Visibile ferita

 重なる影に手を伸ばす






かつてノイシュタットにあった大企業オベロン社の支部。
十八年前の災厄でオベロン社が消滅した後、金庫に納められていたはずの資産も同じように消えてしまっていた。
しかし男――彼は商人だと名乗った――が調べたところ、秘宝は街の外れにある廃坑に眠っていることがわかったという。
大企業の遺した、遺産とも言えるお宝は貴重で高価なものに違いない。

男の言葉を要約すれば『お礼はするから宝を取って来てくんない』ということだった。



「……」
フィアは黙り込んで愛想笑いを見せる男を観察する。
明らかに怪しい話だ。
そもそもその話が本物だという保証はどこにもないのだから、こちらには何の得もない。
すっぱりと断った方が得策だろうと思い、口を開いたその時だ。
「貴様、どこから嗅ぎ付けた? 彼女の遺言状にしか記されていないことを貴様がなぜ知っている?」
ジューダスが商人に尋ねる。
内容はフィアにはわからなかったが、頭の回転が速く聡明な彼のことだ。
何か策があってこのような発言をしたのだろう。

「い、イレーヌさまの遺言状など私どもは露と存じ上げません! すべて偶然に知ったことでして……」
ジューダスの言葉に焦りを見せた商人は、冷や汗だらだらと言った雰囲気で首を振った。
突然出てきた名前に、フィアは小首を傾げて目を見開いた。
「? あ、あのさごめん、イレーヌって……誰?」
「おかしいな、僕は『彼女』と言っただけだ。イレーヌなどとは一言も言っていないぞ?」
「そ、それは……」
フィアの声は図らずも商人を追い詰める要素になったらしい。畳みかけるようにジューダスも発言する。
確かに彼の言う通りだ。反論の余地はないだろう。

「おいおいジューダス、なにつっかかってんだよ。おっさん怯えてるだろうが。」
「怯えている? 図星を突かれて慌てているだけだろうが。」
ロニが止めるもジューダスは淡々と切り返した。
心なしか彼の纏う空気に怒気が混じっているような気がする。
商人の浅ましさに嫌気が差しているのかもしれない。


「ず、図星などとは言いがかりだ! こんなことなら、この話なかったことに……」
顔を真っ赤にした商人は怒りに任せてそう言いかける。まったく最初から図星を突かれて困ることを他人に頼まなければ良いものを。
「頼んできたのはそっちじゃんよ、こっちはそれでもかまわな」
「わーっ! とにかく、宝を取ってくればいいんだよね!」
反論しようとした矢先にカイルに口を塞がれた。むぐむぐと発言しようとするフィアを抑えて、カイルがそう尋ねた。
商人は渋々と言った様子で頷く。カイルは胸を叩いて満面の笑みを見せた。


「任せてよおじさん、俺たちが必ず宝を取ってくるから!」
あーもー、しょうがないなあ。
胸中でそうぼやいたフィアは抵抗を諦めて、大人しくカイルに口を塞がれたのだった。


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