短編 | ナノ
ナイッサー、とか。バレーボールの弾ける音だとか。体育館の床の擦れる音も。ピーッと甲高い音で鳴るホイッスル、同時に止むサーブの音。

(これが、武ちゃんの)

休憩に入ったのか、ざわざわと体育館内がうるさくなる。ボールの音はしない代わりに、弁当だー!という明るい声が響いてくる。
体育館から競うように出てきた、背の高い黒髪の子と、綺麗なオレンジ色の髪の小柄な子。
続いて坊主頭の子と、ユニフォームの色が違うからリベロの子だろうか。

部外者である私は勿論彼らの目に止まったようで、ぞろぞろとこちらに近づいてきた。
後から色素の薄い髪の優しそうな子や、がっしりとしたキャプテンぽい子、髪を結ってる大きな子なども。

「あの、バレー部の誰か部員に用事でもありますか?あ、もしかして烏養……坂ノ下さん?」

呼んできましょうか、と言ってくれたのはリベロ(私の勝手な予想だけれども)の子。

「あ、その。武ちゃん……じゃなかった、武田先生いますかっ?」

私のその言葉に。周りの子達がザワリ、と色めき立った。

「あのっ!武田先生とはどういう関係なんですかっ?」

オレンジ髪の子が少し前のめり気味に聞いてくる。他の子もなにも言わないが、それはオレンジ髪の彼が訊ねたことが全てだからだろう。それがわかるのは、皆の目がそう物語っているから。

「え、と。武ちゃんとは……大学のときに、お付き合いをしていて。今はだから、元カノかな?」

そう答えると。
周りの子達はぴたっと動きを止めた。なんで!?と私が慌て出すと、ハッとしたのか背の高い眼鏡の子が声を出した。

「じゃあとりあえず、先生呼んできますから。キャプテン、ちょっとこの場なんとかお願いします」

「ツッキー、俺も行くよ!」

「じゃあ月島、山口、頼むな。えっと……」

「あ、私名字。名字なまえっていいます!よろしくね!」

「名字さんはとりあえず俺達と部室行きましょうか。むさ苦しくて申し訳ないですけど」

キャプテン君にありがとう、と言ってぞろぞろと歩き出す。……皆本当に良い子ばかりだ。武ちゃんは生徒に恵まれてるね。

部室に着いてからは皆の名前を聞いたり、質問されたり。特に、田中君や(やっぱり予想通りリベロだった)西谷君とかからの質問が多い。武ちゃんとの関係は、とか。今日はどうして此処に、とか。
そしてそれを宥めているのが菅原君と東峰君。……よし、だいぶ覚えたぞ。

大体の名前と顔が覚えられたところでがちゃがちゃと扉が開いた。

「なまえちゃんっ?」

「武ちゃん!!」

慌てたように駆け込んできたかつての想い人は少しも変わりなかった。
お人好しそうなところも、優しそうな声も、くるくると変わる表情も。今だってホラ、もう笑顔になったと思ったら生徒達からの質問責めに慌ててる。すぐに謝っちゃう癖はなおったんだろうか。

「……久しぶり、武ちゃん」

生徒達が静かになって武ちゃんはこっちを見た。

「久しぶりなまえ」

今日は急にどうして、と言いたげな瞳。
多分それは可愛い彼の生徒達も思っていることだろうから、答える。

「生徒の皆は知らないだろうけど、実は私も教師です。しかも国語のね。ではここで皆に問題です」

私は今、どこの学校に勤務しているでしょうか!?

「……白鳥沢とか青葉城西とかですか」

影山君の目つきが変わった。……惜しいかなあ。バレー関連なことに間違いはないけど。

「残念、不正解です!正解は、」

常波です、と告げるとキャプテン君の顔つきが変わった。……ああ、君が。

「まあ、別に私はバレー部の顧問では無いんだけどね。ただ、池尻君の担任をしてて。キャプテン君、知り合いでしょ?」

「…………はい。中学で一緒にバレーしてました」

でね、武ちゃん。

「うちのバレー部は所謂弱小ってヤツなんだけど。皆頑張ってるんだ、毎日毎日。だからさ」

「全力でやります」

私の言葉を食い気味に答えたのはキャプテン君だった。
驚いて生徒さん達を見ると、誰一人として気の抜けた目をした子なんていなかった。ギラギラと。貪欲に。勝利をもぎ取ってみせる、と。

(あ……良い、なあ)

「…………ありがとう!」

今日の用事はそれだけなんだー、と言うと、武ちゃんが校門まで送ると申し出てくれた。
生徒の皆も空気を読んだのか本当にお腹が減ったのか、「飯食おーぜー」と散っていく。本当に良い子ばかりだね、武ちゃん。

「大丈夫。私、一人で行けるから、武ちゃんは皆と仲良くご飯してなさい!……ね?」

でも、と言いかけた武ちゃんを遮り、ひらりと扉へ向かった。急いで部室を出る。「いきなりお邪魔してすいませんでしたっ」と大声で叫んだ。駆ける駆ける駆ける。

ああ、彼はきっと。
幸せな日々を送っているね。


「武ちゃん。私ね、結婚するんだ」

帰り道に呟いた言葉は誰に届くこともなく消えていった。
あなたより素敵な人かどうかと言われたら、きっと武ちゃん、あなたの方がはるかに素敵な人。だけど私は幸せになってみせるから、笑顔で祝福してね。良ければ、あの可愛い生徒さん達も一緒に。


*****
ふーる様リクエスト、武ちゃんの元カノさんでした!(*^^*)
大変遅くなってしまいすいません……(><@)
先生で書くのは初めてで、緊張しましたが楽しかったです(〃'▽'〃)
「#お仕置き」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -