dr03 | ナノ
殺意99%

※血、暴力表現注意

















「っ」

間一髪避けることができた自販機がビルの壁に当たる音を尻目に俺は息を吐き出した。
仕事で訪れた池袋が天敵の縄張りであることぐらい承知してたけど、まさか足を踏み入れて早々に襲われる可能性は考えていなかった。
そもそも今日はシズちゃんにはまだ取り立ての仕事があるはずだった。しっかりと確認していたので間違いない。
だというのに。

「…シズちゃん、どんだけ鼻良いのさ。相変わらず化け物じみてて嫌になるね」
「死ねよ臨也くん」

へらりと笑って言ってやるが、会話になってないあたりまあ聞いちゃいないんだろう。
聞く耳持たない様子でこちらに近づいてくる男は捻じ切ったらしい一時停止の標識を片手に持っていて。
その形相は鬼をかくやという恐ろしいもの。
せっかくの整った顔立ちが見る影もないのが残念すぎるよ。

「やだよ。君こそ死ねばいいじゃん」

普通に応戦できる状況なら良かったけど、生憎今日の俺はナイフ一本きりという状況だったりする。
もちろん目の前の怪物のせいなのだが、そんなことを言い訳に逃げられる相手ではない。

「殺す殺す殺す!」

ああもう!ほんと君って口を開けばそればっかだよね!
ゴッと音を立てて振り下ろされる標識をかろうじて避ける。
つかアスファルトがちょっと陥没してるんですけど!それ当たったら俺マジで死ぬよね?!

「ちょっ、待ってよシズちゃん!俺、今日まだ何もしてないよ?!」
「テメェは存在自体が害悪だろうが!!」
「否定はしないけどさ!手加減してよ病み上がりだよ俺!」

幾度も重さを感じさせないスピードで振り下ろされる凶器を避けながら主張してみるけど聞いてなんかいないんだろう。
一応俺が負ってるケガ、一昨日の君のせいなんだけどね。
手加減なしの一撃が確実にアスファルトの地面とコンクリの壁に罅を入れていく。
もちろんそんな攻撃を喰らうほどに弱ってはいないけど、痛めた足で避け続けるのには限界がある。
いつもの調子で動けないせいですぐに追い詰められて、壁を蹴ってシズちゃんの頭を飛び越えるはめになってしまった。
あとで思えばこれはこれ以上ないくらいの誤算だった。
いつもなら余裕で通過できるはずだったのに、今の状態ではちょっと厳しかったらしい。
跳躍は思ったほどの距離と高さを稼げず、

「いざやぁぁ!」

殺意ばかりがこめられた一撃が横殴りに襲ってきた。
ああしまったな。こんなことなら今日は夕飯の下準備なんかしなきゃ良かったな。
無事に我が家に帰れそうにない現実に、ちょっとため息をつく。

ゴッ。

鈍い音が響く。
激痛。一瞬意識が遠のく。で、地面に叩き付けられてまた激痛。間断なく襲う痛みに呻くことさえ出来ない。
イタイイタイイタイイタイ!!ホントに痛い!絶対一昨日罅の入ったアバラに直撃してるって!
空中で受身なんて取りようがないからもろに喰らった。
思わず零れた生理的な涙で視界がぶれる。
それでも見えた汚れたアスファルトには赤黒い小さな水溜り。
ひゅうひゅうと聞こえる奇妙な自分の呼吸音は、まあたぶん一気にせり上がってきた血液のせいだろう。
ゴボリと吐き出した苦くて鉄くさい液体は結構な量だと思う。
これは内臓にアバラが刺さってるかもなどと思う余裕があるあたり、いい加減慣れたものだ。
頭がガンガンするけど、これって地面に叩きつけられた時切れたせいだけじゃないかも知れない。
全身が心臓になったみたいだ。痛すぎてもうどこが痛いのかすらはっきりしない。

「…は…容赦ないねぇシズちゃん…」
声と一緒に漏れる血液が気持ち悪い。
「死ねよノミ蟲」
落とされる声は冷たく凍っていて。
動けないから顔が見れないのが残念だった。
どうせ殺されるなら最期は俺を殺すシズちゃんの顔を見て死にたかったのになぁ。
遠のく意識のせいで、確実に近づいてくる足音さえ聞き取れなくなっていく。

「…ははっ、…ッ…ちょっと、残念かなぁ…」

喘鳴に紛れて聞こえなかっただろうけど、聞こえていたらたぶんすごく罵られる気がするし、まあいいか。
慣れた耳鳴りと激痛とを堪えて視線を少しだけ上向かせる。

その最後の視界に映ったのは、俺の頭を踏み潰すべく上げられた、シズちゃんの無駄に長い足だった気がする。








※さて、残り1%は何でしょう。
暴力は当たり前。ボコり愛を通り越してとんだDV。


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