「ねえ、どういうことなの」 「……俺に詰め寄られても……困る」 そういってゲームへと戻ろうとする研磨に、ちゃんと答えて、と問う。 中学の頃に、黒尾君を通じて仲良くなった研磨。黒尾君と接触がなくなっても連絡をとっていたくらいだから、私の知り合いの異性の中でも特別に気を許している相手である。だからこそ、学校帰りに家まであがらせてもらえるのだし。 「研磨ならその場に居たんじゃないの……?」 いたけど、と呟いた研磨は相変わらず何を考えているのかわからない。黒尾君も意味不明な行動を起こすし、男子とは総じてそんな生き物なのかと疑ってしまいたくなる。 「クロのいうことと、俺のいうこと……どっちが広まりやすいかなんて、棗でもわかるでしょ」 その言葉に納得せざるを得ない。そもそも黒尾君が何か言い出した時点で研磨が止めに入るのは難しいだろう。 「それにさ、棗」 なに、と聞き返せばどうでもよさそうな顔で研磨はぽつりぽつりと言葉を吐き出した。 「棗、は……クロのことが好きなんでしょ。クロも棗のことが好き……だと思う、俺の勘だけど。で、二人とも自然消滅みたいな流れではあったけど、はっきりとサヨナラしたわけではないから」 クロの言ってることも、あながち間違ってはいないかなって。 そう言う研磨の表情は普段と変わらない。 はあ、とため息を一つついて私は目を閉じた。 研磨の言っていることに、間違いはないのだ。 だから、困る。だから、悩む。 「棗はさ、難しく考えすぎなんじゃないかなって、思うよ」 研磨が笑った。といってもすごく笑顔ってわけじゃなくて……なんだろうか、見守られている気がするというか。優しさのある笑みだった。 こんな表情の研磨は初めてで戸惑ってしまう。 「お互いに好きだから、付き合ってる。そこにはなにも不自然な点はない、と思う。 ……昔のことは良いんだよ、放っておいて。今の棗の気持ち次第じゃないの」 研磨はゲームから手を離し、その空いた手を私の頭に置いた。遠慮がちにゆっくりと撫でられるのがこっぱずかしい。多分研磨も慣れてないんだろう、撫で方がぎこちない気がする。研磨がこういうことに慣れていたらそれはそれで寂しいけれど。 「素直になって、いいんじゃないかな」 研磨の声がすとんと自分の中に収まる。とても温かくて優しい言葉だと思う。 素直に。……私は意地を張っていたのだろうか。 黒尾君のこと。自分のこと。 ゆっくりゆっくり噛み砕いて整理していこう。すべてを簡潔に、分かりやすく。 そうしたら、きっと自分の気持ちもハッキリするはずだから。 ← → |