アウグストの十字架

 7.密談とご挨拶と二十一日目




テニス部と接触してから一週間が経過した。鈴村優菜がこの学校に転校してきてからは二週間が経つ。
今は昼休み。生徒たちが教室内で適当に集まったり、場所を移動したりして昼食をとる時間だ。

「鈴村さん、」
優菜は自分の鞄から昼食を取り出すと、飲み物を買うべく席を立った。
しかしそんな優菜を呼び止める者がいた。右隣に座っている風宮沙令である。彼は事前に買ってきたらしい、パンが入ったコンビニの袋を片手に立ち上がった。

「毎日お弁当なんだね?」
彼は弁当の包みを持った優菜を見ると、人のよさそうな笑みを見せる。小首を傾げるその様は、色白の肌も相まって美しかった。
彼の質問に答えるべく、優菜は頷いて包みを抱き締める。


「ええ、お手伝いさんに作ってもらっているから……風宮さんはいつもパン、ですわね…?」
「うん。作れないわけじゃないんだけど…僕、朝弱くてね。早起きできないんだ。」
「そうなんですか……」
優菜が尋ねると風宮沙令は苦笑いを浮かべる。いつものチェシャ猫めいた食えない笑みとは反対に、人間味のある苦い顔だった。

「鈴村さんは誰かと一緒に食べないの?」
「ええ、誰かと一緒なのも楽しいけど…ご飯は落ち着いて食べたくて……。」
「へえ、そうなんだ。」
風宮沙令はきょとんと目を見開いて誰も優菜を呼びに来ないことを指摘した。
彼の疑問に、優菜も苦笑いをすると肩を竦める。優菜が一人で食事をするのを好むのが意外だったのか、風宮沙令は更に驚いたように目を見開いた。
しかしその驚いた表情も一瞬で消え去る。チェシャ猫のような食えない笑みを見せると優菜の耳に唇を寄せた。


「良かったら一緒にどう? 静かな良い場所知ってるよ。」



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