜かれてるかも。
微妙な身長差に、今度測らせてもらおうかなぁと考えてから。
臨也は口を開く。

「三日前の返事なんだけど」

先ほどから静雄の眉間に寄ったままの皺が、さらに深くなる。
やっぱりかよ、と小さく吐き出すように言ってから首が振られた。

「…返事ならいらねぇ…」

そう言われても臨也としては困る。
臨也はもう決めてしまっているのだ。

「シズちゃん聞いて」
「………」

沈黙が返る。
それをとりあえずの肯定と取って、臨也はつい先ほど決めたことを口にする。

「俺は正直シズちゃんをそういう意味で見たことはない。でも、俺はシズちゃんと一緒にいたいんだ」
「………」

都合のいいことを言っている自覚はある。
だから、臨也は譲歩すると決めた。

「俺はまだシズちゃんをそういう意味で見れてない。でも、手放したくないから――」

一度切って、相手の薄い茶色の瞳をしっかりと見据えて。

「だから、付き合おう」

そう導き出した結論を言葉にする。
静雄のことは好きだ。恋はしていないが、愛している。
だから、好きの意味が違うくらいで手放すことは絶対にできなかった。
じっと見つめて返事を待つ臨也に、静雄が困ったような顔をする。

「あー…あのな」
「なに?」

うろうろとばつが悪そうに泳ぐ視線。
「マジかよ」とか「上手く行き過ぎだろ」とか、そんな呟きがその口から吐かれたが小さすぎて臨也にまでは届かない。
だが、その落ち着きのない態度に臨也もようやく妙な違和感を覚えた。
嫌な感じはしない。だが、そんな態度を取られる理由が分からず首を捻る。
少しの間沈黙が落ちて。
静雄が盛大に溜息を吐き出した。

「…あのな、臨也」
「うん」
「俺は手前がそういうふうに俺を見てないことくらい分かってたんだよ」
「うん」
「だから、言った」
「…はい?」

さらに首を捻る。
だから言ったって、どういうこと?
いつもは高速で事態を把握するはず脳みそは、三日前の時同様ろくに動いてくれない。
臨也は呆けた顔でただ静雄を見つめることしかできなかった。

「俺がそう言えば、手前は絶対俺を意識するだろ?」
「………」
「んで、悩んで悩みまくって、でも俺を手放したくなくてそう言うの、分かってた」

まあ、いつ結論が出るかは分かんねぇから、ある意味賭けだったけどな。
そう言われて、ようやく頭が回り出す。
ちょっと待て。つまり、アレですか?俺の悩んだ三日間ってすっごい無駄?
いやそれよりもなによりも。

「…シズちゃん、いつの間にそんな賢くなったのさ…」
「だてに手前の隣にずっといたわけじゃねぇよ」

伸びてきた手を黙って眺めていると、腕の中に囲われた。
されるがまま大人しく身を任せる臨也の耳に、安堵の溜息が聞こえる。
なんだ、結局緊張してたんじゃん。そう言っても良かったが、可愛らしい反応に免じて許してやった。
ぎゅっと臨也を抱き締める腕は、昔と違って細くもなければ小さくもない。
ああ、いつの間にか随分成長してたんだねぇ君。
そう今更ながらに気付いて、臨也は苦笑する。

「まさか、君に嵌められるとは思ってなかったよ」
「撤回させる気ねぇぞ」
「しないよ」

今更しない。
この腕の温もりもそう悪くないと思えるし。
笑って、臨也は言葉を紡いだ。

「俺がシズちゃんと付き合うってことはさ、シズちゃんは俺のものってことだよね?」
「手前も俺のものだけどな」
「いいよ。シズちゃんだから別にいい」

臨也はこの温もりが好きだ。
いつでも自分の隣にあったこれを失うことは考えられない。
だから、明確な答えもでないまま了承の言葉を口にしたのだ。
と、静雄の手が臨也の顎の下に滑り込んで、顔を持ち上げる。

「シズちゃん…?」

意図が分からず見上げた先、近づいてくる顔に――
べちりと手のひらをぶつけて遮る。

「臨也…」
「ダメだよ。俺まだ心の準備できてないし」
「手前な、一回してるだろうが」
「あれは不意打ち。回数に数えません。とりあえずまだダメ。しない。付き合ってすぐとか認めない」

首を振って拒否して押し返すと、静雄は渋々と言った様子で顔を上げた。
それを見上げて、臨也はにやりと笑う。
まだまだ、7歳年下の子供に大人しく嵌められてやる気はないのだ。

「最初は、そうだなぁ…まずは交換日記からにしようか?」
「あ"あ?」
「そんな声出してもダメなものはダメだよ」

からかい混じりにいつものようにちゅっと頬に口付けると、心の底から不満そうな顔をされた。

「…自分からはするくせにかよ?」
「それは唇じゃないからいいんですぅ」
「ちっ、ぜってぇ自分からして欲しいって言わせてやる」
「ははっ、頑張りたまえ青少年!」

軽く茶化すように言った直後。
逆襲のようにぎゅうっと力を入れて抱き締められて、臨也は小さく呻く。
すぐに緩められたとはいえ、静雄の馬鹿力だ。
臨也は息を吐き出して相手に凭れかかった。
制服越しの暖かな体温を感じて、胸に巣食った寂しさが払拭される。

「シズちゃん」
「ん?」
「君の隣は、俺の場所だからね」

他の誰にもあげないで、と呟けば。
静雄は僅かな間きょとりとあどけない顔をした。
それから、「当たり前だばーか」と照れを含んだ声が降ってきて。
臨也は満足そうに笑って、愛しい子供の背中を抱き返した。















※我侭な大人と子供の我侭。
臨也24歳、静雄17歳で告白後、お付き合いするまでで書かせていただきました!
臨也さん18歳まで待たないと犯罪ですからね!とか言いながら書いてましたが、惚れてしまえばそんなこと気にするような人間じゃないですよね絶対。あとはシズちゃんの頑張り次第だと思います。
リクエストありがとうございました!


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