短編 | ナノ
「おーい、名字?」

昼休み、今日は晴れてるから昼飯は外で食べようと購買に寄って中庭に来た。
少し前に気付いた穴場で、人も殆どいない。
さあ食べるかと芝生の上に座り込んだところで先約がいたことを知った。
ここを知っている奴が他にもいたんだ、ということと、さらにその先約の正体がクラスメートの名字であったことで驚く。

名字は寝ていることが多い。成績が突き抜けて良いのか、それとも単純に教師が気付いてないのか、授業中も注意されずによく寝ている。

今もお日様の温かさを存分に受け止めて気持ちよさそうに眠る名字。日の光で明るい顔と、煌めいてる栗色の髪。
……いや、可愛いけどさ。

(あ、)

ごろん、と寝返りを打った際にスカートがずり上がり、いつもは隠れている太腿がさらけ出される。
急いで自分の来ていた学ランを掛けてやった。
無防備だよ、名字。

「名字ー?もうちょっと自分の格好気にしような」

いくら人が来ないとはいえ、ここは男女共学の高校なわけで。
そして名字は烏野高校で“ちょっと不思議な可愛い子”なのである。

すやすやと眠る名字は確かにきらきらしていて、まるで天使みたい、といったら大袈裟かもしれないけれど本当に可愛いと思った。

ぐっすり眠っている名字を起こすことは諦めた。昼休みが終わる前に起こしてやれば良いだろうと結論づけて名字の隣に座り、自分のパンの袋を開いた。
もぐもぐとパンを咀嚼しながら、そういえば名字は昼飯食ったのかなと疑問に思う。

(てか、本当にちゃんと食ってんのかな)

どう見ても華奢で小さめな名字。100パーセントのフルーツ系のジュースをよく飲んでいるのは見るけれど。

今気付いたが、よく見れば名字のすぐ頭の上あたりに、小さなコンビニの袋があって。
中を覗くとぶどうのゼリーと100パーセントのオレンジジュースが入っていて、手をつけた様子もなかった。

これしか食わねえの?と驚く。クラスの女子だってもっと沢山食べているはずだ。

隣からふああ、と声が聞こえて振り返る。
さっきまで眠っていたから状況を掴めていないのだろう。そりゃそうだ、だって本来ならここには誰も来ないと思っていたのだから。

「おはよう、名字」

とりあえず挨拶をすると、寝ぼけながらも名字は挨拶を返してきた。そしてだんだんと頭が冴えてきたのだろう、目をぱちばちとさせて話しかけてくる。

「おはよう、菅原君。もしかしてここ、菅原君の場所だったかな?」

この前お散歩してたら見つけて、お昼寝したら絶対気持ちいいだろうなーって。
だから今日お昼ここで食べようと思ったんだけど寝ちゃったみたい。
春ってぽかぽかしてるから眠くなっちゃうよね。

そう話してくれた名字に「俺も最近見つけた場所だから気にしないで」と言うと嬉しそうに笑った。

「じゃあ菅原君との秘密の場所だね!」

そして足に掛けっぱなしの学ランに気付いたらしく、ごめんねと謝ってくる。平気平気、と言って学ランを受け取った。
コンビニの袋を開き、お昼、一緒してもいいかなといってジュースのパックにストローをさす名字。
美味しそうにオレンジジュースを飲む名字は可愛いと思った。

「名字、昼飯それだけで足りんの?」

「足りるよー、食べろっていわれたら全然食べれるけど。食べるの遅いからあんまりいっぱい買ってもお昼で食べきれないし」

名字はそう言いながらぺりり、とゼリーのフタを慣れた手つきで剥がした。

「もっとちゃんと食った方がよくない。名字痩せすぎだって」

そんなことないよー、と笑う名字に何かあげるものはないかなとコンビニの袋を漁るとぐんぐんバーを見つけた。本当は日向にでもやろうと思っていたのだけれど。

「名字、これあげる」

そう言ってぐんぐんバーを渡すと驚く名字。悪いし、と返そうとしてきたけれど、食べてくれないと心配なんだってと言うと大人しくなった。

「なあ、名字は明日もここでご飯食べんの?」

「うん、多分。気持ちいいし、人来ないし。あ、菅原君来る?」

「来ようかな。名字寝てたら起こしてやんないとだし」

そう笑うと、じゃあ菅原君が寝たら起こしてあげるよと名字も笑う。

そうこうしている間に名字は昼飯を食べ終えたらしく、ひたすらジュースを飲んでいた。

「ぐんぐんバーってはじめて食べたけど美味しいね」

「じゃあ明日も持ってこようか?」

名字は申し訳ないからいいと断り、そして携帯の時計を確認してそろそろ戻ろっかと言ってきた。
確かにもうすぐ予鈴がなる。

ん、と立ちあがり名字と並んで歩く。

「学ランとぐんぐんバー、ありがとう」

絶対なんかお礼するね、と笑いながら喋る名字に、じゃあ明日から天気のいい日はあそこで食べようかと提案すると嬉しそうに頷いた。

「菅原君とあんまり喋ったことなかったのに、こんなに仲良くなれちゃった。お昼寝して良かったなー」

「俺もびっくりした、誰か寝てると思ったら名字だし」

いつの間にか教室に着き、ふたり一緒に帰ってきたことで教室内が色めきたつ。

どういうことだよー、と俺が男子に囲まれると名字はするりとそこから抜け出した。
そして名字はと言うと、質問責めにされる俺を後目に自分の席についてまた眠り始めたのだった。

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欠伸様へ提出させて頂きました!素敵な企画に参加させて頂きました……!(*'▽'*)
ありがとうございました。
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