Disapper tear

 偽善と善意の間違い探し




「まさか、君がカノンさんだったなんて…」
「そうですね、僕もチェリクを発った後直ぐに気付きました。あの時は知らなかったとはいえ…申し訳ありません。」
「そ、そんなにかしこまらないでくれよ。」

宿に着いて早々、深々と頭を下げる少年──カノンにスタンはおろおろと狼狽えた。
見ればスタンの顔はだらしなく、頬は赤く染まっている始末だ。



「そうだ、カノン。こいつらはそんなに丁寧に接する必要はない。」
「スタンだしー。適当でいいんじゃない?」
リオンの声にアリアは同意する。スタンは頭に石でも落とされたかのような、衝撃的な顔をして固まった。


「それで貴方はなぜチェリクにいたんだ? もしかして私達の協力者として来てくれたのか?」
「はい、その通りです。僕はセインガルド国王陛下直々にバルック殿の元でリオン様をお待ちするように命じられました。」
マリーが宿のベッドに腰を下ろしながらカノンに尋ねる。カノンはマリーに頷くと、胸に手を当てた。
彼の声にフィリアが首を傾げる。


「私達はヒューゴさんから言われて来たようなものですのにカノンさんは国王陛下から?」
「横やりを入れる輩への対策と……戦闘力の増強をご考慮の上で、僕を派遣なさったのでしょう。」
フィリアの質問に、カノンは笑みを崩さず柔らかな口調で返答した。
そんな彼を厳しい視線で見ながらもリオンがでは、と切り出す。



「お前は僕達に同行するのか。」
「はい、微力ながら。神の眼捜索に僕の力をお役立てください。」
微笑むカノンにスタンの頬は紅色に染まった。それにリオンの整った眉が寄る。
スタンにちらりと視線を移すと装置(ビリビリティアラ・アリア命名)のボタンを躊躇い無く、心なしか少量の力と何かしらの念を込めて押した。



「へ? リオン、何でソレのスイッチおし…て……! ひぎゃーっ!!」
「スタン!」
瞬間、スタンがその長髪と同じ黄色い電流に包まれる。
アリアが駆け寄るとぷすぷすと黒い煙を上げてくるくると目を回していた。


「……ねえ、」
「どうしました?」
そんな中、機嫌の悪さを隠しもせずにルーティが口を開く。
呼びかけられたカノンは笑顔のまま振り返った。そして首を傾げる。


「あんたでしょ、ダリルシェイドで孤児院に寄付してるってやつ。」
「そうですが…」
「あんたに会ったらひとつ言いたかったの。それ、やめた方がいいわ。」
『ルーティ…』
「ちょっとルーティ、」
「アリア、待って。」
「でも……」
強い嫌悪の視線を向けたままのルーティはつかつかと歩み寄っていくと、彼を真正面から見据えた。
アトワイトが彼女を止めようと声をかけ、彼女の物言いに思うところがあったアリアは彼女に文句をつけようと一歩出たが、カノンに止められる。

「貧民層を憐れんでお金を恵んであげるなんて、貴族の道楽だわ。お貴族のお坊ちゃんが暇つぶしとしてやってるとしか思えない。」
「ルーティさん……」
「少なくともあたしにはそう見える。楽しい? そんなことして。」
フィリアの声にも耳を貸さない。そしてルーティは赤紫の双眸に強い怒りを宿した。
そんなルーティの目をサファイアが見返す。しかし、その青はどこまでも静かだった。


「…いけませんか?」
「は?」
「寄付をすれば孤児院の子たちや貧民層の人たちは助かる…それは事実です。違いますか?」
「それは…」
「僕は世間体を気にして援助をしているわけではありません。」
線の細い、ともすれば少女のような少年は静かな視線でルーティを貫く。
ルーティは気圧されてしまっているのか強気な表情は作ったままだが、反論できずに黙りこんでいる。

「あなたにどう思われようと、僕には関係ないことです。」
彼女のその様子に、敵意も邪気もないのになぜか恐ろしく感じる微笑みを見せてカノンは言い放ったのだった。


『おいおい、その辺にしとけよカノン。アトワイトが困ってるだろ。』
『その声は……!』
耳慣れた青年の声が耳を打つ。その声はアリアには耳慣れたものではあるが、スタンたちは聞いたことのない声だ。
スタンの腰に下がっているディムロスが、驚いた様子でコアクリスタルを光らせる。


『よ、久しぶり。シャルはそうでもないけど。』
『アーク、なの…?』
『はははっ、どうしたんだよ? そんな驚いて。』
アトワイトの声が震えた。そんな彼女の様子に、カノンの腰に下がっている剣が笑いながらレンズを光らせる。


『ディムロス、アトワイト…それにクレメンテのじじいも起きてるんだから、俺が起きてても不思議じゃないだろ。』
『確かにそうね……』
「……誰だ?」
「? 誰もいないぞ?」
彼とアトワイトの声を聞いてか、スタンが首を傾げた。その様子にマリーが目を丸くする。
え、と間抜けな声を上げたスタンにカノンが小さく笑った。そして腰に下げていた藤色の剣をテーブルの上にそっと置く。


「アーク、」
『おう。初めまして、マスターたち。俺はリュウシュ・ディ・アークエスト。…ま、気軽に呼んでくれよ。』
カノンに呼ばれると、形状がシャルティエに酷似しているその剣はコアクリスタルを光らせた。

「その剣、ソーディアンなのか?」
「そうです。ソーディアン・アーク……彼は、僕をマスターとして認めてくれています。」
『得意な属性は水と光だったかの。人格投射したメンバーの中では一番の若造じゃ。』
スタンの声にカノンが頷く。彼の言葉にクレメンテが付け足した。
その様子を見て、カノンは洗練された様子で頭を下げる。スタンが驚き、目を見開いた。


「僕はカノン…カノン・クルフェレン。皆さま、よろしくお願いいたします。」
頭を上げると絹糸のような髪がぱらりと舞う。サファイアを柔和に細めて、カノンは穏やかに微笑んだのだった。

 


prev / next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -