「まだかなぁー… ファイ先輩…」
学校の屋上。一人の少女が独り言を呟いていた。
ガチャ……
屋上の扉が開く音。少女が期待して振り返る。
「一人で何喋ってんだよ。那梨」
「………白鷺先輩…?」
「えっと…なんのようですか?先輩」
「これ」
黒鋼はポケットから手紙を取り出し、それを差し出す。ピンクの可愛い……―とてもじゃないけど黒鋼には不釣合いな―……既に開封されているただの手紙だ。
「どうして先輩がこれを!!??」
それは紛れもなく奈々がファイ宛に出した手紙だった。内容は…予想がついている人もいるだろうが、愛の告白だった。手紙の内容の中にファイの名前が入ってあったのだろう。下手に『あなたが』なんて書かなくてよかった。勘違いされるのは避けたい。
それにしても、下駄箱を間違えたのだろうか。入れたとき、極度の緊張の中、確認する余裕などなかった事を思い出し、余計に落ち込んだ。
いつまでたってもファイがこないハズだ と、奈々は納得すると同時に顔を真っ赤にして謝った。
「ご、ごめんなさい!このこと誰にも言わないで下さい!」
「いうつもりはねぇが… 気を付けろよ」
「はい…… あの」
「あ?」
奈々は、立ち去ろうとした黒鋼を呼び止める。黒鋼が振り返ると、奈々はいった。
「あの、手伝ってもらえませんか?」
「……なにをだ」
「だから…私の恋を」
「…………」
時が止まったかと思った。それほどまでに両者とも動かなかったが、きちんと時は流れていた。その証拠に、黒鋼の口が動き出す。
「はぁ…? お前…なんで俺なんかに」
「白鷺先輩はファイさんと仲がいいですから。それに、白鷺先輩はもう私の気持ち知ってるので、気軽に相談できます!」
「なっ… お前何言って…」
「黒ぽーん♪やっと見つけたー!」
「野郎…」
「ファイ先輩!!」
黒鋼の声を遮ったのは、奈々の想い人でもあるファイ・D・フローライトであった。誰もが振り返るほどの美形。金髪の髪も、青い瞳も、しなやかな身体つきも、何もかもが奈々を惹きつけた。
「壱原先生が呼んでるよ。黒ポン」
「げっ… あいつかよ」
「あれれ〜?この可愛いこ<は誰?」
「えっ!?わ、私は1-Bの那梨奈々です!よ、宜しくお願いします!」
『可愛い』と言われた事に吃驚した奈々は、いきなり名前を聞かれて途中途中咬みながらも自己紹介をした。
「そっかー。黒ポン。良かったね」
「何がだよ」
「だってこんな可愛いファンのこがいるんだよ−?羨ましいよ」
「あのなぁ。こいつは俺じゃなくてお前の「白鷺先輩行きましょう!壱原先生の所へ!!!!」
自分の体より一回り大きい黒鋼を引っ張る力が、その小さな体のどこから出ているのか不思議なほどの速さで去っていった。
「面白いこだねぇ」
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