pj0203 | ナノ





願い事ひとつだけ

※新セル&シズ⇔イザ前提、新臨。
匿名さまリクエスト「新臨。もしくは新臨前提のシズイザ」
















「…クソ、覚えてろよシズちゃん」

低く吐き出された台詞。
苛々を隠さない顔。
そこまで苛立つくらいなら会わないようにすればいいんじゃないのと思いながら。
岸谷新羅は、毒を吐く相手のその腕にくっきりと残った紫に変色した痣を包帯で覆っていく。


彼、折原臨也がケガをして新羅のマンションを訪れるのは別に珍しいことではない。
その大半が同窓生の平和島静雄によるものであることも然り。
新羅が彼らの不毛な関係に呆れながら半ば傍観者の立ち位置を保つのも、然り。
はい終わり、と新羅が軽く傷のない箇所を叩いてやれば、甘えるように腕の中に納まってきて。
仕方がないね君はと心の中で呟いて、抱き締めてあげるのもいつものことだ。


この関係がいつ始まったのか、きっかけは新羅自身覚えていない。
高校時代、まだセルティに片思いしていた頃に始まったことだけは覚えていて。
片恋に疲れていたと言い訳する気はないが、傷を舐め合うようにそういう関係になったことも自覚していた。
そして、愛しの妖精と恋仲になった今も、新羅は臨也のことが“好き”だった。
愛はとうに捧げてしまっているので与えられないが――そもそも臨也は新羅の愛など欲しがりはしないだろうと理解していた――“好き”という感情は彼に注いできて。
臨也も新羅に身を預け甘えることでそれに応えてくれてる。
セルティの不在に訪れて、僅かな優しい触れ合いで満足する臨也を静雄は知らないのだろう。
それでいいと思う心と、それではダメだと思う心の間で揺れて、いつも新羅は足踏みしてしまう。
この温もりはすでに手放しがたいほどに馴染んでいるからこそ、その背を押してやることができないでいる。


「…臨也は静雄の何処がいいの?」

問えば、少しだけ顔を上げて臨也は新羅を見つめてきた。
その赤い瞳が少し潤んでいて、馬鹿だね君はと声に出さずに、ただ思う。

「なに?」
「だから、臨也は静雄の何処がいいの?」

きょとんと見上げてくる無防備な彼を、静雄は知らないのだろう。
知っていたら、回復に数日を要するようなこんな酷い痛めつけ方をしたりはできないだろうから。
戸惑うように瞬いて、臨也は新羅の顔を見つめ続けている。
そして、どうやらそれ以上の言葉はないらしいと理解したのか、今度は首を傾げて眉を寄せた。
どこか幼さの残る仕草で思巡する腕の中の生き物をしばらく観察していると、答えが出たらしい。
臨也は、うんと頷いて口を開けた。

「え、っと……たぶん、顔?」

…疑問系かい。
素直じゃない臨也に苦笑して、新羅はぎゅっと彼を抱き締める。

「俺、シズちゃんの短気なとこも暴力的なとこもそのほか諸々わりと全部嫌いなんだけどさ、顔と声だけは好きなんだよね。特に好みのタイプってないけど、あの二つだけはホントに好き」

ふう、と溜息のような吐息を吐き出して自嘲する臨也は、でもさ、と続けた。

「シズちゃんは俺の全部が嫌いなんだよ。別にいいけど」

良くないくせに。そう思うがやはり新羅は口には出さない。
ずるいとは思うが、自分が口を出すことでこの温もりを失うのは嫌だった。
自分からは多分断ち切れない。
だからこそ、新羅は早く静雄が気付くことをただ祈るだけなのだ。

「新羅?」

軽く額に落としたキスに、臨也は不思議そうに首を傾げる。
陰謀詭計を好み腹黒くて最低最悪で反吐が出るような性格をしているくせに、彼はひどく無防備で、存外脆い。
本当にどうして静雄はこんなきれいな生き物を傷つけられるのか。
そう思う新羅は、彼に口付けることも抱くことも罪悪感を覚えない。
新羅にとってこれは愛でもなく恋でもなく、“好き”という気持ちだけが存在する奇妙なもので。
そして、まだもう少しこの無防備できれいな生き物をひとり堪能していたいだけだった。
だが、それも多分そろそろ潮時なのだろう。
小さく、臨也に気付かれぬように溜息をついて、新羅はふたたび臨也に口付ける。

「臨也、好きだよ」

囁く声にふるりと震える身体を抱き締めて。
新羅はただ、静雄が少しでも早く自身の抱える気持ちに気付くことを祈った。
















※愛でもなく恋でもない想いを抱くひとのはなし。

こんなのしか書けませんでした…暗くてすみません!
リクエストありがとうございました!


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