番外編 等しく青く、同じ輝き


遠くにあるゴミ溜めが、浮かんで見える。少年はボンヤリとそう思った。
廃墟と汚れた空気、水。そしてボロボロになった人間たちが共生するスラムの一角、その少年は虚ろな目で空を見た。
荒々しく散発された黒髪と薄汚れたグレーの布切れのような服を身に着けた少年は、環境に似合わず綺麗な顔立ちをしている。高く整った鼻、目尻の綺麗な二重瞼。

「ライノ、帰るぞ」

背後から自分を呼ぶ声が聞こえて、少年は振り返った。振り返った先に居たのは、笑顔を浮かべている父親だった。父親の顔は泥や血に汚れ、足元にはスラムのならず者たちが倒れている。

「え、いや。帰る前に、そこのオッサンたちから盗れるモンとっとかなきゃ勿体ないぜ、親父」

ライノがそう言った瞬間、父親は肩を落として頭を垂れた。

「お前なぁ、すっかりスラムの人間に染まっちまって……お前には俺のように、立派な男に育ってほしいんだがなぁ」

「自分で言うな、馬鹿親父」

自信満々に言う父親に向かって、ライノはげんなりとした表情を浮かべた。

ライノの父親は、かつて帝国の都市計画部に属していた。だが、どういう経緯で今は母と結婚し、どういう経緯で母が死に、どういう経緯でこのスラムに腰を落ち着けるようになったかは、ライノは全くと言っていいほど知らなかった。
物心ついた頃からスラムで育ってきたライノにとっては今を生きることが精一杯であり、父親や母親の過去などに興味は無かったため、そのようなことについて、詳しく話を聞こうなどと一切思ったことが無かったのだ。

ただ、このスラムに生きる人間と、帝国や他の町で生きる人間の身分差だけは幼いながらにライノも明確に理解していた。だから、人に優しくあれと説く父親の教育を受けながら、ライノはいつも世の中の不平等さを知る。

見上げた空は青く、どこまでも澄んでいるというのに。
スラムの空を見ながら、ライノは何度もそう思った。

「空は一緒なのに、地上には不平等しかねぇや」

ポツリとボヤくと、父親は爆笑しながら幼いライノの頭を撫で回した。

「幸せに生きてる奴が言えることじゃねぇさ。孤独じゃなくて、家族が居て、自分の足で人生を歩いてんだからよ」

頭から、父親の大きな手が離れた。
笑いながら長く大きな足で歩き始めた父親の背中に、ライノはゆっくりと着いていく。

父親は強く、一人の人間として生きている。
だが俺は弱く、スラムの人間としてしか生きていけない。

いつか、父親のように、誰も傷付けずに一人の人間として生きていけるようになりたい。

そう思いながら、ライノは毎日のように空を眺める。

グレーの町の上空にも、色鮮やかな町の上空にも、青空は等しく、光は輝く。










-end-






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