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日常の一幕

※匿名さまリクエスト「来神組(シズイザ)で、ドタチン大好きで甘える臨也と甘やかすドタチン、軽く嫉妬するシズちゃん」
来神時代→現代。
















「ドタチン!」
「おい、後ろからいきなりは止せ」
「んー」
ぐりぐりと門田の背に頭を押し付けて懐く臨也。
実に見慣れた光景に、新羅はまたかくらいにしか思わなかった。
そのまま昼食の弁当に視線を戻す。

「ドタチン好きー」
「…俺は飯食ってたんだがな」

門田の膝の上の昼食は避けられて、代わりに乗るのは臨也の頭だ。
やれやれと呟いて、門田はその頭を撫でる。

「臨也、お前昼飯は?」
「これからだよ」
「ならさっさと食え」

暗に退けと告げるが、無視された。
「ドタチンは優しいなぁ」などとわざとらしく言われて苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて。
門田は臨也を退けるのを諦め、避けられた弁当に手を伸ばす。

「あれ?そう言えば静雄は?」
「知らない。っていうかね新羅。俺別にシズちゃんの監視員じゃないんだよ?」

足の上でころりと仰向けになった臨也が新羅に向かって文句を言う。
と、弁当の中身を摘んだ門田が臨也を呼ぶ。

「臨也、口開けろ」
「ん?」

素直に開いた臨也の口に出汁巻き卵が放り込まれた。
しばらくむぐむぐと無言で咀嚼して飲み込んで。

「ドタチン、もうひとくちー」
「ほらよ」

催促に、またおかずが放り込まれる。
一緒に「寝たまま食べるな」と小言が飛ぶが、ドタチンがくれたのにそういうこと言うんだと呟かれて、黙った。

「なんだか雛鳥にご飯を運んでるみたいだねぇ。ね、そう思わないかい?」

無言で固まる隣の人物に、新羅はそう話しかける。返答は予想通り沈黙。
それを笑って、新羅は困ったものだねと呟いた。
ちらりとこちらを見た門田はともかく、臨也は全然に天敵が来たことに気付いていないらしい。
天敵とはいえ仮にも付き合っている相手だ。さすがに知っていればこんな姿を見せたりはしないはずだ。(そう思いたい)

「…っ」

静雄の手が僅かに震えていることに気付き、新羅はおやと片眉をはね上げた。
怒りよりも嫉妬が先かぁ。愛執染着、恋は人を変えると言うけどね。
そう苦笑する。

「…臨也」

静雄が上げた声はさほど強いものではなかったが。

「あれ?シズちゃんいつ来たの?」

臨也の視線が静雄に向く。
ひょいと顔を上げた彼は門田に礼を言って、静雄に手招きする。

「シズちゃんご飯食べよ」

にこにこと笑うその顔に邪気はない。
憮然とした表情のまま頷く静雄に、新羅と門田は溜息混じりに笑った。















それから月日は流れ――、





「あ、ドタチン!」

どこか切羽つまった響きの声がして、どんと背中に衝撃。
振り返った門田の目に黒を纏う情報屋の姿が映る。

「おう、どうした?って…おい、またか!」
「助けてよ、もうあの単細胞しつこ過ぎ!!」
「お前のは自業自得って言うんだ」

はあと吐かれた溜息に、臨也がムッとする。

「今日は違う。何もしてないし」
「今日がどうじゃないだろお前らの場合」
「とにかく助けてよ。ホント今日のシズちゃんはヤバイんだよ!」
「?」

どうしたんだと首を傾げる門田だが、問いかける前に静雄が姿を現した。
静雄は凶悪な形相で背に隠れる臨也を睨む。

「臨也ぁ、手前今すぐそこから出て来い」
「嫌だ!」
「…そうか、今すぐこの場で殺されてえらしいなぁ?」
「ちょっと落ち着け静雄。この馬鹿が何をしたのか知らないが、もう少し穏便にだな」

静雄に穏便。なんとも似合わない言葉だ。言っていて空しい。
だが門田も盾にされている身としてはなんとか怒りを静めてもらわねばならなかった。

「あぁ?馬鹿いってんじゃねぇよ…っていうか、いつまで抱きついてる気だ!手を放せ!!」
「やだ。今放したら俺ピンチじゃん」
「ッ、い・い・か・ら放せ!」
「い・や・だ・ね!」

そんなに門田が良いのかとか、シズちゃんと違ってドタチンは優しいもんとか。
ぎゃんぎゃん言い合う旧友たちに、頭が痛い思いをする。
静雄の嫉妬と独占欲は学生の頃に比べるとさらに深く強くなっていて。
門田に向ける視線はもはや射殺さんばかりである。
可愛らしい嫉妬だった(と思える自分が嫌な門田だったが)あの頃がいっそ懐かしいほどだ。

「ちっ、大体手前が悪いんだろうが!」
「俺は悪くない!朝っぱらから盛るシズちゃんが悪い!!」
「手前が煽らなきゃんなことにならねぇんだよ!!」
「煽ってない!煽ってないから!!俺は普通にシャワー浴びて出てきただけ!!夜に散々したのにそれだけで煽られるとか君いくらなんでもちょっと問題だよ!?」
「あああぁうるせぇうるせぇうるせぇ!!とにかく門田から離れろ!!」
「絶っ対やだ!!」

吼える静雄に、臨也の腕の力が強くなる。
ぎゅうっと縋るように抱きつかれて、門田は眉間に皺を寄せた。
迷惑だ。果てしなく迷惑だ。
そう思うのに、ここで静雄に臨也を差し出してしまうという選択肢は残念ながら門田にはない。
甘い自覚はある。
だがそれでも、何故か高校時代から変わらず自分に懐く臨也を我が身可愛さに嫉妬全開の静雄の前に放り出すようなマネはできないのだ。
だから門田は昔から変わらないこの構図に、重く深い溜息をついて遠い目をしただけだった。
ただ、せめてここが何処であるかを自覚して欲しいと切実に思う。
先程からギャラリーの視線が痛い。
池袋にしては人通りの比較的少ない早朝でまだ良かったと言うべきか。

「…お前ら俺を挟んで痴話喧嘩するの、ホント止めてくれ」

それでも臨也を突き放せない自分を、門田は盛大に憐れんだ。















※臨也と静雄と、巻き込まれ型な門田の話。
別名、門田京平の災難。ドタチンはいい人ですよねという話。
着地点を誤った感がたっぷりです。ごめんなさい。
リクエストありがとうございました!


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