「聞いて」 鉄朗の視線が私のそれと絡み合う。お互いに目線を反らせなくなったこの状況の中で私は口を開いた。 ──どのようにこの思いを伝えたらよいのだろうか、なんて考えていたのははるかに遠く、今この瞬間伝えたいことは簡潔且つ明確で。期待と恐怖と、それ以外にも言い表せないほどの沢山の気持ちが入り乱れているのを感じる。 「……私、鉄朗のことが」 「棗、ストップ」 好き、と言い切る直前で鉄朗の声に遮られて私の告白は中断された。それと同時に、絡んでいた視線がふと柔らかくなった気がして。 にやりと笑みをたたえながら鉄朗は言葉を続けた。 「……こういうのは男の方から格好良く決めたいんだよ、だから俺が先」 「鉄朗、」 「好きだ、棗。中学の頃から今までずっと」 じわりと鉄朗の顔が歪んだ。それが自身の涙のせいだと気付くのに時間は掛からなかった。 悲しいわけでもないのに涙は止まらなくて次々に私の頬を濡らしていく。こんな泣き顔なんて絶対に不細工だから見られたくないのにと思うけれど、そんなことお構いなしに涙は流れ続けた。 ああ、鉄朗の前で泣くのはこれで二回目かと頭の片隅で冷静に考える。 そして、そんなことよりも言わなきゃいけないことを思い出して口を開いた。 「……っ、わ、たし……も、好き」 ずっとずっと、忘れたことなんてなかった。高校が離れても未練がましく好きでいたのだ。 誰かに恋をしようと思ったこともあった。だけど、駄目だったのだ。どうしても鉄朗を思い出してしまって辛くなるだけだった。だから、恋愛をすることはやめた。 ずっと忘れられなかったと伝えたい。けれども喉は泣きじゃくったせいで息を吸い込むことに精一杯で、喋ることなど二の次だった。 「なあ棗。もう一回、ちゃんと付き合いたい。今度は絶対、離さないから。…………駄目か?」 駄目なわけない、と首を大きく横に振った。 深呼吸してリズムを整える。だいぶ呼吸も落ち着いてきたところで、鉄朗に向き直った。 これだけは、ちゃんと言わなきゃいけない。 「もう一回、私を鉄朗の彼女にして下さい」 そう鉄朗に告げると、鉄朗は珍しくホッとしたような笑みを浮かべた。 こっちを見る優しい目つきは変わらない。鉄朗はゆっくりと近付いてきて、私の耳元に唇を寄せた。 「この後、どうする?飯、泣き顔じゃ行きたくねえだろ」 「……あ」 言われてみればそうである。こんな泣きはらした後の顔で近くのファミレスなんかには入れない。知り合いに会う可能性を考慮すると尚更だ。 ところがその悩みは杞憂に終わった。どうしようかと悩んでいる間に鉄朗はどこかにメールをしていたらしい。 「決まったから行くぞ」 そう言われてぐいと手を握られる。 どこに、と問えば鉄朗はニヤリと笑って「俺の家。研磨もくる」と言って歩き出した。 ← → |