「誕生日オメデト」 いつものように、ソファに座った一静の上に向かい合うように跨がっている──これが私と彼の座り方だ──私の腰に両腕を回しながら、一静はお祝いの言葉を口にした。私はこうやって一静に抱きしめられるのが好きだ。背中側で組まれた一静の両手とか、腕を回したことでより浮き出る鎖骨とか。 部活が忙しい一静の家に泊まるのは久しぶりのことで、しかも私の誕生日に無理矢理予定をあけてくれたという彼の優しさに私は舞い上がっていた。 「ありがとう一静」 「ん」 また短いキスだ。一静はよく短いキスをする。例えばこういう風に会話の途中だとか、食事の間だとか、テレビを見ているときだとか眠る前だとかに。 「これ、プレゼント」 一静は腕をほどきソファにおいておいた箱を手に取った。てっきり渡してくれるものかと思っていたら、綺麗にラッピングされたリボンやら包装紙やらを自らの手で剥がしはじめる。あっと言う間に箱は姿を現し、そして一静は躊躇いなくその箱を開けた。 「ねえ、これって普通、私があけるもんじゃないの……」 「いいじゃん別に。あ、動かないでなまえ」 一静はそう言ってプレゼントを私につけてくれた。随分と華奢なネックレス。私の好きなものを一静は本当によく知っている。 一静はネックレスを付け終え、素早く私の鎖骨にキスを一つ残して顔を離した。 「やっぱ似合う」 「大学にもしてく。ほんと嬉しい、ありがとう一静。大好き」 「是非そうして、で、なまえは松川一静のものだって主張しといて。あんな男子の多いサークルなんか入ってんだから」 「その甘い台詞もセットで自慢しておくよ」 どんなに一静が大人びていても、実際の年齢差というものは埋めようがないものだ。有り難いことに浪人せず現役で大学生になれた私は、今年の春から一静と同じ学校に通うことは出来なくなった。 大学は大学で楽しいけれどやっぱり一静のそばが良いなあ、と思う。寂しいし、不安だ──なんていってもあの及川君を筆頭に男子バレー部は目立つから。一静と同じ学年の子達は兎も角、新しく入ってくる一年生なんかは私の存在など知らないわけで。そう考えて、いつだって私は嫉妬でいっぱいだ。なんて醜いのだろうと思っても止められないのだ。 「……ホント、大学の奴らは俺のことなんて知らないんだから。年下とか出し抜けると思ってる奴多そう」 ムカツク、と一静は言った。だからしっかり彼氏いますアピールしといてネ、とも。 「同じこと考えてた」 「お、なにが」 「私の存在を知らない後輩の女の子たちがいるんだもんなあって」 ムカツク、と先ほどの一静の真似をした。そう、ムカツク。 ムカツクとか似合わねえのな、と一静はクツクツ喉を鳴らして笑い、そしていつものように短いキスを仕掛けてきた。これだけで私のムカツクという気持ちはすとんとおさまってしまう。寧ろ幸せなくらいだ。たくさんたくさんキスをしたら、きっと私は幸福で溶けてしまうと思う。 「ねえ、今日は誕生日なんだからもっといっぱいキスして」 「リョーカイ」 貴方のキスは魔法のキス、ねえほら、早く私に幸せの魔法をかけて |