聞いて | ナノ
番号もメアドも変わってないって、だから何だというのだ。
そう思っていたのだけれど心というものは大変素直なもので、私は今携帯を手に固まっていた。
家に帰ってきてから、ご飯を食べているときもシャワーを浴びているときも絶対にメールするものかと息巻いていたのに。

(……本当は、どうしたいのかな)

答えは出てる。ただ、私が認めたくないだけだ。
しばらく悩んだ後で、私はカチカチとボタンを押していく。

そうだ、聞きたいことだけ全部聞いてしまおう。それで、もうやめよう。
いきなり押し掛けてごめんという謝罪と、私と君はもう別れたんだよね?ということ。
私は今でも好きだよということは書かないでおいた。

送信ボタンを押そうとして躊躇う。誤字はないかとか、文章は変じゃないかとかそんな細々としたことが気になってなかなか押せない。

(恋する乙女じゃないんだから……)

自分の指に苦笑いする。もう、フられたも同然の人なのに。今更緊張も何もないだろう。

ゆるりと微笑んで送信ボタンを押した。
疲れているだろうしもう夜も更けてきた。返信は今日はもう来ないだろうと思ってベッドに入ると、すぐそばで携帯が振動した。

まさか、と思いつつも携帯を開く。差出人は友人だった。今日は一緒に来てくれてありがとうと。

(…………なんだ)

鉄朗からじゃ、なかった。
そして自分の感情にはっとした。
メールは来ないだろうと諦めていたくせに。私は今、誰からのメールを期待した?
それに、違う。鉄朗じゃない。もう関係ないんだから、彼は黒尾君。黒尾君だ。

そうして胸を過ぎった感情を押し潰してベッドに入る。
寝よう、そう決めて目を閉じた。以外と早く睡魔が襲ってきてくれたのはきっと今日一日がだいぶ疲れる内容だったからだろう。

眠りに落ちる前に、携帯が振動した気がした。
しかしもう眠る気だった私は迷うことなく睡眠を選ぶ。
おやすみなさいと心の中で呟いて、完全に意識を飛ばした。


いつもよりも早く目覚めた朝。昨日はちゃんと眠れたからか身体が軽い。今日は良い日になると良いな、なんて考えながらいつものように携帯を確認した。

メールが一件と、着信が一件。
まさか、と心臓が跳ね上がった。

ゆっくりと着信履歴を見る。そこにあったのは<黒尾鉄朗>の文字。留守電が入っていなかったのが救いだ。
急いでメールも確認すると、久しく見ていなかったアドレスからのメール。
彼はアドレスはまだフォルダ分けをしていたままだったからすぐにわかる──だって、彼専用のフォルダだったのだから。

件名に<棗>と私の名前が書いてあるメールを、ふるえる指で開いた。
中に何が書かれているのか。
不安と、僅かな期待。
色々な思いが頭の中でぐちゃぐちゃとしていたが、その思考は全て黒尾君からのメールの内容によって更に複雑になることを、私が予知できるはずはなかった。


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