Visibile ferita

 忘却の彼方で微笑むひとは





「これが聖地カルビオラ……随分変な形してるね。」
カルビオラに無事到着した一行は、目の前に聳え立つドーム状の建物を見上げていた。
じっと建物を見上げていたカイルが、素直な感想を漏らす。


「ドーム状の建物とはな。さすがに十年後だけあって様子がまるで違う。」
「……なあ、妙じゃないか? さっきまであんなに暑かったのに今はやけに涼しいぜ。」
ジューダスの感想に、ロニが返す。確かにロニの言う通り、砂漠越えで疲れ切った体に酷暑は堪えたのだが、ここはその酷暑など嘘のようだ。

「それに見ろよ、ここには砂粒どころか塵一つ落ちてない。」
「まるでここだけ世界から切り離されてるみたいだね……」
ロニが眉間を寄せて足元を窺うと、ナナリーも頷いた。
彼女が言った例えは、案外的を得ているものだとフィアも感じた。

「……誰か来るぞ!」
誰かの気配を感じたらしいジューダスが注意を促すと、それぞれ散って隠れる。
フィアも階段の陰に隠れ様子を窺うことにした。

すると神官たちが集団で階段を下りて行く。

「…ちょうど礼拝が終わったようだな。」
ジューダスが小さく呟いた。
向こう側に一緒にいるロニとカイルが小声で何か話しているのに気付く。神官たちが出て行った理由を考えているのだろう。
全員が降り終わったところで、出て行こうとすると手を誰かに掴まれた。
驚いて振り返ると、ジューダスがフィアの手を掴んでいる。

「どしたのジューダス…」
「静かに、誰か来る。」
ジューダスはフィアの手を離すと、アメジストを光らせたまま柄に手を置いた。
鋭い視線のままにカルビオラへの入り口を睨みつける。

ざ、ざ、
砂を踏みしめる音が聞こえた。神官が戻ってきたのかもしれない。
場合によっては戦闘になることも避けられないだろう。

フィアも剣の柄に手をやると、じっと入り口を見つめた。
しかしそこに現れたのは黒いマントを身にまとった小柄な人物だった。
神殿入り口までやってきたその人物は神殿を見上げると腰に装備していた刀の柄に手を置いた。そしてちらりと背後──つまりこちらを窺う。
フードを頭まですっぽり被っているために顔つきや容姿はわからないが、そのフードの中で色もわからぬ双眸と目が合った気がした。
瞬間、向こうの双眸が驚いたように見開かれたのを合図にジューダスが飛び出して行って相手に斬りかかる。

しかし相手も抜刀してジューダスのレイピアを受け止めた。ジューダスは弾かれるも、瞬時に体勢を立て直して再び相手に斬りかかる。
相手もジューダスを弾き、彼が体勢を整えている間に斧を組み立てて再び斬りかかったジューダスを弾く。


そして困ったように笑んでため息をつき、肩をすくめたのを見て、フィアはひとつの可能性に行き当たった。
まずはジューダスを止めなくては。柄を握り、互いの間に滑り込む。

そしてジューダスのレイピアを受け止めた。予想外の力の強さに驚く。細身の彼からは考えられないほどの力だった。
しかし何とか踏み止まり、ジューダスを止める。


「フィア……?」
「ちょっと待って!」
当然ジューダスは驚いた表情のまま、こちらを見つめた。彼に待ったをかけたフィアは背後の人物を窺うと、行きあたった可能性を確認してみることにする。


「ルナ、だよね……?」
「え、」
驚いたような声が漏れた。カイルからだ。
目の前の人物はくすくすと笑うと、被っていたフードを脱ぐ。そして着ていたマントも取り去ると見慣れた銀糸が揺れた。


「久しぶり、随分捜したよ。」
サファイアを柔和に細めて微笑んだのは、行方の知れなかったルナその人だった。
 

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