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油断と後悔と、

※きさらさまリクエスト「猛獣設定でそんなつもりなかったのに静雄に媚薬飲ませちゃって焦る臨也 」















「あれ?」

何故か帰って来てすぐ冷蔵庫へ向かった臨也が首を傾げて静雄を振り返る。

「ねえシズちゃん、これ食べた?」

その手に持たれているのは小さな容器に入ったプリンで。
静雄はこくりと一つ頷いた。
静雄がマンションに帰ってきて臨也が居ないことに首を傾げたのは15分ほど前。
冷蔵庫に入っていたそれを見つけたのはほんの10分ほど前。
特に名前も書いていなかったので手をつけたのだが、まずかったのだろうか。
少し罰の悪そうな顔をして臨也の顔色を窺おうとした静雄は、そこで初めて相手の様子がおかしいことに気付いた。
青褪めた顔で呼吸すら止めて静雄を凝視する臨也に、どうしたのかと首を傾げる。

「…シズちゃん…身体、どこも変じゃない?」
「何か入ってたのかよ」
「う…ええと…まあ」

じろりと睨めば、視線が逸らされた。
表面は平静を装っているが、たぶん今の臨也はものすごく焦っている。
それが分かって、静雄はさらに怪訝な表情をした。
少なくとも、今の臨也の態度は常のそれとはまるで違う。
例えば、入っていたものが睡眠薬――これは割とよくある――ならば最初から聞きもしなかったはずだ。毒薬ならば笑って「そっか」とでも言って普段通りの態度で様子を見ただろう。
だが、この態度は解せない。

「何が入ってたんだ」

問うと視線が泳ぐ。
絶対目を合わせません!と言わんばかりの態度にムカついて、静雄は問い質すべくソファから立ち上がろうとして――

「ッ!?」

ぐらりと揺らいだ視界。
辛うじてソファの背を掴んで転倒だけは免れたが、奇妙なぐらつく感覚に低く唸って目を閉じる。
そのまましばらく蹲っていると、恐る恐るといった感じで声がかけられた。

「…シズちゃん、大丈夫?」

屈みこんで顔を覗こうとした臨也の胸倉を引っ掴み、引き寄せる。
接触寸前まで近づいた顔は、困ったような焦ったような微妙な表情をしていた。

「手前、なに盛りやがった?」

熱と震えを帯びた声で絞り出すように問えば、また視線が逸らされた。

「いや、ホント大したもんじゃないんだよ?なんていうかさ、俺って結構知り合いだけは多いでしょ?その中のちょっとヤバイ連中が置いてった薬でさ…。あ、でも大丈夫だよ。一応後遺症はありませんって実験済みのヤツだから。まあ、シズちゃんにはどうか分からないけど…って言うかさ、とにかくこの手はなしてよ。解毒剤はないけどしばらくすれば治まるはずだからそれまで大人しく寝てればいいって!なんなら睡眠薬でも使う?寝てればたぶん平気だと思――」
「臨也」
低く恫喝する。
ピタリとしゃべるのを止めた相手の顎を掴んで無理やり正面を向かせれば、あからさまに動揺した目とかち合った。
すぐにうろうろと彷徨いだす視線をもう一度名を呼ぶことで固定させて。
静雄は改めて問いかける。

「何を盛った。言わねぇとこのまま顎の骨砕く」

脅しは効を奏したらしい。
往生際の悪い幼馴染もさすがに顎の骨を人質(?)に取られてはそれ以上の抵抗は無駄だと悟ったようで。

「…媚薬だけど」

と、小さく呟くように白状した。

「は、じゃねぇかと思ったけどよ」

先程からぞくぞくと奇妙な――だがひどく覚えのある――震えが身体を走り抜けている。
最初の眩暈が去れば、後に残るのはその震えと燻ぶる熱と飢えだった。
吐き出す息が妙に熱くて、火照った身体はその熱を発散することを求めている。

「なあ、臨也」
「…なに、かな」

ひくりと臨也の頬が引き攣った。
が、そんなことはどうでもいい。本能の命じるまま、静雄は臨也を力ずくで引き倒す。

「ッ…ちょ、シズちゃん!いくらなんでも乱暴すぎ――ッ」

ソファに無理やり押さえつけられ抗議する臨也の煩い口を、自分のそれで塞いで無理やり黙らせて。
静雄は差し込んだ舌先が擦れるたびに背を走る甘い痺れに目を細めた。

「ん…ッ…ふ、ぅ」

たっぷり味わって甘い唾液の味さえ分からなくなった頃、ようやく開放されて臨也が咳き込む。
そんな臨也を組み敷き見下ろして、

「臨也、手前まさか責任とらねぇとか言わねぇよなぁ?」

荒い息を吐きながら睨む彼に、静雄はにやり笑って責任をとれと迫る。

「じょう、だん…だろ。勝手に食べたくせに…」
「手前が名前書いとかねぇのが悪い」
「まさかこんなに早く帰ってくるとは思わなかったんだよ」

乱れたシャツの隙間から手を差し込むと、身を捩って何とか逃れようとする。
が、所詮臨也の力で静雄から逃れるなど不可能だ。
喉の奥で無駄な抵抗を笑うと、ぎろりと睨まれる。だが、焦った色を隠せない瞳がその効力を半減させていた。

「臨也」

諦めろと耳元に吹き込んで、耳朶を軽く齧って。
ふと、気付いて静雄は問いかけた。

「手前、あのプリンどうする気だったんだ?」
「は?…なに言ってんの?っていうか放してよ」
「俺は、どうする気だったんだって聞いてんだけどなぁ?」
「いっ…痛い痛い!なにすんだよこの馬鹿力!!ああもう!君に使う気はなかったよ!ちょっと実験をかねて人にあげる気だっただけで……あ」
「はっ、間抜けだなあ?臨也くんよぉ?」
「…あー…もう。動揺しすぎだろ俺」

はあ、と溜息をついた臨也がソファに完全に体重を預ける。
観念したらしいその表情を満足げに眺めてから、静雄はその喉元に朱を刻むべく喰らいついた。
















※ある種の興奮状態(興が乗ったり動揺したり)になると饒舌になる臨也さん。ただしその分迂闊さも増します。
きさらさま、リクエストありがとうございました!


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