Disapper tear

 深海に沈む





うわぁぁぁぁぁぁ!

スタンの断末魔が聞こえたのは、至極当然のことなのかもしれない。


「……はぁ…」
リオンが溜め息をついた。ご苦労様、リオン。



ハイデルベルグに到着した一行はファンダリア兵に出会った。
そこで街の中を巡回している反乱軍兵士を見る。ハイデルベルグ兵によると街の中は反乱軍の兵士の数が多く、正面きっての突破は不可能だという。

そこでウッドロウが城から落ちる時に使った非常用の通路の存在を明らかにしたのだ。
防衛上の最重要機密では、と言うディムロスにウッドロウは仲間なのだから気にすることはない、と微笑んだ。


そしてその非常用通路を見つけ、ルーティがスタンをけしかける。
わかった、とためらいゼロで勢いよく中へ突入していったスタンだったが、彼の悲鳴が聞こえたのだった。



全員で中へと入る。
そこにいた人物を見てウッドロウが息を飲んだのが分かった。

「ダーゼン、無事だったのか。」
「でっ、殿下!? おう、本物だ! 本物の殿下だ! 間違いない!!」
ウッドロウは、今にもスタンに斬りかからんとしている老人を呼ぶ。
呼ばれた老人はぎょっと目を見開いてウッドロウを見た。

そして釣り上げていた目元を緩ませる。


「生きて再び殿下にお会い出来るとはこのダーゼン、感激ですぞ!」
今にも泣いてしまいそうな老人は、ウッドロウを見てぶるぶると首を振った。
その横ではスタンが胸に手を当てて溜め息をつく。

「ああ、助かった。」
『だからいきなり飛びこむなと言ったのだ。』
「スタン、大丈夫?」
「え、あ、う、うん! 大丈夫だよ!」
ディムロスの声に唇を尖らせていたが、カノンに声を掛けられてしゃきりと背筋を伸ばした。
頬も染まっている。


「鼻の下伸びてるし……」
「恋なんですね……素敵ですー!」
「え、マジ?」
だせー、とぼやくアリアの隣でチェルシーが手を組んでうっとりした。
それに驚きつつ、アリアはちらりとリオンを見る。



「……。」
(……怖っ!)
…そこには鬼がいた。
いつもの無表情が修羅の能面のようになっている。
般若やら鬼やらを背負っているリオンに、アリアは引きつった。


「奥に休憩所がございます。そこで詳しい話を致しましょう。」
そう言ったダーゼンは歩き出す。
それに続いたウッドロウを筆頭に、一行はダーゼンの後を追った。


「……。」
「なあリオン、」
「なんだ。」
「顔、怖いよ。」
「……それは元からだ。」
「殺気出てんの気付いてる?」
「…何?」
リオンがきょとりと目を瞬かせると殺気がしぼんでいく。
そんな彼の様子を見て心から溜め息をつく。



「スタンに嫉妬、してるでしょ?」
「な、何を馬鹿なことを! そんなはずないだろう!!」
「気付いてないの? きっとスタンはカノンのことが好きなんだよ。」

必死に否定するリオンに、気付かせてやることにした。これ以上彼をそのままにしておくといけない。
彼も、カノンも、スタンも……そして自分も。


「そのスタンの気持ちに、リオンは気付いてる。」
「な……!」
「否定しないでよ? だからスタンがムカつく。リオンも、カノンが好きだから。……違う?」
「!」
目を見開いたまま固まったリオン。
それはアリアの言ったことの肯定を意味している。そして、この沈黙は酷くアリアを苛立たせた。



「リオンは……誰が一番大切なの?」
「それは…!」
「そう聞くとリオンはマリアンって答えるけど……本当は自分の気持ちに嘘、ついてない?」
「アリア……」
そこまで言ってはっとした。
リオンが誰を大切なんてアリアには関係ないことだろう。なのに一時の感情で自分はなんてことを聞いてしまったんだ。


「……あ…」
全身の血液がさあっと引いて行くのを感じた。


「…ご、ごめん……何聞いてんだろ俺…。忘れて!」
「お、おいアリア!」
呼び止める声を無視してアリアはスタンを蹴っ飛ばす。



「いったー――!!」
「アリア?」
目を丸くするカノンにひっついた。
驚いていたカノンだったが、泣きそうなのに気付いてくれたのか優しく笑って頭を撫でてくれる。

それにまた涙があふれてきた。



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