Disapper tear

 未来の鍵を握る少女






レンブラントやメイドたちに見送られ、ヒューゴ邸を出た一行はダリルシェイドの街中へ出た。
街のアイドル・リオンと客員剣士のアリアが、頭に見慣れない発信機をつけた男女三人を従えて歩くのを見て、街の住人たちはぽかんとこちらを見ては視線を逸らす。


「ちきしょー…見るなよぉ…」
「あたし達は見世物じゃないのよ!」
ぶつぶつと文句を言うスタンとルーティにアリアが苦笑していると、鞘が支えてある紐をくいくいと引っ張られた。


「誰、その子?」
「アリアおねえちゃん。」
ルーティがアリアの腰のあたりを指して首を傾げる。
紐を引っ張っていたのはくるくるとした巻き毛と緑の瞳が可愛い、金髪の少女だった。この少女は下町の、さらに環境が悪い貧民街の生まれで、友人であるカノンが寄付をしている孤児院の少女だ。



「およー、リンカちゃんだ。」
弧を描く口元を隠さず少女の目線に合わせてしゃがむ。くしゃ、と巻き毛を撫でると少女──リンカはえへへ、とはにかんだ。
いつもカノンの後をちょこちょことついて回るこの少女は、彼やアリアの同僚の間でも可愛いだの将来有望だのと評判なのだ。


「アリアおねえちゃん、カノンおにいちゃんは?」
「んーっとね、優しいカノン兄ちゃんは今お出かけしてるんだ。冷たぁーいリオン兄ちゃんなら居るけど。」
アリアがそう答えるとリオンに思いっきり睨まれる。足を踏まれそうだったので、ささっとリオンの近くを離れた。


「リオンおにいちゃん、カノンおにいちゃんはどこにいったの?」
「…カルバレイスだ。」
「あんた…冷たい兄ちゃんね……」
子供に対しての返答じゃないと、ルーティが頭を抱える。それはそうだ、リンカはまだ三歳。
こんな幼い少女が地方の名前などまだ知っているわけがないと思ったのだろう。ルーティのその意見は正しい。


「あついところ?」
しかし、リンカはカルバレイスの気候の特徴をあっさりと答えた。いともあっさりと。スタンが分からなかったとショックを受けている。
さすがスタンの頭、仕官したら行くかもしれないのに世界の地理が入っていないらしい。出身地はフィッツガルドでもノイシュタットの生まれではないことがはっきりした。


「さすがだな。」
「いっつもカノンと本読んでるもんねぇ。」
「わたし、さすが?」
「ああ。」
「えへへっ!」
照れたように笑うリンカを見てリオンも笑んだ。ルーティが顔を真っ青にしている。
いつも眉間に皺を寄せて、容赦なくルーティに電撃を食らわせるリオンと今の彼は大違いなのだから無理もない。



「それでね、アリアおねえちゃんとリオンおにいちゃんにおねがいがあるの。」
そう言ってポケットをごそごそと漁りだすリンカ。それを覗き込むと、リンカはすぐに目的のものを取り出したのか両手で包んだそれを見せた。


「これ!」
二人は差し出されたリンカの小さな手を覗き込む。そこに握られていたのは手作りの、しかしセンスのいいブレスレットだった。


「青だな…カノンに渡せばいいのか?」
「うん! カノンおにいちゃんのぶんなの!!」
「分かった。ちゃんと渡すね。」
「ありがとう。…あ! それとね……」
細い紐に青い石をひとつ通してある。紐も薄い青色で青を基調としたそれはとても美しかった。
リンカから青いブレスレットを受け取りリオンが訊ねると、リンカは大きく頷く。
ウインクするアリアにリンカは満面の笑顔を浮かべ、今度は左右のポケットに両手を突っ込んだ。

「はいっ。」
そしてそのポケットに入っていたものを、アリアとリオンの手のひらにそっと置く。
置かれたのは、カノンへ渡すものとは色違いのブレスレット。きっと昨晩彼女が懸命に作ったのだろう。


「くれるのか?」
「うん!」
「…すまないな。」
「うっそ! お礼言った!!」
「うるさいぞ、少しは黙れ。」
「きゃぁっ!?」
無表情が得意のリオンが、リンカからの思わぬプレゼントに目を見開いていた。
そして頬を染めて頷くリンカに、本来の笑顔で礼を言う。紫色を基調としたブレスレットをすぐに腕に通したリオンは近くで騒いでいたルーティに電撃を食らわして黙らせた。
アリアも同様、赤を基調としたものを左腕に通す。右は剣を振るし、取れてしまう危険があったからだ。
しゃがんでリンカの頭を撫でる。ふわふわした金髪を揺らし緑の目をいっぱいに見開いた少女がこちらを向いた。


ありがとうと小さく伝えれば、少女は嬉しそうにはにかんだのだった。




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