聞いて | ナノ
だから嫌だったんだ、こんな所に来るなんて。

友人に連れてこられた音駒高校。なんでもついこの間一目惚れしたした人が音駒高校のジャージを着ていたらしい。
音駒には会いたくない人がいるなあ……と少し憂鬱だったけれど、大切な親友をひとりで行かせるのは気が引けた。
体育館近寄らなければ大丈夫だろう、とたかをくくって音駒高校に来てみれば、なんと一目惚れした相手はバレー部だと言うではないか。

ずるずると引きずられるように休憩を狙って体育館へと近付けば、一番初めに気付いたのは研磨だった。
てけてけと寄ってきて、「……棗?」と呟く研磨はすごく可愛い。
そしてその研磨を見たバレー部員がぞろぞろとこっちに向かってきたのはすぐのことで。

「…棗」

「久しぶりだね黒尾君。……それとも、私のことはもう忘れた?」

「忘れてたら声なんて掛けるわけねえだろうが」

そりゃそうだ、と自分を嘲笑する。
黒尾君は眉をひそめた。そんな姿も未だに格好良いな、なんて思う私は気持ち悪い女だろう。

「相変わらずだな、全然変わんねえ」

「失礼じゃないかなあ。中学卒業以来だから、まるっと二年は会ってないんだけど。私はガキのままか」

「そういう意味じゃねえって、機嫌悪くすんな」

ていうか、なんで此処に?と問われ、友人の付き添いだと答えた。既に友人はお目当ての人を見つけたらしく、そっちの方にかかりっきりだ。

「俺に会いに来たのかって期待したんだけど」

その言葉に、ドクンと胸が跳ねる。
会いに来れるほどの勇気が会ったら、もっともっと早く来ていた。

「なんで黒尾君に会いに来る必要があるの?」

にっこりと笑ったつもりだったが、どうだろうか。私は上手く笑えている?

ちらりと研磨の方を見る。
休憩中もスマホでゲームだろうか。可愛いなあ、研磨。
そうして研磨を眺めていると、黒尾君もつられて研磨を見た。

「そういえば」

黒尾君が呟くように発した言葉に耳を傾ける。
彼の声は相変わらず低くて色っぽい。彼の言葉が耳に触れる度、私は背中の筋が緊張する。

「別れた後も、研磨とは会ってたんだよな、棗」

俺も、会ってちゃんと話がしたかったんだけど。
そう言って、悲しそうに笑う黒尾君。
彼がそんな表情をする事を私は知らなかった。

お、と体育館の時計を確認して、黒尾君は「もうそろそろ練習再開すっぞー」と声を張り上げた。
そして、私にも「時間あるなら観てけ」と促す。
渋っていると「お友達は観ていきたがってんじゃねえ?」と言われた。

黒尾君は最後に私の耳元に唇を寄せて言った。

「俺、メアドも番号も変えてないから」

じゃ、と言ってコートに戻っていった黒尾君。
それと入れ違うように戻ってきた友人。
案の定観ていきたいという彼女に連れられて体育館の端まで移動したが、私の頭の中はさっきの黒尾君の言葉でいっぱいいっぱいだった。


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