Visibile ferita

 紫紺に消えゆく





「え、ちょ、うそでしょ、まって」
衝撃的な展開にフィアの頭は爆発寸前だった。
歴史に名を残すハロルド博士は、男性だったはずだ。
しかし目の前の年端もいかないような幼い少女が、ハロルド博士だと名乗ったのである。


「え…うそ、ほんとに…?」
「うん」
「くだらない冗談はよせ。お前がハロルド博士なわけが……」
驚くカイルにあっさりと返事を返した彼女にジューダスは首を振った。
あの高名なハロルド博士がこんな女の子、といったところだろうか。
信じられない気持ちはフィアも一緒だった。

しかし少女はジューダスの背中を指差してこう言うのである。



「あんたの背中にあるの、シャルティエでしょ?」
「!」
「細身の曲刀で刃渡り67.3cm、柄も含めた全長は81.7cm、重さは2.64kg……柄はシャルティエ自身の手に合わせて若干ふくらみを持たせてる。レリーフに刻まれてるのはジェルベ模様。」
驚いて目を見開いたジューダスを気にすることなく、少女は続けた。
ちなみにサイズの時点で、フィアにはもう、この情報が本当のものなのかどうかわからない。それくらいに綿密なレベルのデータであることは誰でもわかることであった。

「属性は地、主に石や岩などを用いた晶術を使用。あ、初期状態で使える晶術も聞きたい?」
細かいサイズや得意晶術の傾向、刃だけではなく柄の特徴的な部分や刻まれている模様の種類など、フィアは愚か使用者であるジューダスでも把握していたのかどうかのレベルで少女はデータを述べていく。


「そこまで詳細なデータを……」
設計者でなければわからないような詳細なデータまでもが、彼女の頭にはインプットされているらしい。ジューダスも感心したように声を漏らした。
しかし、その声にも少女は嬉しがる様子を見せない。

「把握していて当然よ。設計者なんだから」
知っていて当然。
彼女のその言葉は、今日食べた朝食のメニューを人に教えているかのような自然さがあった。
恐ろしく詳細なデータを他人に教えることは、彼女にして見ればさして特別なことではないようだ。

そのことから考えても、知識は本物に近いだろう。
この時代でいう天才科学者がどれほどのものかはともかく、彼女の知能は現代でも通じるだろう。

「で、でもよぉ! ハロルド博士は男だろうが!」
「あっ! やっぱりそういうことになってるんだ!」
ロニが言ったが、それにもまた斜め上な回答が返ってくる。ナナリーとロニの表情が曇った。
今こいつなんて言った?というロニの心の声まで聞こえてきそうだ。


「いやー、男の名前にしとけばみ〜んな勘違いすると思ったのよねぇ。案の定、みんなまんまと騙されてくれちゃってるわけね!」
少女は嬉しそうに手を重ねて顔の横まで持ってくると、にっこりと笑った。
その恐ろしいまでに無邪気な笑顔に、お手製をボムを持ったフィリアの満面の笑みが重なったような気がする。

(天才ってのは、やっぱりどっか変わり者なんだろな……)
ぽつりと内心そう呟いて、フィアはこの少女がハロルド・ベルセリオス博士なのだろうと確信を持ったのであった。



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