pj0213 | ナノ





甘色アンチテーゼ

※夜っ子さまリクエスト「シズイザでシズちゃんにめろめろなんだけど出来れば認めたくない感じのイザヤさん」















――ああ嫌だ。

臨也は眉を寄せ、不愉快そうにテレビに視線を向けていた。
土曜日。世間一般様は明日は休日で、臨也の目下最大の懸案事項の原因となっている人物も明日は休みらしい。
今は広い浴室で風呂に入っているだろう彼に、臨也の眉間の皺がまた深くなった。
つけている番組の内容などろくに頭に入ってこない。臨也の頭の中にあるのは平和島静雄のことだけだった。
それがたまらなく不愉快な気がして、臨也は抱えたクッションを抱き潰す。
そうしてしばらく過ごすうちに、風呂から上がったらしい音が聞こえ出した。
最近聞きなれるほどに聞いている声が飛ぶ。

「酒、もらうぞ」

それに対し、「うんどうぞ」とほぼ無意識に柔らかな声で返事してから。
臨也はああもうまたかとひとりごちる。
どういうわけか、最近そういうことが頻繁にある。
――いや、理由は分かってるんだ。
くそっと苛立ち混じりに吐き出して。
臨也は八つ当たり気味にクッションを押しつぶした。

「なにしてんだお前」
「気にしないでいいよ」

ソファが軋み、顔を上げるとそこには静雄がいて。
聞かれてつっけんどんに答えれば、静雄が片眉を跳ね上げる。
それに一瞬沸いた罪悪感はクッションをさらに平らにすることでやり過ごす。

「…ま、いいけどな」

すぐに興味を失ったらしい静雄の態度に、ずきりと胸が痛んで。
臨也はそんな自分にまた苛立つことになった。
ああそうだ。わかっている。
臨也は認めたくない事実を直視させられて、泣きたくなった。
折原臨也はこれ以上ないくらいに平和島静雄に惚れてしまっているのだ。
触れられればどこの乙女だよ俺はと言いたくなるほど胸がときめくし、キスなどされたら顔どころか耳まで真っ赤になる。
四六時中静雄のことで頭がいっぱいで、その顔見たさに用もないのに池袋をうろつくこともある。
好きだという気持ちは留まるところを知らず、折原臨也ともあろう者がその感情に翻弄され続けているのだ。

「機嫌わりぃな」
「そんなことないよ」
「そんなことあるだろうが…。あー…今日、来ねぇほうが良かったか?」
「違うよ。それはない」

遠慮がちな問いかけに、きっぱりと首を振る。
静雄が来てくれたのは嬉しいのだ。ただ素直になれないだけで、来なかったなら自分から押しかけただろう。
そんな自分の性格をよく理解している臨也は溜息をついた。
それでも、やはり認めたくないのだ。
自分がこの男にすっかり骨抜きにされていることなど、断じて、プライドにかけて、認めたくない。
それもまた、臨也の偽らざる本音だった。非常に面倒な性格だと新羅あたりなら笑うだろうが。

沈黙が落ち、つけっ放しのテレビから笑い声が響く。
ニュースを見てから惰性でつけっぱなしのテレビはバラエティー番組に変わっていて。
臨也は、はあ、と溜息をついてテレビを消した。

「臨也、こっち来いよ」

向かいのソファに座った静雄がぽんぽんとその隣を叩く。
…君が俺の隣に座ればいいんじゃないの?
そう思ったが、渋々立ち上がり臨也は彼の隣に移動した。
ぽすりと座ると、手が伸びてきて抱き寄せられる。

「ちょっとシズちゃん」
「んだよ、別にいいだろ」

悪びれもせず言われて、仕方ないなぁと思って、一瞬後大きく首を振る。
仕方なくない!冷静に考えろよ俺!!

「俺、触っていいって言ってないし」
「あ?いちいち許可がいるってのかよ?」
「…そ、れは」

許可制とか、自分でも訳わかんないって。馬鹿じゃないの。
混乱しているらしい自分に呆れるしかない。

「…別に、いらない…けど」
「じゃ遠慮なく触るからな」
「え…あ、や…できれば、遠慮はしてほしいんだけど…?」
「嫌だ、触りてぇ」
「…ッ」

触るなと怒鳴りたかったが、それよりも先に心臓に来た。
耳障りのいい低音が告げた言葉に、動悸が激しくなる。
ああもう最悪。俺今絶対真っ赤だ。
必死に顔を伏せる臨也に、静雄が笑う。

「ッ!!」

近い近い近い!!何でそんなに近いのさ!?
いつの間にか息がかかりそうなほど近くに静雄の顔があって、臨也のパニックはますます酷くなった。
くっと笑った静雄がさらに顔を寄せてきて――。

まさか、と思う間さえなくキスされた。

「――――!!!」
叫びは口内に消えて、臨也はもがく。
後頭部を押さえられているので抵抗はむなしいほど意味をなさなかった。
時間にしてたった数秒。
だが、臨也を黙らせるのにこれほど効果の高いものはなかっただろう。
耳まで真っ赤にしているのは確実で、臨也はうううと低く呻いて縮こまる。
いっそ逃げ出したかったが、上体を捻り臨也をソファに押し付け覆いかぶさるようにされてはそれすらも侭ならない。

「しね、クソッ、放せよこの馬鹿」

そんな悪態も今はただの睦言にしか聞こえなかっただろう。
額にキスを落とされて、瞼から頬と下へと向かう。
また口にされるのかと思って身構える臨也の予想に反し、静雄は耳朶を甘噛みした。

「――ッ」

ビクリと震える身体。
近くにある静雄の顔。
火照った顔はもはや隠しようもない状況で。
自分の心臓の音の煩さに臨也はきつく目を瞑る。

「臨也」

呼ばれたからと言って返事ができるわけがない。
今返事をしたら動揺で上擦った声しか出ないに決まっている。

「臨也」

また、呼ばれた。
ただし今度は耳元で。

「ッん……ゃ、だ」

漏れた声の甘さに、ぞっとした。
なんだよ今の!?あんな声出すとかありえない!!
臨也の混乱は頂点で。
クッションを抱き締めたままの手が小刻みに震える。
それに気付いたらしい静雄が苦笑する気配がして、ちゅっと軽い音を立ててキスされて覆い被さっていた身体が退いた。

「………」

真っ赤になった顔を隠すように身を屈めて、臨也は静雄を睨みつける。
その上目遣いの拗ねた視線が静雄を煽ることなど臨也は気付きもしない。

「…シズちゃんの馬鹿」
「喧嘩売ってんのかよノミ蟲」
「…売ってない」
「拗ねてんのか」
「拗ねてない」

もう嫌だとりあえず今は何を言っても墓穴にしかならない。
そう気付いて視線を逸らして会話を拒否すれば、また苦笑の気配。

ああ、嫌になる。本当に嫌になる。
臨也の感情の全てをたやすく持っていってしまえるこの男の存在が、臨也には耐え難い。
静雄といると臨也の感情のベクトルはすべてこの男に持っていかれて、他に向ける余裕を失ってしまうのだ。
感情に振り回されて周りが見えなくなる。
甘やかされて、警戒心が薄れていく。
それが、何よりも耐え難い。


――ああ嫌だ。

心の中でそう呟いて。
臨也はこの世で最も憎くて愛しい男を睨みつけた。
















※認めれば楽になると分かっているのに抵抗したいひとの話。

うだうだ悩むのは臨也さんの専売特許なので大いに煩悶していただきたいところです(おい)
甘えたくない臨也さんと甘やかしたい静雄さんですが、これはこれで意外とうまく行っているのかもしれません。
書き直し要請はいつでも受け付けます!
リクエストありがとうございました!


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