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君の隣

※匿名さまリクエスト「シズイザで『隣の体温』の続編」 前編。















世界中の人間を愛してると言って憚らない臨也が、この世でたった一人個人として愛した存在。
それが、平和島静雄という子供だった。
出会いはまだ臨也が高校生、静雄が小学生の時だ。
興味を持って、利用しようと近づいて、絆されて、負けを認めて。
それ以来、臨也はずっと当たり前のように彼の成長を見守ってきた。
強い愛情は持っていた。だけど、それは決して“そういう感情”ではなかったはずだった。
なのに。

「ああもう、どうしよう」

ねえ波江さんどうしよう。と、途方に暮れた声を出せば、冷たい一瞥。
鬱だ。激しく鬱だ。
ぐったりと身体の力を抜いて机に身を預けた。
パソコンは相変わらず稼動して次々と情報の着信を知らせていたけれど、臨也はそれを見る気力すらなく目を閉じる。

「好き、か…」

今日と同じこの場所で、色素の薄い瞳にじっと見つめられて告げられたのは僅か三日前。
それを聞いた時、臨也は不思議そうに首を傾げた。
だって、いつもの好きと同じ意味だと思ったんだ。
そう言い訳したところで、意味はない。
臨也にとっての彼は、この世で最も大切な愛しい存在で、でもあくまで年下――悪い言い方かもしれないが、子供、だった。
そこに、そういう感情が割り込む余地などないと思い込んでいたのだ。

「でも、シズちゃんは違った」

ぽつりと呟く。
いつからそういう風に想われていたのかは分からない。
きょとりと瞬いてから「俺も好きだよ」と返した言葉に静雄は酷く苛立った表情をして。
こういう意味で好きなのだ、とキスされた。
唐突な、技巧も何もない触れるだけのそれに臨也の頭は真っ白になって。
そのまま硬直した臨也に困ったように笑って、静雄は言った。

「返事、いらないとか言われてもさぁ…」

困る。本当に困る。
しかもそれから音沙汰なしだ。
毎日のように来ていた新宿の事務所に足を運ぶ気配もない。
報告によれば、普通に学校に行って普通に生活しているらしい。
なんとなく自分だけが彼の言葉に翻弄されているようで、臨也は眉間に皺を寄せた。
傷ついたような顔、してたくせに。
思い出すだけで心臓が痛い。そんな顔をさせてしまった自分を嫌悪する。
だが、それよりも何よりも。

「さいあく、だ」

ぐちゃぐちゃになった心は、ただ寂しいとだけ訴えている。
あの存在が隣にないことが、どうしようもなく寂しくて、苦しかった。

「…シズちゃん」

と、突如。
呟く臨也の真横に、バサバサと紙の束が置――否、落とされた。

「いつまで腑抜けている気なのかしら?いい加減仕事なさい」
「だって、波江…」
「……」

はあ、と盛大な溜息がつかれる。

「何を悩んでいるのか知らないけど、悩むくらいなら受け入れてしまえばいいんじゃないかしら?」
「俺、シズちゃんをそんな目で見たことないんだけど」
「あら?あなたってそんなこと気にするタイプだったかしら?」
「…酷いなぁ。そりゃ、倫理観とか貞操観念とか、破綻してるのは認めるけどさ…」
「あなたの場合は性格自体が破綻してるのよ」

きっぱり言い切る助手に、臨也は苦笑するしかない。
確かにね、と思った。

「…とにかく、このままじゃ仕事に支障が出てきそうだから、さっさと平和島静雄に返事しに行ってらっしゃい」
「返事って…シズちゃん返事はいらないって言ってたし」
「あなた何年あの子供と一緒にいるの?」
「あー…うん。そうだね」

そうだった。
シズちゃんは意外に空気が読める。俺に迷惑がかかると思えば引く子供だった。…引いてしまう子供だった。
言われてようやく思い出した自分に腹が立ったが、臨也は溜息をつくにとどめた。

「俺、シズちゃんのところ行ってくるね」
「さっさと行って。まったく鬱陶しいんだから」
「ひっどいなぁ」

自分の気持ちはまだ不確定だ。そう臨也は思う。
静雄と違い、臨也の心はまだそういう方向には向いていない。
それでも、臨也は静雄を手放す気はなかった。
だから、矢霧波江曰くの性格破綻者は自分の気持ちも分からぬままに。
より深く相手と繋がる方法を選ぶことにしたのだった。








※後編に続く。


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