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続 おにのかくらん

※シズイザシズ。
匿名さまリクエスト「風邪ネタの続き」

















折原臨也が風邪を引いた。


その報を新羅から聞かされた静雄は、眉間に皺を寄せて一言。
「薬寄越せ」
と苛々を隠さぬまま、手を突き出して要求した。










「…お引取りください」

それが臨也の玄関のドアを開けての第一声。
当然、静雄のずっと寄せっぱなしだった眉間の皺がさらに深くなる。

「いい度胸だなぁ?臨也くんよお?」

ドアを閉められそうになったのをとっさに手で掴んで止める。
ミシリと音がして掴まれたドアが指の形にへこむが、静雄にとってはどうでもいいことだ。
熱のせいか常よりもぼんやりとした眼差しを向けてくる臨也を睨む。
よく見れば顔も赤いし息もかなり荒い。
ひょっとしたら立っているのも辛いんじゃねぇか?
そう考え、静雄は半ばドアに体重を預けている天敵の全身を見下ろした。

「……ちっ、しょうがねぇ」

舌打ちし、ぐいっとドアを開けて。
その勢いに負けてふらりと倒れてきた身体を受け止める。
やっぱすっげぇ熱だな。
服越しでも分かる体温にもう一度舌打ちして、静雄は臨也を抱き上げた。

「…なに、してんの」

そう小さく呟くように言う臨也は、だが暴れる気力もないのかぐったりと体重を預けたままだ。

「煩ぇ黙れ。大人しく寝てろ」
「…あの、ねぇ…君が、来なきゃ…大人しく寝てられたんだけど?」

掠れて途切れ途切れの文句は無視する。
勝手に上がり込み、ずんずんと歩き寝室を目指した。





臨也をベッドに寝かせ――どちらかというと投げるに近い乱暴な動作だったが――、静雄はやれやれと溜息をついた。

「とりあえず熱はかれ。あと布団掛けて大人しく寝てろ」
「…シズちゃん」
「なんだ」
「何で来たのか、大体わかる…けど、さ」

辛そうに息を吐き出しながら、臨也は横になったまま静雄を見上げて微かに口角を吊り上げる。
それは、よく見知ったあの人を食ったような気分の悪くなる笑みだ。

「君に、看病されるとか気持ち悪くて反吐が出そうだから、帰ってよ」

嫌悪感を全身で示す臨也の姿が、なんだか毛を逆立てる猫のように思えて。
…弱った動物は他人の目を避けるんだったか?と、そう思いつつ静雄はもう一度溜息をつく。
臨也のそれは明らかな虚勢だ。威嚇だと言ってもいい。
弱っている姿を晒すのを拒み、必死に自分をテリトリーから追い出そうとしているのだ。
それが理解できてしまったことに自分こそ反吐が出そうだと唸り、静雄は改めて相手を睨んだ。

「黙れ。手前の言うことなんざ聞いてやらねぇよ。大人しく寝てろ。で、飯食って薬飲んでさっさと治せ」
「…なにそれ。馬鹿じゃないの?そりゃ、確かにこの風邪は君から感染ったのかもしれないけど…放っておけば、いいんじゃないの。わざわざ好き好んで嫌いな相手の世話、するとか、シズちゃんどんだけ馬鹿なの?」

けほっと何度か咳き込みながらもいつも通り鬱陶しく言葉を吐き出す臨也は、そのくせ余裕がないのか笑みを消している。
その様子にどうにも怒る気が起きず、弱ってればノミ蟲でもそんなにムカつかねぇのな、などとのんきに考えて。

「馬鹿は手前だ。とにかく俺は飯作るから手前は黙って寝てろ」

そう言い残して、静雄はまだ背後から追ってくる掠れ声での文句を無視することにした。






その後、本気で拒否する臨也を半ば脅しつけて粥を食べさせて薬を飲ませて。
静雄は一仕事終えて満足げに伸びをして息を吐いた。
弱った相手が見せる僅かな隙が想像以上に面白くてついつい余計な世話まで焼いてしまったが、別に悪趣味だとは思わない。いつも翻弄されているばかりの相手が、逆に自分の行動に狼狽え戸惑う姿は正直悪くなかった。まあ、悪くはなかったが散々てこずらせてくれたので気分は差し引きゼロだったが。

「ったく、手間かけさせやがって」

そう言って、臨也のいるベッドに腰掛ける。
薬を飲んでしばらくはまだこちらを警戒し視線を逸らさなかった臨也だったが、今は静かに眠っていた。
眠気で落ちそうになる瞼を必死で開こうとする姿を思い出し、なんとなくおかしくなった静雄は喉の奥で笑う。
臨也を襲った強すぎる眠気は、新羅が処方した風邪薬でなく、あまり煩いようならこれも飲ますといいよ、と渡された睡眠薬のせいだろう。
静かにしてればそんなに嫌いでもねぇんだけどな。
そう考えて、いや…そうじゃねぇだろと首を振る。

――どうも落ちつかねぇな。

その気持ちが、相手の普段と違う様子のせいだと分かっているから溜息をつくしかない。
薬が効いてきたのか、臨也の呼吸はだいぶ落ち着いてきていた。
ベッドの縁に腰掛けたまま、静雄は臨也の額の汗で張り付いた髪を軽く払ってやり。
それから、池袋へ帰るために立ち上がった。

「早く良くなれよ、ノミ蟲」


じゃねぇと本気で潰せねぇじゃねぇか。

















※いつも通りがいいのはどちらも同じ、という話。
リクエストありがとうございました!


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