「あ、なまえ起きた」 「……ん、おはよ」 朝目を覚ますと、自分の部屋のものではない家具やら景色やらが見えて此処は何処だと寝ぼけ半分の頭で考える。 そして声をかけられたおかげでこの部屋が何処だかを思い出した。 「岩ちゃん、徹は」 「お前の横を見たら分かる」 ちらりと斜め横に目線を落とせばまだ眠っている徹の姿があった。 人の部屋なのに図々しいくらいよく寝てるなあと感心する。とは言っても、ついさっきまでは自分も徹と全く同じ状況だったのだけれど。 「なんかごめんね岩ちゃん。昨日このまま寝ちゃって」 「気にすんなって、もはや今更だろ」 こういう風に三人で誰かの家に泊まることは珍しくない。ただ、だいたいそれは徹の家にお世話になることが多いという話で岩ちゃんの家に押し掛けることはあまりなかった。 この歳になっても普通にこうやって泊まりがけで馬鹿みたいなことが出来るというのも素敵なことだ。この二人は私の部屋にも躊躇いなく入ってくる。普通この歳にもなれば女の子の部屋に入るのは躊躇するものではないのかとも思うけれど。 そんなことを言っても結局気を遣われたら傷つくのだから気にしないことにしておこう。 「着替える」 「おう」 くるりと私に背を向けてくれた岩ちゃんを後目に、昨日着てきたワンピースに着替える。 徹が起きてきたらこれ見られるなあなんて思いながらも迷うことなく着替える。一応皆形式的に着替える時はお互いを見ないようにしているけれど、結局のところ見られたって大した問題ではないのだ。 素早く岩ちゃんのジャージを脱ぎワンピースへと腕を通す。そのまま頭からすとんと柔らかい布が落ちてきて着替えは終わった。 これだからワンピースは便利だ。 「岩ちゃんいいよ。ありがと」 「おう」 そろそろ起こすか、と岩ちゃんは布団にくるまっている徹に近づいた。容赦なく蹴り飛ばす。 「そろそろ起きろクズ及川」 「ぐえ」 奇声を発して徹は目を覚ました。どうやら腰あたりを蹴られたらしく腰に手を当てている。 「おっはよーなまえ、岩ちゃん」 「おせえよ」 「ヒドッ!朝から辛辣だよ岩ちゃん!」 「さっさと着替えよ徹」 「エッなまえまでそんなこと言う!?」 そんなくだらないやり取りを幾つか交わし徹が着替え出すのを待つ。 のろのろと服を脱ぎシンプルなシャツとジーンズに徹が着替えたところで一度落ち着いた。 「……で、これからどうするの?」 「明確なビジョンはない」 「皆でどっか行くー?」 こうやってうだうだと一日の予定を決める。いつも通りのことだ。 さて今日は何処に行くのやらと密かに心を躍らせながら私は徹と岩ちゃんの背中を軽く叩いた。 (行こう、皆でどこか楽しいところへ) ← → |