ざわざわ…
「人多いね〜 その上暑いしー。魔法が使えれば一気に凍らせちゃうほど冷気放出するくらい簡単なんだけどなー…」
あまりの人込みに、ファイが思わず本音を零す。黒鋼も愚痴を零す。
「っつーか あいつら遅すぎだろ 30分以上経ってんじゃねぇのか?ったく女じゃなきゃぁとっくに引きずり出してんのによ…」
二人の悪態を汗を流しながら聞いている小狼。勿論この汗は暑さによるものではない。奈々達を呼びに行こうと浴衣のレンタル屋に体の向きを変え、歩き出そうとした そのとき。
「ごめん! 遅れた!」
奈々が店から走りながら出てきた。だが、サクラは居ない。
「奈々さん。姫は…」
「あ〜 なんか恥ずかしいみたいだよ サクラー 皆待ってるよー」
「あ… はい」
奈々が呼ぶと、おずおずと出てきたサクラ。月夜に桜の花弁が舞い、星達がそれをよりいっそう美しくしている。そんな浴衣。
薄茶色の髪には大きな三日月の髪飾り。下駄を履いて、浴衣とお揃いの巾着を手に持ち、唇には紅を引いて、いつもより大人っぽくなったサクラ。そんなサクラに小狼はついつい見惚れる。
「あの… ヘン…でしょうか?」
いつまでも見つめている小狼を不思議に思い、サクラは小狼に問う。小狼は慌てて弁解する。
「いえ!その、あの… …綺麗です… 姫」
「!!」
その言葉に真っ赤に染め上がるサクラ。邪魔をしないように、奈々は小狼たちから離れ、黒鋼のほうへと歩いた。
「可愛いねぇ サクラも小狼も」
奈々は 『ね』 と黒鋼の方を向き、同意を求める。
「あ?あぁ…」
黒鋼はそういって視線を小狼達に戻すだけだ。奈々は面白く無さそうに唇を尖らせる。黒鋼の耳が微かに赤いことに気付いた。
「黒鋼… もしかして 照れてる?」
「…………」
声を出さなくても分かる。黒鋼の顔がどんどん赤くなっていく。奈々はそんな黒鋼を愛おしそうに見つめ、手を握った。やっと黒鋼が口を開いた。
「…浴衣似合ってる」
「アリガト」