triste

 嘘をつくのを嫌がる兎






「ここが君の住むところ。その辺のものは好きに使っていいからね。」
「ありがとうございます。……さるとび、さん。」
「あぁ、俺の名前覚えてくれてるのね。ありがとー。」


……こ…、怖い……。
なにがって目の前の彼です。口元は弧を描いているのに、目は笑ってません。

確かに私は怪しい危険人物だから、警戒するのも頷けるのだけど…。
今にも刺されそうな雰囲気だから、私は与えられる情報に頷くしか出来ない。


「あ、そうそう。ねぇ、」
「はい。……!」
肩に手が置かれて呼びかけられる。振り返るとそこにはぎらりと光る手裏剣の刃があった。
彼の目は敵に対する時のもので、私に対して敵意を持っていることは明らか。

「いい?俺はね、君のことを信用したわけじゃない。」
「……。」

低い、威嚇の声。
私の鼓膜を通って、それは脳に染みていく。唇を噛んでその恐怖を打ち消した。


「不用意に旦那、それと大将に近寄らないこと。……いいね?」
「……はい…。」
「ふーん、物分かりはいいんだ。」

頷けば手裏剣を収めてくれたようで、首にあった感触は消える。彼は横目で私を見て、冷酷に笑った。
目元にあった緑色のペイントが小さく歪む。



「じゃーね。あ、それと武器は没収させてもらったからね。」
「え、……あ。」

言われてからいつもの場所を探ると、確かに針がなかった。
爪は元から持っていなかったし、別に構わないのだけれど。



「まあ、仕方ないですよね…。」
さるとびさんが去って行った方向を見つつ、私は広い部屋の中で立ちすくむ。
……ど、どうしたらいいんだろう…。

部屋といっても私は客人ではないから、本当に寝るためだけの部屋を充てられたと思うのだけど。あまり出歩かない方がいいのだろうし…。
つまり、やることがない。この一言に尽きるのです。




「……どうしましょう…。」
畳の上に座り込んで、私は俯いた。

そもそもここはどこなのでしょう。
私はボンゴレ日本支部の私の部屋で眠っていただけなのに、どうしてこんな……日本の戦国時代みたいなところに…?

そういえば…ジャンニーニさんが十年バズーカを改造して異世界バズーカなんてものを作っていたけれど…誰かが私に発射したとか…。


………アルコバレーノなら、あり得る…。だけど、どうして私に……。



「う……、わからない…。」
考えれば考えるほど、分からなくなっていく。とにかく帰る方法を探さなければ。


でも、どうやって?
今はここの人にも疑われているのだから、なかなか心を開いて情報をくれるひとはいないだろう。もしかしたら嘘をつかれてしまうかもしれない。
それだけは避けたい。しばらく…せめて信用してもらえるまでは大人しくしていよう。
……いつまでかかるかはわからないけど…。


「……あら…?」
そんなことを考えていた時、廊下から足音が聞こえる。
何かと思って聞き耳を立てていればドア(確か襖とか障子という名前だったはず)が勢いよく開いた。

「雪宮殿!」
「あ…。」
そこに立っていたのは、真っ赤なレザージャケットが印象的な男の人。
確かさるとびさんが……


「だんな、さん……。」
「だ!?だんっ!?は、は、は、はれん……」
「この馬鹿者がぁ!」
「ぶっ!?」
私の言葉に顔を真っ赤にしていた男の人が、後ろから来ていたらしい大将さんに殴られて、枯山水の方まで飛んでいってしまった。
壁にめり込んだ旦那さんを見て、大将さんは腕を組んでいる。

「精進せい!幸村よ!!」
「は!申し訳ございませぬお館様!!」
「うむ、今のは佐助がそう呼んで…」
「おお!さすがはお館様にございますぅぅぁぁぁぁ!」
「ゆぅきむらぁぁぁぁ!!」
「おんやかたさんまぁぁぁぁ!!」

ど、どうしたら……。
目の前で始まってしまった師弟(?)のやり取りを、私はただ見ていることしか出来ませんでした。

 

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