暫く歩いて着いたのは小さな公園だった。 ご飯じゃなかったのかと思いつつも、鉄朗のそのチョイスは今から話したいことにはうってつけなような気がして黙りを決め込んでおく。人がいないところの方が、この胸の思いをちゃんと全て伝えられそうだから。 「……悪い、飯の前にこんな所連れてきて。ただ、こっちの方が話しやすいと思ってな」 「う、ん」 会いたいってことは何か用があったんだろ?と首を傾げる鉄朗に無駄な色気を感じて無性に恥ずかしくなった。私が今から言おうとしてることはこの人に届くのだろうかと不安になる。 身の程知らずなのではないかとか、そもそも私なんかが、とか考え出すとキリがなかった。 「鉄朗は、どうして私なんかと付き合ってたの……!」 漸く絞り出した声は自分で思っていたよりも悲痛な色を伴っていた。 しかし一度喋り出すと今度は止まらなくなるもので、私の言葉は次から次へと鉄朗を責め立てていく。 「狡いよ、鉄朗のことはもう忘れようとしてたのに。中学の時の思いも、今も、全部全部……っ!」 今だって、こんなにも苦しいのに。 伝えたいことがうまく言葉にならなくて、憤りともどかしさとで涙がにじむ。鉄朗からしたら迷惑な奴だろう。いきなり怒って、泣き出して。 そこまで考えて怖くなった。嫌われるかもしれないと。 でもここに来てもう取り繕うような余裕は何処にもなくて、一度口をつぐんでしまう。だが、それが間違いだった。 涙が止まらないのだ。何かを言葉にしようとしても、僅かな息と喘ぎに変わってしまう。 「棗」 泣きじゃくる私の名前を呼ぶ鉄朗の声に、過剰なほどに身体がビクンと反応した。 何を言われるのかが怖い。突き放されてしまうのか、それとも呆れかえっているのか。 しかし鉄朗は、強ばってしまった私の身体を優しく抱きしめた。 「落ち着け。……ちゃんと全部聞くから」 その鉄朗の言葉が、伝わってくる体温が優しさで満ちていて、すとんと肩の力が抜ける。 「……ごめん」 「いや?大切な人が泣いてたらコッチだって辛い。それだけ」 ああもう、だから。 大切とか、そういうことをさらりと言うから期待してしまうと言うのに。 「…………聞きたいことが、沢山あったの。だけど、もういいや」 鉄朗、と名前を呼んで胸板を押した。 一歩下がって真正面から彼に向き合う。中学の時よりも大きく逞しくなった彼に負けないように。 「……棗?」 不思議そうな顔をする鉄朗を見上げて、小さく息を吸った。 体に残る彼の温もりを勇気に変えて、私は言葉を紡ぐ。 「鉄朗、聞いて」 ← → |