「あ、ねえ貴大っ」 「……あっれ、なまえじゃん」 珍しく部活のない放課後。久しぶりに早く帰って寝るかな、なんて考えながら靴をとりに部室へと向かっていたところをなまえに呼び止められた。 正式なマネージャーでこそないものの殆どマネージャーとしての仕事をこなしている彼女のことだ。呼び止められたということはなにか部活関係のことで用事があるものだろう、と思い「何?及川?」と聞き返すと、なまえの眉間にしわが寄った。 「なんで徹の名前が出てくるの」 「いやいやアイツ彼氏デショ」 「そうだけど。……そうそう、貴大これから暇?」 部活のことでも及川のことでもなく、まさか自分に用事があるとは思いもしなかったので素直に驚く──確かに中学からの付き合いではあるし、それなりに仲も良い訳だけれど。 「忙しいとでも?」 「ほんと?じゃあさ、一緒にケーキ食べに行かない?」 ケーキ。その言葉に更に驚く。それこそ彼氏である及川を差し置いて彼女と二人で行って良いものなのだろうかと。 俺の疑問を察したのか、なまえは先手を打ってきた。 「徹は別にケーキ好きな訳じゃないから。……こういうのは好きなもの同士で行った方が美味しいでしょ」 今日行く予定のケーキ屋さん、シュークリームの生地新しくなったの知ってる?と悪戯っ子のように笑うなまえ。どうやら俺が断るという選択肢は彼女の中には存在していないらしい。 「あー……行くわ」 「やった、ひとりじゃ行きにくかったの」 ありがとうと笑ってから、善は急げとばかりになまえが歩き出したので自分もそれに習って隣を歩き出す。 横に並ぶと彼女は本当に小さい。自分が平均より遥かに高いというのもあるが。 「なまえって身長いくつだっけ」 「ん?えっと……152?かな、確か」 「で、及川と俺がほぼ一緒くらいでしょ。……32センチ差か」 いつも隣に並んでいるのを見て身長差すげえなとは思っていたがまさか30センチオーバーとは。 岩泉も加えて三人でいるところを見ると尚更のように思うし、よくよく考えれば普段バレー部とともに行動する事の多い彼女は周りから見たらよりいっそう小さいだろう。 「何よ、チビとか思ってる?」 「チビとは思ってないって。ただバレー部に囲まれてると差がヤバくね?」 「…………別に気にしないわ」 機嫌を損ねてしまったかと一瞬ヒヤっとしたがどうやら杞憂だったらしく、なまえはおかしそうに笑っていた。 「どしたん、急に笑って」 「ううん、なんでもない。……ケーキ食べでも身長は伸びないよなあって思って」 ケーキでは伸びないだろうなあ、とぼんやりと考えて、「ケーキじゃ無理デショ」と返事を返した。 ただ、彼女も勿論ケーキで身長が伸びるとは考えていないだろうし、既に彼女の脳内は身長よりもケーキのことでいっぱいだろう。 中学の頃から彼女は甘党だった。 靴変えてくるわ、となまえを下で待たせて階段を駆け上がる。部室に着いたところで急いで靴を履き替えて外にでた。ケーキ屋に向けて気分が上がってるのがわかる。 楽しい誘いを掛けてくれたなまえに感謝しつつ、待たせている彼女の元へと走った。 ← → |